第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で脚本賞を受賞した「
「脚本のどこが評価されたと思う?」という問いかけに、是枝は「難しいな」と悩みつつ「読み進めても読み進めても、いったい何が起きているのかわからないという本にとてもわくわくしました。演出を任される前提でプロットを読ませていただくと、方法論的にも題材的にもかなり攻めていると感じました。それぐらい自分には書けない本でしたし、ストーリーテリングに無駄がなくて、面白かった。カンヌがどう評価したかはわかりません」と率直に答える。
ひと足早く日本に帰ったという坂元から「たった1人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」とメールがあったことは既報の通りだが、是枝は「僕と坂元さんで『これは誰に向かって書いた』とかみたいなやりとりは一切してないんです。たぶん(プロデューサーの)川村(元気)さんも山田(兼司)さんも聞いていなくて」と述懐。「完成披露試写会の舞台挨拶で、初めて坂元さんから『子供のときに出会った男の子のことを書きました』という話が出て、『そうだったんだ』と驚いたんです。僕は僕で、あまり特定はしたくないんですけど、1人の男の子のために作ろうと思いました」と語る。
「ロケ地を諏訪湖にした理由は?」と尋ねられると、「ネガティブなことを言いたくはないのですが、本当は西東京の話で坂元さんが書かれていたんです。町の中を1本の大きな川が流れているという。その前提で一度ロケハンにいきましたが、東京が撮影に非協力的なんです。(撮影では)消防車を走らせられないと。そこで『長野県、特に諏訪地方に非常に撮影に協力的なフィルムコミッションがあって、川ではないのだけどどうだろうか』と提案してくれた制作部のスタッフがいまして、坂元さんも一緒に見に行きました。町をずっと見て回って『ここで書けますか?』という話をして、『大丈夫です』ということで湖で書き直してもらいました」と事情を説明。「そういうことって1つの縁です。この作品の撮影が長野になって諏訪湖の近くになった。なんとなく引き寄せられてる感じが僕もありますし、たぶん坂元さんもそれはあったんじゃないですかね」とも述べた。
また「坂元さんともう一度組んでやりたいことはありますか?」という質問に対し、是枝は「僕はありますね。坂元さんがどう思っているかは今度聞いてみます。ただ、とてもいいバランスで脚本と演出のタッグを組めたんじゃないかな。お互いのいいところを引き出せたっていうと、ちょっと自分で褒めすぎな気もしますけど、相性はよかったと思います」と期待をあおる。
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本映画祭でクィアパルム賞も受賞した「怪物」は6月2日に東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開される。
宇野維正 @uno_kore
是枝裕和「完成披露試写会の舞台挨拶で、初めて坂元さんから『子供のときに出会った男の子のことを書きました』という話が出て、『そうだったんだ』と驚いたんです。僕は僕で、あまり特定はしたくないんですけど、1人の男の子のために作ろうと思いました」 https://t.co/16ILTyvOWa