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本作は、北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平を主人公にした物語。記憶が薄れていく症状によって、これまでのように生きられなくなった彼が、自身の「これまで」を見つめ直すさまが描かれる。光石が周平を演じ、吉本が周平の元教え子・平賀南、坂井が周平の妻・彰子、工藤が周平と彰子の娘・由真に扮した。松重は周平の旧友・石田啓司役で参加している。
光石は「5、6年前に二ノ宮監督が、僕で映画を撮りたいと言ってくださいました。そのタイミングでたまたま地元・北九州の黒崎に帰ることがありまして、それに二ノ宮監督が付いてきてくれました。街をひと回りして、そのときのことを下敷きに台本を書きますと。それから何稿も筆を進めてくれて、まさか本当に映画になるとは思っていなかったんです。映画の企画はよく流れてしまうものですので、期待していなかったんですが(笑)、本当におめでとうございます」と冗談を交えて二ノ宮を労った。またMCから「地元での撮影はどうでした?」と尋ねられると「とにかく恥ずかしかったですね。自分が子供の頃に遊んでいた場所で演技をするわけですから。小学校のときの同級生が遠くから見ていて、写真を撮ろうとするので、『やめろ! 下品なことするな!』って」と慌てて止めたと笑顔で語る。
北九州出身の吉本はオーディションを回想して「もともと私の役は、愛知から北九州に引っ越してきた設定でした。なのでセリフは本当は標準語だったんです」「でもオーディションでは標準語バージョンと北九州弁バージョンどちらもやらせてもらいました。合格の連絡をいただいてから台本を見たら、セリフが北九州弁になっていてすごくうれしかったです」と喜びをにじませた。工藤と坂井は、周平という人物に考えをめぐらせる。工藤が「由真はお父さんが嫌いというわけでもなく、ただ興味がない。私のお父さんがああいう人だったら嫌なのかどうなのか……」と頭を悩ませると、坂井は「夫婦のあのどうにもならない感じはわかります、光石さんがこっちを絶妙にイラつかせる表情をしてくれました(笑)」とジョークを飛ばして笑いを起こした。
周平の父役には、光石の実父がキャスティングされていることも明らかに。光石が「恥ずかしいの極みで、スタッフに迷惑をかけるのではとヒヤヒヤしました。父は役者ではないです」と話すと、オファーを出した二ノ宮は「本物のお父さんを超える方は絶対にいないと思ったので」と理由を説明。光石の実父と文通をしているという松重は「光石さんより芸能界に向いている方」「素敵なお父様がスクリーンデビューということで、舞台挨拶に来ていただきたかった」と畳み掛けて光石を照れさせた。また周平の古い友達を演じたことに関しては「今のようにインターネットが普及していなかった時代、僕たち九州人は東京に出てくるときは相当気合いを入れて来ていました。15年ぐらいはずっと地元の言葉を標準語に翻訳してしゃべっているような感覚があったんですね。いつの間にかそういうのも忘れていたんですが、光石さんとは地元の言葉でしか話さないですし、あの北九州の空を見て呼吸をしながら芝居をすると、自分が何者でもなかった時代に一瞬にして戻れました」「光石さんがリアルなお芝居をなさるので、それに地元の言葉で答えただけなんですよね」とコメント。対する光石も「2人で読み合わせをしたこともないし、相談もしなかったけど、僕がパス出すとうまくトラップして蹴りやすいところにボールを置いてくれるような感覚で。あうんの呼吸でやらせていただけたと思っています」と応えた。
MCが「劇中すべてのシーンに光石さんが出てくるそうですね」と声を掛けると、二ノ宮は「もともと光石さんのファンでして、今も同じ事務所に所属させていただいています。光石さんが演じる人間を追いかける映画にしたいと最初から思っていたので。本当に楽しく、すべての時間で勉強させていただきました」と述懐する。また第76回カンヌ国際映画祭のACID部門で正式出品作に選ばれたことも話題に上り、光石は「北九州弁がカンヌの地で流れるのが快感です」、二ノ宮は「大好きなキャスト・スタッフで作った特別な映画ですので、素晴らしい環境で上映できるのはありがたいです。カンヌには明日から行ってきます」と期待を膨らませる。
最後は映画にちなんで「人生のターニングポイントは?」というお題も。光石は「16歳のときに『博多っ子純情』という映画でデビューしました。それがなければ役者をやっていないですね。今日は『博多っ子純情』で一緒に主演した横山(司)くんと小屋町(英浩)くんも来てくれています」と言い、会場から2人に大きな拍手が送られた。ほかのキャストも順に答えていく中、松重は「15歳か16歳のときに福岡で映画の大々的なオーディションでありましてね」と話し始め「その映画は『博多っ子純情』って言うんですけどね。そうしたら新聞に『主役の男の子が決まりました、北九州出身の光石研くんです」って出ていたんです。そのときに人生がぎゅっと変わりましたね。『なんで北九州の人間が博多っ子純情をやりよるか!』って」と九州ジョークで会場に爆笑を起こし、イベントは幕を閉じた。
「逃げきれた夢」は6月9日より東京・新宿武蔵野館、シアター・イメージフォーラムほか全国で公開。
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「逃げきれた夢」光石研が地元での撮影に照れる、松重豊とは「あうんの呼吸」 https://t.co/1wsiV0pJ5q 北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平を主人公にした物語。
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