特集上映「映画監督ヤン ヨンヒと家族の肖像」が、5月20日より東京・ポレポレ東中野で開催される。
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「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」はデジタル・リマスタリング版での上映に。ヤン ヨンヒは「家庭用ビデオカメラで撮影した作品がデジタル・リマスタリングで蘇る幸せに胸が震えている。『長く生き残る作品になりますように』と願いながら撮影し編集した。主人公のアボジは亡くなり、ソナとも会えなくなった。しかしあの日のアボジ、あの時のソナを消すことはできない。その一瞬一瞬が歴史なのだから。」と述べる。
また、ヤン ヨンヒが書き下ろしたエッセイ「カメラを止めて書きます」が4月30日に発売されることが明らかになった。家族ドキュメンタリー映画3部作のビハインドストーリーがつづられている。
「映画監督ヤン ヨンヒと家族の肖像」はポレポレ東中野で開催後、大阪・第七藝術劇場、京都・京都シネマ、愛知・名古屋シネマテークほか全国で順次開催される。
映画監督ヤン ヨンヒと家族の肖像
2023年5月20日(土)~ 東京都 ポレポレ東中野ほか
<上映作品>
「ディア・ピョンヤン(デジタル・リマスタリング版)」
「愛しきソナ(デジタル・リマスタリング版)」
「スープとイデオロギー」
ヤン ヨンヒ メッセージ
1995年、小さなビデオカメラを買い家族を撮り始めた。照れながらも撮られることを楽しんだ母、3年間カメラから逃げ続けた父。そんな大阪で暮らす両親とは対照的に、ピョンヤンで暮らす甥っ子たちや姪っ子は生まれて初めて見るビデオカメラを不思議がり「音も入るの?」と逆にレンズからカメラの中を覗き込んだ。価値観の違いからよそよそしくなっていた両親と私との間で、全く違う社会制度で暮らすピョンヤンの家族と私との間で、オモチャのようなビデオカメラが素晴らしい仲介役として機能し家族を繋いでくれた。
私は東京とニューヨークで暮らしながら、大阪とピョンヤンに住む家族を撮り続けた。兄たちと生き別れになった喪失感を埋めるため、両親の人生の選択の理由を知るためであった。自分が選んでもないがしかし背負わなければならない出自たるものと向き合い、凝視し、解剖し、その正体を知りたかった。家族を傷つけることを承知の上で挑んだ映画制作だったが、家族の愛情に支えられた協力なしでは実現しなかったのは言うまでもない。
最初は「ディア・ピョンヤン」の完成だけが目標だった。撮影時のデスパレートな自分を思い出すと、その大胆で怖いもの知らずのような積極性に笑いが込み上げるほどだ。そしてスピンオフのように誕生した「愛しきソナ」には、言葉足らずながら吐き出さずにはいられない切なさが漂っている。
「ディア・ピョンヤン」(05)と「愛しきソナ」(09)の制作過程で新しい目標が生まれ、「かぞくのくに」(12)と「スープとイデオロギー」(21)に繋がった。更なる目標に向かって歩もうとする今、デジタル・リマスタリングされ蘇った「ディア・ピョンヤン」と「愛しきソナ」を届けられることに心から感謝している。ヨチヨチ歩きな映画監督が地べたを這うようにつくった作品を、寛大な心持ちで楽しんで頂きたい。
荒井カオル(プロデューサー)メッセージ
ヤン ヨンヒ監督に頭を下げて謝罪した日
韓国郊外を散歩中、ヤン ヨンヒ監督が発した言葉を聞いて頭が真っ白になった。「『ディア・ピョンヤン』と『愛しきソナ』のデジタル・リマスタリングをやりたい」。費用はいくら必要なのかと尋ねると、最低でも1000万円はかかると言う。私財を投入して制作した「スープとイデオロギー」が完成した直後の私に、貯金はビタ一文残っていない。「個人の力でやれることには限界がある」と弱気な言葉をつぶやき、黙って下を向いてしまった。
2021年9月、映画「スープとイデオロギー」が韓国の映画祭で初公開された。パンデミックの真っ最中であるにもかかわらず、熱狂的な観客で映画館は埋め尽くされた。ワールドプレミアの初上映を、あのパク・チャヌク監督が観に来てくださった。上映後、控室に居残って3時間も映画談義を続ける監督の姿にのけぞった。
別の日には、俳優のキム・ユンソク氏やヤン・イクチュン氏が来場した。「ディア・ピョンヤン」を何十回も観ているというキム・ユンソク氏は、「ヤン ヨンヒ家族ドキュメンタリー3部作」について、なんと5時間もトコトン語った。挙げ句、アボジ(父)のセリフを暗誦までしてみせた。ヤン監督の映像作品が、名監督や名俳優の魂に突き刺さっている事実に驚愕した。
「弱気は最大の敵」が自分のモットーであったはずだ。いつの間にか私の魂は、弱気にすっかり食い破られていたのかもしれない。その日の晩、私は居住まいを正してヤン監督に深々と頭を下げた。
「戦う前から『個人の力でやれることには限界がある』と不戦敗を宣言してしまい、とんだ心得違いだった。申し訳ない。資金調達は僕が引き受ける。これからたくさん原稿を書いて資金を稼ぐから、心配しないで作業を進めてほしい。デジタル・リマスタリングをなんとしても成し遂げよう」
それから幾多の困難を乗り越え、プロジェクトはゴールした。映画を通じて、観客はアボジとオモニ(母)に、いつでも何度でも出会える。人は死して死なず。アボジとオモニはスクリーンの中で永遠に生き続ける。ヤン一家の姿を目撃した観客が何を感じ、どんな表情をまとって映画館から出てくるのだろう。映画館でその様子を眺めるのが、今から楽しみでたまらない。
ヤン ヨンヒの映画作品
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