ドラマシリーズ「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」より、監督を務めた
本作は仲良し3人組の人生を一変させた30年前の事件を軸に、そのときに葬り去られていた嘘と秘密に翻弄される一家の姿を描いた物語。ドランが「トム・アット・ザ・ファーム」に続いてミシェル・マルク・ブシャールの舞台を映像化した作品で、脚本・製作・出演も兼任した。
ドランはノートの中で、ここ10年におけるテーマを選ぶ際の心境の変化や、ホラー・スリラーといったジャンル映画への思い入れを告白。また原作となる舞台の観劇を振り返り「まさに自分のやりたいことが目の前に繰り広げられていると思いました。ミステリーとホラーが融合した家族ドラマを観ながら、1時間もたたないうちに私はすでにこの物語のシリーズ化をイメージしていたのです──舞台で描かれているすべてのエピソードや過去と現在の結び付け方をスクリーンでどう描けばいいのか思い描いていたのです。さらに結末に大きな衝撃を受け、自分の次回作にこの作品以外は考えられないと確信したのです」とつづっている。全文は下記に掲載した。
全5話の「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」は、Amazon Prime Video「スターチャンネルEX」で2月24日より毎週金曜日に1話ずつ配信。BS10 スターチャンネルでは3月6日より毎週月曜23時にオンエアされる。
グザヴィエ・ドラン ディレクターズノート全文
私はずっとジャンル作品が大好きでしたが、これまではどちらかといえば母親と息子の親子関係、家族間の確執、疎外された人々といったテーマを中心にしてきました。人は自分が知っていることを描くものだと言われますが、10年の月日を経て、私自身も変わっていくのを感じていました。
ですから、性的暴行を受けた1人の少女が30数年後に家族のもとを訪れる姿を描いたミシェル・マルク・ブシャールの舞台「La nuit où Laurier Gaudreault s’est réveillé(原題)」を観劇したとき、まさに自分のやりたいことが目の前に繰り広げられていると思いました。ミステリーとホラーが融合した家族ドラマを観ながら、1時間もたたないうちに私はすでにこの物語のシリーズ化をイメージしていたのです──舞台で描かれているすべてのエピソードや過去と現在の結び付け方をスクリーンでどう描けばいいのか思い描いていたのです。さらに結末に大きな衝撃を受け、自分の次回作にこの作品以外は考えられないと確信したのです。
子供の頃に観ていたティーンドラマや初めて一人暮らしをしたアパートで貪るように観ていた数々の映画の中でも、ホラーやスリラーはいつも私を夢中にさせてくれました。折に触れて自分も思い切って挑戦してみようかと思いましたが、当時の自分はまだ一歩踏み出す自信を持てずにいました。
しかし2011年、喪失の悲しみを機に出口の見えない世界に身を置くことになった青年のサイコセクシャルとストックホルム症候群を描いたブシャールの別の舞台「トム・アット・ザ・ファーム」を観て──私はついに舞台作品の映像化を決意しました。この舞台作品がまだ新人の私の挑戦を後押ししてくれたのです。まさにジャンル作品との出会いが私の人生を決める瞬間になりました。これ以後、私は再び映像化の機会を模索し続けていました。そのためミシェル・マルクの別の舞台作品を手がけるというのは当然の流れのように思えました。
「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」はホラーとスリラーの要素が強く出ているように見えますが、ヒューマンドラマも描かれています。ラルーシュ家の幸せだった日々、憂鬱な日々、過去のいくつもの過ち、彼らの行く末を決めることになった数々の出来事がつづられています。登場人物たちがこれまで頑なに守ってきた秘密が暴かれることによって、闇に包まれていた悪夢もよみがります。それは夜見る夢などではなく、彼らの心の傷をえぐり出し、たとえ明るい日差しの中にいても容赦なく付きまとう悪夢なのです。
このドラマには、人間の暴力性のほかに、逆境、恥、憎しみなどに直面したとき、それらに屈したことで受けた惨い扱いなどが描かれています。しかし大部分に描かれているのは、我々もかつては子供だったこと、そして、惨い扱いに直面しどんな大人になったのかということです。そこには真実から目を背けるために受け入れてしまった歪んだ依存心、嘘、誤った信念などが描かれているのです。
みずいろ @mizuiro_sama
わ〜観なければ https://t.co/OEuOHkPrJe