第23回東京フィルメックスのメイド・イン・ジャパン部門に正式出品された「
本作は見知らぬ街を訪れた女性が河原で水切り遊びをしている男性と出会い、たわいのない遊びの時間を過ごす1日を描いた物語。東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作として監督した初長編「ブンデスリーガ」が、PFFアワード2017に入選した太田の長編2作目となる。登場人物に名前は当てられておらず、小川が主人公の女性、加納が仕事帰りに河原で水切りをする男性を演じた。編集には「夢半ば」「ケイコ 目を澄ませて」の公開を控える大川景子が参加。ミュージシャンの
上映前の舞台挨拶で小川は、観客や映画祭への感謝を述べつつ「ぜひ五感を研ぎ澄ましてご覧いただきたいです」とコメント。ドキュメンタリー映画「沈没家族」の監督として知られ、太田とはPFFアワード入選同期の加納は「精一杯楽しく演技をできたのは、太田監督や小川あんさん、ほかのスタッフ・キャストの皆さんのおかげです」と話しつつ「すごくゆったり1つひとつのことに丁寧に向き合ったからこそ、いい映画が生まれたと思います。104分のゆったりした時間を皆さんにも感じてほしいです」と思いを述べた。
上映後のQ&Aには太田が出席した。映画のアイデアが生まれたのは3年前。友人であり、本作の撮影を務めた深谷祐次、録音を担った坂元就と長野へ旅行したことが起点にあるそうで「いわゆる観光地ではなくて、本当にただ自然がある場所でした。早々にやることがなくなって、この映画と同じように川沿いを歩くことにしたんです。気付いたら1人が石を拾っていて、それに釣られるように、みんなが石を拾い始めた」と述懐。お気に入りの石を探す時間が自然発生的に生まれ、気付いたら日が暮れるほど夢中になっていた中、友人の1人が石を落としてしまい、もう暗くなっていたため見つけるのをあきらめる出来事があったという。
太田は「翌朝、自分は早く目が覚めたので、1人で友人が落とした石を探そうと川辺に行きました。その場所は夜と一変していて、朝日に照らされ、石が無限にあるように思えた。これは見つけられるわけがない、そもそも目つけたところで何になるんだ、と。その途方もない無意味さに、なぜか心震えて。そのとき映画でもって個人的な体験を見つめ直す、この実感を確かめたほうがいいんじゃないかと思いました。そこから『石』と『川』のキーワードが生まれて、シナリオを書き始めました」と振り返る。
ロケ地となったのは、神奈川の西方を流れる酒匂川。小川と加納が演じる2人は互いに詮索もせず、目的もないまま、河原を歩いて川上に向かい、やがて、なくしてしまった石を探そうと来た道を引き返す。2人が砂山を崩したり、枝を運んだりする独自の遊びは事前に脚本に書いておらず、太田は「僕らが実際に川で石を見つけたように、撮影現場でも発見したかった」と回想。河原という状況に置かれた2人が、目の前の自然に対応する中で生まれた遊びを映画に取り入れていった。そして見知らぬ他人同士だからこそ、いつ別れてもおかしくない2人の微妙な距離感を、ささいな感情のやり取りで見せていく。映画の大半を占める河原での行きつ戻りつは、9日ほどかけて撮影。陽が短いため朝8時頃から始めて15時前には終わる、ゆとりを持った撮影だったという。
画面比率を4:3のスタンダードサイズにした意図を問われた太田は「横に広い16:9だと、2人をずっと2ショットで撮れてしまう。4:3だと狭いので、カメラが2人の間を行ったり来たり、どちらを撮るか選ばなきゃいけない。カット割りや画の寄り・引きの選択だけじゃなくて、長回しの中で何を見せるかを大事にしました」と回答。参考にした映画はないそうだが、影響を受けた存在として「断片的なものの社会学」といった著書で知られる社会学者の岸政彦の名前を挙げ「このシンプルな物語は本当に映画になるのか?この圧倒的な無意味に価値はあるのか?という思いを支えてくれたのは岸政彦さんの本。定期的に読んで勇気をもらっていました」と話した。
いつ映画になった実感を得たか問われると、「今、ですかね(笑)。大勢の人に観てもらえて、やっと映画になったと思います」と吐露。「ただ撮影でも『面白いものが撮れたぞ』と思うことはありましたし、編集でも撮影と同じぐらいの喜び、発見があった。『これは映画だぞ』という思いを、今日やっと迎えられてうれしいです」と胸をなでおろす。最後には、会場に駆け付けたスタッフ、キャストを1人ひとり紹介し、Q&Aの幕を閉じた。
「石がある」の配給はまだ決まっておらず、劇場公開は未定。
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