濱口竜介と深田晃司がミニシアター・エイド基金の軌跡を振り返る、のんも思い明かす

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ミニシアター・エイド基金 トークライブ「日本映画の共助に向けて ミニシアター・エイドのバトンの行方」が、8月17日に東京・銀座ブロッサムで行われた。この記事では第1部の模様をレポートする。

左から濱口竜介、深田晃司、のん。

左から濱口竜介、深田晃司、のん。

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ミニシアター・エイド基金 トークライブ「日本映画の共助に向けて ミニシアター・エイドのバトンの行方」第1部の様子。

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全国の小規模映画館を支援するため、濱口竜介深田晃司が発起人となって立ち上げたミニシアター・エイド基金。2020年4月13日にクラウドファンディングがスタートし、4月15日に目標金額の1億円を突破してからは、さらなる劇場支援のため3億円のストレッチゴールを設定していた。最終的に集まった3億3000万円を超える支援金は、118劇場103団体へ分配された。1団体あたりの平均額は約303万円だ。

イベントは、ミニシアター・エイド基金の軌跡を振り返る第1部、今後の日本映画の展望を語る第2部、質疑応答の第3部という構成で進行。MotionGallery代表の大高健志、プロデューサーの岡本英之、高田聡、そして濱口、深田らミニシアターエイド運営事務局のメンバーに加え、第1部のトークゲストとして女優・創作あーちすとののんが出席した。

濱口竜介

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本プロジェクトが立ち上がることになったきっかけは、愛知・名古屋にあるシネマスコーレの副支配人・坪井篤史のインタビュー記事だ。2020年3月30日に掲載されたこの記事を読み、当時の現場を知った濱口が動き出した。濱口は「1週間の動員数がかつての1日にも及ばない。この状況が3カ月も続けば経営はアウト。コロナ禍でお客様に来てほしいとは言えない。そんな状況を知ることがなかったら、ミニシアター・エイド基金は立ち上がることはなかった」と話す。

深田晃司

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シネマスコーレを例に、全国のミニシアターが危機的状況にあると感じた濱口は、同年4月2日に深田と連絡を取った。深田は「すぐさまクラウドファンディングでミニシアターを支援できないか考えました。それから大高さんたちと合流して4月13日にクラウドファンディングをスタートさせたんですよね」と振り返る。

大高健志

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当時、全国のスクリーン数約3600のうちミニシアターが占める割合はわずか200程度で、ミニシアターでかけられる映画の本数は全体の4~5割近く。濱口は「絶対的に少ないスクリーン数で多様な鑑賞体験を支えているのがミニシアター。ここが崩れると、日本の映画の多様性が損なわれてしまう。クラウドファンディングは緊急策としてスタートさせましたが、初日に3000万円を超える支援が集まったのは我々も驚きました」と語る。大高は「当初、目標金額の1億円は集まるのかと不安視していましたが、結果的に3億円もの支援金が集まった。映画ファンの熱い思いに我々も励まされました」とコメントした。

イベントではシネマスコーレ副支配人・坪井からのビデオメッセージが上映された。坪井は支援の感謝を述べるとともに「100%に近い動員を目指して毎月プログラムを考えたり、全国のミニシアターはがんばっていると思います。これからは自分たちの力で劇場を守っていきたい。お近くのミニシアターにぜひ足を運んでいただきたいです」と述べる。濱口は「『自分たちの力で』なんて言うなよ」と、今後もともに歩む意志を示した。

深田晃司

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また募集はすでに終了しているが、クラウドファンディングのページは現在も閲覧が可能だ。そこには支援者からのミニシアターに対するさまざまなメッセージがつづられている。濱口は「映画は映画館という空間で観ることで体に残り、その人の人生を支えるもの。そう思えることがこんなに可視化されたことは今までになかった。同じ思いをされている方がこんなにたくさんいるんだと。我々も映画に支えられています。改めて感謝をお伝えしたい」と述べる。深田は「ミニシアター・エイド基金は皆さんのおかげで最大の効果を生み出すことができた。ですが、ミニシアターや映画業界が抱える問題が完全に解決したとは思っていません。閉館に追い込まれたミニシアターもありますし、労働環境やハラスメントといったさまざまな問題があります。それらに対し、毎回皆さんにお世話になるわけにはいかない。このプロジェクトから始まったバトンの行方を考えていきたい」と続けた。

のん

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ここからのんが登壇し、濱口・深田とトーク。ミニシアター・エイド基金を通して支援を行ったのんは「『この世界の片隅に』もミニシアターから始まり、ミニシアターでしか上映できない、ジャンルに縛られていない作品たちがある。それを届ける場所がなくなってはダメだと思い、応援させていただきました」と明かす。

左から濱口竜介、深田晃司。

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のんが脚本・監督・主演を担当した「Ribbon」では、コロナ禍で表現の自由を奪われた美大生がアイデンティティを取り戻すさまが描かれた。深田は「コロナ禍のリアルとまっすぐに向き合った映画。時代の記録として残すべき作品だと思いました。“不要不急”と言われてしまうアイデンティティも含まれていて、さらにユーモアも失われていない」、濱口は「脚本に核の部分がある。描かなくてはいけない部分がちゃんと形にされていて、そういう映画は少なくて驚くべき才能だと思います。自分で自分のいい顔を撮れるのもすごい(笑)」と絶賛する。のんは「不要不急じゃないんだと言いたいけれど、誰に言っていいか、言ったところでどうしたらいいかわからない。悔しいんだけどぶつけどころがない気持ちを脚本に落とし込みました」と制作を振り返った。

のん

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最後にのんは「芸術って仕事ではなく遊びとして見られている。コロナ禍で、ここぞとばかりに『本当に必要なのか』と論じられて……。私は映画やアートを見てきたから、こうして生きているんだと、そんな思いを『Ribbon』に込めました。ミニシアターがなかったらこの作品は上映できなかったと思います。また自分は“作る人”なんだと自覚が芽生えたので、次も題材を見つけて作りたいな。演技は大好きなので、一生現役でやっていきたい」と語った。

なお本イベントは8月19日に京都大学 吉田キャンパスでも開催。濱口らミニシアター・エイド運営事務局メンバーのほか、ゲストとして俳優の井浦新、中島歩、映画監督の是枝裕和が登壇する予定だ。

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坪井篤史 @tsuboiatsushi

コメント映像流していただきました。このレポート読むといろんなことがまだまだあるけど、やっぱり自分はミニシアターが大好きでこれからも頑張ろうと強く感じます。濱口さん、深田さん、皆様、本当にありがとうございます。 https://t.co/oQJLF4lJ2P

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