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本作は、1894年にフランスで起きた“ドレフュス事件”を題材とした物語。スパイ容疑で終身刑を宣告されたユダヤ人大尉ドレフュスの無実を示す証拠を知った中佐ピカールが、隠蔽をもくろむ国家権力に抗うさまが描かれる。
ドレフュス事件を映画化しようと思ったきっかけについて、ポランスキーは「“冤罪をかけられた男”というのは話として魅力がありますし、反ユダヤの動きが活発化している現代にも通じる問題です。まだ若かった頃、エミール・ゾラの半生を描いたアメリカ映画でドレフュス大尉が失脚するシーンを見て、打ち震えました。そのとき、いつかこの忌まわしい事件を映画化すると自分に言い聞かせました」と語る。
ポランスキーは「ドレフュス事件を取り上げると言うと、誰もが好意的な反応をしました。しかし、実際にどんな事件なのか知っている人は少なかった。実態が知られないままに、みんなが知っていると思ってしまっている歴史上の出来事の1つです」と述懐。そして「7年前に企画を話したとき、アメリカの支援を受けるには英語での制作が必須と言われました。でも、フランスの軍人たちがそろって英語を話す姿は想像できません。リアルさを再現するためにフランス語でこの映画を作りたかったんです。それから、2018年にプロデューサーからフランス語での制作を打診され、ついに撮影をスタートすることができました」と振り返った。
「今日における新しいドレフュス事件は起こり得ると思うか」と質問されると、ポランスキーは「現代のテクノロジーでは筆跡鑑定の不備で有罪になるようなケースはあり得ないでしょう。昔は軍隊が無限の権力を持っていましたが、もはや神聖な存在などあり得ません。今日の私たちは軍隊を含めすべてに対して批判することを許されています」と回答。「しかし、別の事件が起こる可能性は十分あります。冤罪、ひどい裁判、腐敗した裁判官、そしてソーシャルメディア。事件が起こり得る要素はすでにそろっています」と続ける。
また「私にとってこの映画はスリラーです。ピカールの主観的な視点で語られている。観客は彼とともに捜査を進めている感覚になります。また、重要な出来事やセリフの多くは、当時の記録から事実を忠実に描いています」とコメント。本作が自身にとってのカタルシスのようなものになったか、と問われると「いや、そんなことはありません。私の作品はセラピーではないです。ただこの映画で描かれている迫害の多くを知っていことは認めざるを得ないし、それが私を奮い立たせたのは事実です」と答えた。
「オフィサー・アンド・スパイ」は明日6月3日より東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国でロードショー。
堀 茂樹 @hori_shigeki
『オフィサー・アンド・スパイ』(この邦題については、下記のスレッド全体をご参照下さい)を鑑賞しました。ドレフュス事件の全貌ではなく、ピカール大佐に焦点を当てた映画でした。小細工や思わせぶりのない、抑制の効いた演出・演技・映像が見事でした。台詞のフランス語の重厚さにも感心しました。 https://t.co/e2pPSG3wyE