フランス現地時間5月26日、第75回カンヌ国際映画祭で「
自らの手で育てられない赤ん坊を匿名で預けられる“赤ちゃんポスト”をきっかけに出会った人々の旅路を、
コンペティション部門に出品された本作。2200席の会場が満席となる中、大きな拍手に迎えられながら、レッドカーペットイベントを終えた是枝とキャストがにこやかに入場し、上映が始まった。上映中は登場人物たちの一風変わった旅路に笑いが起こる一幕も。終盤ではすすり泣く音も聞こえた。
上映が終わってから起きた12分のスタンディングオベーションを受け、肩を組みたたえ合う是枝、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン。イ・ジウンとイ・ジュヨンも是枝と目を合わせほほえみ合い、場内を見上げて手を振り満面の笑みを見せる。コメントを求められた是枝は「こんなにたくさんの拍手で迎えてくれて本当にありがとうございました。コロナの中で、すごくチャレンジングなチームだったと思うのですが、本当に一体感のある現場でスタッフ、キャストが一丸となって作り出した映画をここで皆さんへ届けられたことをとてもうれしく思っています」とスピーチした。
囲み取材にて観客のリアクションについて聞かれると、是枝は「かなり笑い声が起きていたので、現場で感じていたことがどのくらい字幕で伝わるかは不安だったのですが、大丈夫だったなと思いました」と手応えを感じた様子。「ソン・ガンホさんは『本当にいい映画になった、撮っているときにはこんなに感動的な映画になるとは思っていなかった』と言ってくれました。編集をがんばってよかったなと思えました」と安堵する。また、上映中に隣のソン・ガンホと手を握りあったそうで「笑い声が起きたところでお互いに手を探り合ったんです」と笑った。
「ベイビー・ブローカー」は韓国映画だが、どのように俳優たちを導いたのか聞かれると、是枝は「やることはそれほど日本と変わらないです。本読みをちゃんとして、みんなで違和感のあるところで意見を出し合って。役に対する自分の意見を手紙で伝えて、質問をもらって、撮影が始まってもそのキャッチボールを続けていくという作業ができたのがよかったです。脚本も後半の3分の1は決定稿を出さずに撮らせてもらいました。韓国では異例中の異例でしたが、それを受け入れてもらって、撮影の途中で書き直した脚本をキャストさんにも読んでもらって、そのたびにソン・ガンホさんが感想を言いに来てくれて。そういうことを重ねてたどり着いたラストだったので、そういうのがうまくいったんじゃないかなと思います」と答える。
そして「今回のキャストさんは素晴らしいですが、日本の役者さんも決して負けてはいないと思います。日本のトップの方たち、例えば役所広司さんや安藤サクラさんは一緒にやって学ぶことが非常に多いですし。日本での企画もきちんと動かしています。海外で撮ったことをどう日本での映画作りにフィードバックして何を変え、何をそのままでいいとするのか、持ち帰りたいと思っています」と今後に目を向けた。
「韓国の俳優はトップからボトムまでレベルが高い気がするが」という質問には「演技の訓練を積んでますからね。その素養があるというのは大きな違いだと思います。それはフランスも同じ。ただ僕みたいに、役者じゃない人をキャスティングしたり、演技経験のない子供で映画を撮ったりしていると、必ずしも訓練を積んでいるから面白いというわけでもないことがわかります」とコメント。「それに日本の中で訓練を積んでいないのは役者だけではないし、僕も含め、監督も訓練を積まないといけないと思う。海外の監督はきちんと技術を学んで監督になっています。僕自身を含め、コミュニケーションを取る言葉や技術を身に着ける必要があると思います」と続けた。
授賞式が行われるのは現地時間の28日。是枝は「今回は上映までが長かったので、星取などともまったく無縁のままここに来ています。終わりまで気持ちがザワザワしたりせず、そのままクロージングまでいけるのではないかなと思っています」と心境を明かした。
「ベイビー・ブローカー」は6月24日より東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国でロードショー。
tAk @mifu75
【イベントレポート】是枝裕和、「ベイビー・ブローカー」上映中にソン・ガンホと手を握り合う https://t.co/4CilF08ZNp