清水宏による戦後直後の独立プロ作品、「発掘された映画たち」で約74年ぶり上映

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国立映画アーカイブが新たに発掘・復元した映画を紹介する上映企画「発掘された映画たち2022」が5月3日から22日にかけて開催。本日4月20日に記者発表会が東京・国立映画アーカイブで行われた。

「発掘された映画たち2022」プログラム表紙

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国立映画アーカイブ館長の岡島尚志。

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国立映画アーカイブ主任研究員の大傍正規。

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1991年の初開催から11回目、4年ぶりの開催となる「発掘された映画たち」。まず館長の岡島尚志は「国立の映画のアーカイブである本館にとって、もっともその名にふさわしい企画」と述べつつ「なぜ映画の保存や発掘・復元が必要なのか。そうしたことが世界中でもなかなか理解されていない」と現状を指摘しながら文化的、歴史的、芸術的な側面での重要性を説いた。従来の日本映画史を更新し、光を当てられてこなかった映画作品の再評価へとつなげる役割を果たす同企画。主任研究員の大傍正規は「ある1本の映画フィルムがいつ、どこで、どういったお客さんに観られてきたのか。初めて公開されたときの形をいかにして再現するか。そういったことを考えて番組を作っています」と趣旨を明かした。

「紅葉狩」赤染色版

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「発掘された映画たち2022」では計58の作品を19プログラムにて上映。最初の目玉は、日本人によって撮影された現存最古、1899年の日本映画である「紅葉狩」のデジタル復元・最長版だ。同作は2009年に国の重要文化財にフィルムとして初めて指定されたものの、そのフィルムは時代を30年近く隔てた1927年製のものだった。今回、映画史家の本地陽彦が赤染色版「紅葉狩」の35mm可燃性ポジを発掘。複製されるたびに画質が落ちるフィルムが1927年製のものと比べ極めて良好な状態であること、米イーストマン・コダック社が1916年以降にフィルムへ刻印を始めた製造年などのコードが見られないことなどを理由に、より1899年に近い年代に作製された現存最古の「紅葉狩」のフィルムと同定した。特集では欠落部分を1927年製のフィルムで補った7分の最長版が上映される。

「狂った一頁」

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続く注目作は衣笠貞之助が小説家の川端康成を脚本に招き、1926年に発表した「狂った一頁」の青染色版。本作は妻が入院する精神病院で働く男の目を通して、その非日常的な世界を斬新な映像表現の数々で描いたアバンギャルド映画として知られる。フィルムは1971年に発掘されたのち、衣笠本人の監修によって79分から59分に短縮され、音楽を付けた白黒のサウンド版として公開されていた。このたびオリジナルのフィルムを調査したところもともと青い染色が施されていたことが明らかに。無声映画期の染色技法を再現して白黒のプリントに青の染色を施し、1926年初公開時の姿をよみがえらせた。

国立映画アーカイブ主任研究員の大澤浄。

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主任研究員の大澤浄が「今回の特集で一般の映画ファンにとっては一番の目玉」と推すのが、「按摩と女」「有りがたうさん」などで知られる清水宏が1948年に発表した「明日は日本晴れ」。戦災孤児の不遇を描いた「蜂の巣の子供たち」に続く清水の戦後第2作で、初公開から70年以上にわたって公式的に上映された記録がなく、長らく日の目を見なかった作品だ。清水が独立プロ・えくらん社の第1回作品として監督し、東宝の配給で公開。その後、経緯は不明だが松竹でフィルムが保管され、遅くとも1996年の時点で存在は把握されていたという。しかし松竹にとっては自社の製作作品ではないため、長年にわたって上映やソフト化などの運用はされていなかった。そして国立映画アーカイブが2020年の特集上映「松竹第一主義 松竹映画の100年」の準備段階でその存在を認知。このたび松竹保管の16mmのマスターポジを複製した新たな35mmプリントで披露されることとなった。

「明日は日本晴れ」

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公開当時は宣伝広告で「微笑ましい感傷のラブロマンス」とうたわれていたが、大澤曰く実際はバスの故障により山間で立ち往生してしまった人々の群像劇という側面が強いとのこと。運転手と車掌という男女のほか、バスへ無賃乗車する戦災孤児、中国戦線で片足を失った元兵士、生き別れた両親を探そうと東京へ行きたがる少女、戦死した部下を弔うため全国を旅する元隊長格の老人、赤ん坊の遺骨を故郷へ埋めに来た都会の女性など、戦後すぐに生きる人々の姿が克明につづられる。大澤も「主役2人のプロットは別にあるものの、回収されないまま観客に強い印象を与えるエピソードが多い」と述べながら、清水の作家としての立ち位置を「撮影所を飛び出し、現実の世界とそこに生きる人々を題材として映画を作った世界的に見ても先駆的な存在。例えばロベルト・ロッセリーニのような作家と並列で比較して論じられるべき重要な映画作家」と語った。撮影は京都の花背峠で実施。演技経験のない者が多数起用され、戦前の「有りがたうさん」と同じく全編がオールロケーションで撮影されている。

「発掘された映画たち2022」のこのほかのプログラムは下記で確認を。上映は国立映画アーカイブの長瀬記念ホール OZUで行われる。定員は各回310名。チケットはチケットぴあにて4月26日以降の毎週火曜10時より、翌週の上映回の前売り指定席券が販売される。

発掘された映画たち 2022

2022年5月3日(火・祝)~22日(日) 東京都 国立映画アーカイブ

歴史/文化的に貴重なコレクション

「紅葉狩」赤染色版の発掘と林又一郎コレクション──初代中村鴈治郎をめぐるフィルム群
神龍寺コレクション
荒木和一/横田永之助コレクション

発掘された記録映画

「關東大震大火實況」(神龍寺版/文部省管理換版)
「日本南極探檢」(デジタル復元・最長版)
「日大闘争」ほか

発掘されたアニメーション・劇映画

発掘されたアニメーション映画
「二人静」
「舊劇 渋川伴五郎 霧島山蜘蛛退治の場」
「狂った一頁」(染色版)ほか
「戀の花咲く 伊豆の踊子」(弁士説明版)
生誕120年記念 田坂具隆プログラム
「生きてゐた幽靈」(「幽霊暁に死す」改題短縮版)
「明日は日本晴れ」
「今日われ恋愛す 第一部 愛慾篇/第二部 鬪爭篇」
「俺は用心棒」
「鐘」
「幻日 夏目漱石『夢十夜』に據る」
「回路」(銀残し・再タイミング版)

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清水宏による戦後直後の独立プロ作品、「発掘された映画たち」で約74年ぶり上映 https://t.co/wH63sZzXio 国立映画アーカイブが新たに発掘・復元した映画を紹介する上映企画「発掘された映画たち2022」が5月3日から22日にかけて開催。本日4月20日に記者発表会が東京・国立映画アーカイブで行われた。…

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