これは本日3月24日に東京・竹芝ポートホールで河瀬が登壇した、製作報告会見で発表された。新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により、史上初めての1年延期が発表された東京2020オリンピック。終わりの見えないコロナ禍の最中、開催への賛否が叫ばれながらも2021年夏に1年遅れで開催された。河瀬は2019年7月から2021年8月までの計750日にわたって撮影を実施。アスリートだけにとどまらず、選手の家族、大会関係者、ボランティア、医療従事者、会場の周囲に集う人々、オリンピック中止を求めるデモ参加者などの姿が5000時間に及ぶ膨大な記録として残された。映画は現在も編集中で5月初旬の完成を予定。
「SIDE:A」では表舞台に立つアスリートを中心としたオリンピック関係者、「SIDE:B」ではアスリートを支える大会関係者、一般市民、ボランティア、医療従事者、開催に反対する人々などの非アスリートの姿に焦点を当てる。このたびプレス向けに配布された資料では、「SIDE:A」を「果たしてアスリートたちが目指すものは、『目先の勝利』か、『人生の勝利」か。表舞台に立つアスリートたちの、秘めたる想いと情熱、そして苦悩を見つめた物語」、「SIDE:B」を「異例の大会、その全てを撮り続けたカメラ。アスリートたちの平和の祭典の裏側で、どうにもできない現実を目の当たりにし、もがき、戦った、人間たちの記録」と位置付けている。
河瀬は2部構成となった経緯を「一番の理由はやはりコロナ」と回答し「1年延期となって何を撮ればいいのかと模索した。そこを描かないでオリンピック期間中のアスリートを捉えただけでは、今回の事態を記録し、この先の未来に伝えていくアーカイブとしての意味がないと思っていました」と明かす。2部構成は撮影中から念頭にあり、河瀬自ら提案した。
本作の特別映像を観たMCは、女性蔑視発言により大会組織委員会の会長を辞任した森喜朗の姿があったことを指摘。続いて「大会の光と影」の「影」の部分を収めているか問われた河瀬は「そうですね。もちろん」と切り出しながら「森会長の辞任は非常に大きな出来事。森会長の発言によって多くの人たちを傷付けることになった。女性蔑視があり、ジェンダーイコーリティのバランスが悪い今の日本において、森会長の発言によってその事実がたくさんの人に伝わり『私たちはこのままではいけない』といい意味で変わっていくきっかけになったのであれば、しっかりと記録に残すべきと思っています」と語った。
新型コロナウイルス感染症の蔓延、無観客開催の是非、関係者の相次ぐ辞任など、開催までにも多くの批判や問題が噴出した東京2020オリンピック。会見では「公式的な記録」と「河瀬自身のジャーナリスティックな視点」のバランスをどのようにとったか問われる場面も。河瀬は1997年の劇場映画デビュー作「萌の朱雀」を「最近じっくり観る機会があった」と話し始め回答する。「あのときは自分が『いいな』と思うことをシンプルに確信を持って描いていた。正直に言うと、今はもう作れない映画。撮れるものと撮れないものがある、というのもすごく似ていました。でも映画は多くを語らずとも、映像言語によってしっかりと伝えることができる。監督の主観として『いいな』と思うのではなく、もう1人の私が観客席にいたときに『いいな』と思うもの。それを真摯に作っていければと思っています」と続けた。
普段は「できるだけ少人数で映画を作る」と話す河瀬。本作ではオリンピック史上最多となる33競技339種目の現場をスタッフ総勢150人で撮影した。「私自身が現場に行くことができない場合もあるジレンマを抱えながら、毎日毎日スタッフルームに集まり報告を受けていました。(大会期間中は)ほぼ寝てない(笑)。とても暑い夏で意識が常にピーク。みんなとともに駆け抜けた稀有な時間だったと思います」と振り返る。「記録映画ではあるが、市川崑さんが言われていたように純然たる記録ではなく、映画であるということ。物語があり、それを皆さんに伝えていく役割があると考えています。2021年の暑い夏、そのときに私たちは何を見たのか。これを未来の子供たちやまだ見ぬ人たちに届けたいと願っています」と話した。
YouTubeでは本作の特報が公開中。
※河瀬直美の瀬は旧字体が正式表記
アライ=ヒロユキ ARAI Hiroyuki @arai_hiroyuki
オリンピック反対運動のほうでは、映像の無断撮影をとがめているが、路上での政治的示威行動は公共的な活動に当たるので、著作権や肖像権は本来なじまない。これを許可制にするなら、表現の自由に背反するだろう。
批判は飽くまで、視点と解釈の是非を問うかたちであるべきだ。 https://t.co/NuVeiJkqK2