エンタメは不要不急なのか?のんが「Ribbon」イベントで藝大生の疑問に答える

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のん監督・主演作「Ribbon」の学生向け試写会とトークイベントが、本日12月23日に東京・東京藝術大学で行われた。

のん

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コロナ禍の2020年を舞台に、のんが脚本を執筆した本作。卒業制作展が中止となってしまった美大生・いつかの再生が描かれる。のんがいつかを演じ、山下リオ、渡辺大知らもキャストに名を連ねた。

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学生の前に登場したのんは、「私はコロナがはやり始めたときに、自分が主催の音楽フェスを企画してたんですけど、蔓延防止のために中止の決断をして、すごく悔しい気持ちでした。それから自粛期間に入って、どんどん芸術やエンタメが不要不急(という枠)の中に入れられていくのがすごく悔しくて、『こうしちゃいられない』という気持ちで脚本を書き始めました。おうち時間をやり過ごせた方も、そうでない方もいると思うんですけど、悔しさやモヤモヤが晴らせないまま続いてる気がして、そういうのを取っ払えるような映画を作りたいと思ってこの映画を作りました」と挨拶した。

イベントは、事前に集められた学生の質問にのんが答える形で進行。「飲食店や医療従事者の方など、コロナによって大変な思いを抱いている人がたくさんいる中で、美大生に目を向けたのは何かきっかけがあったのですか」という質問には、「私自身が(美大生に)すごく共感できた」と答える。「自粛期間が来て、自分の仕事も中止や延期になって、命を脅かされている方、医療従事者や飲食店の苦しさをニュースで見て、その中で映画や演劇、音楽のライブ、アート展とかがやりづらい空気になって。でもそれに声を大にして『悔しい』とは言いづらい気持ちがすごく芽生えました。生き死にが直接関わってない、自分のやりたいことを押し通すことができないというか……」と慎重に言葉を選びながら質問に答えるのん。さらに彼女は「そういう気持ちがあったんですけど、芸術とかエンタメとかそういうので自分は生きてるし、今までもそういうものを見てきて自分が形作られてるのを改めて自覚することができて。芸術やエンタメは必要なものだと強く思って、映画を作ろうと思いました」と語った。

「Ribbon」メインビジュアル

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さらにのんは「美大生の方に憧れを持っていたので、コロナ禍で美大生の方はどうされていたのかなと調べてるうち、『卒業制作展ができなくなって、1年かけて作った自分の作品がゴミのように思えた』というインタビューを見つけて、自分の悔しさも共鳴して、作品に残したいと思いました」と映画製作の経緯を語る。イベントの聞き手を務めた東京藝術大学特任教授の伊東順二氏はこれに同意しながら「そういう気持ちをくんでいただいてありがたいなと。私たちも『アートワクチン』というシリーズのコンサートなどをやっているんです。ワクチンのように病気の人を救うことはできなくても、芸術は心にワクチンを打つことができると思ってます。そうでないと芸術は意味がない」と述べた。

東京藝術大学特任教授の伊東順二氏。

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のんが声優として主演した「この世界の片隅に」のファンだという学生からは、「過去に演じたキャラクターから影響を受けたことがあれば聞いてみたい」という質問が寄せられる。のんは「片渕(須直)監督にはたくさん勉強させていただきました。『この世界の片隅に』は、自分が役者人生を歩んでいく中で、ずっと残っていく作品だなと思ってます。私は自分がやった役を背負っていきたいなと思っているほうで。役者のお仕事って、どんな役にも染まれるのが一人前っていう考えもあると思うんですけど、私は『男はつらいよ』の渥美清さんとか、『相棒』の水谷豊さんみたいに、何年やっても新鮮にその役を演じられるっていうくらい、自分の魅力を大事にして役者をやっていきたいなって思ってます。脚本を書くときも、自分が書きたい主題はあるんですけど、『のんがやるならどういう女の子になるのか』という視点では考えていました」と役者としての考えを述懐。そして「だから、(『Ribbon』で演じたいつかには)すずさんというキャラクターを演じた自分は入ってる気がしますね。絵を描くっていう部分は同じだし、自分のモヤモヤした感情は言わないんだけど、何か思ってるんだろうなって感じとかは似てるかもしれないです」と役との共通点について語った。

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また「すずさんからじゃないんですけど、片渕監督には『映画の物語は“起承転結”じゃなくて“起承転転結”だ』って教わりました。1つ目は物語が大きく動く“転”で、2つ目は“結”につながる“転”があると。あとは、“起”の部分はストーリーの始まりで、“承”はその映画のルールがわかるパート、『この映画はこういうふうに進んでいくんだな』ってことがわかる、レールを敷くパートだと教わって、それは勉強になりました」と、片渕から学んだことを明かしていた。

最後の質問は「創作活動をしていると、『自分の行っていることは社会の役に立っているのだろうか』という疑問と不安が脳裏をよぎるときがあります。のんさんはどのように自分を奮い立たせてますか」というもの。これには「まさにコロナ禍ではそういう気持ちになりました。自分の仕事って娯楽を提供する仕事で、不要不急の中に入れられるんだなって思ったんです。でも『この世界の片隅で』のときに、すごくシンプルなんですけど、『少しでも笑顔になれれば明日を生きる糧になる」と学びました。あの映画は戦時下が舞台になってるんですけど、ラストはすずさんが孤児と出会ってその子をおうちに連れて帰る。私はあのシラミだらけの子をシラミちゃんって呼んでるんですけど(笑)。家族みんなで『あー、シラミだらけだ、お風呂入れてあげなきゃ』『お洋服サイズ合うかしら』とかそういうことをしながら、それまではショボンとしてたみんなが笑顔になる。そういう笑顔になれることがあるだけで、『生活を回していかなきゃ』という気持ちになる」と力強く笑顔で答える。さらに「そういうふうに、人に笑顔になってもらえるような作品に参加したいし、作り続けたいなってそのときに思ったんです。だからコロナの第1波が来て自粛期間だったときも、映画も音楽も演劇もアートも、全部生きる糧になるっていうふうに思いました。それを信じてやり抜かなければならないと思います」とも語った。

左から伊東順二氏、のん。

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これを聞いた伊東氏は「私は『あまちゃん』のファンなんです。いま私は建築家の隈研吾さんと一緒に、(福島県の)浪江町の復興に関わっているんですけど、浪江町でのんさんの名前を出すとみんな明るくなるんですよね。なんで『あまちゃん』がそこまでみんなを笑顔にするのか。今お話を聞いていて思ったんですけど、この方は役をこなしてるんじゃなくて、役を生きているんだなと。だからみんなが笑顔を思い出して笑顔になる。そこはこの方が持った才能じゃないかと。いちファンとして、がんばって作品を作り続けてほしい」と激励。これにのんが「がんばります、ありがとうございます」と応え、イベントは幕を閉じた。

「Ribbon」は2月25日より東京・テアトル新宿ほか全国でロードショー。

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(c)「Ribbon」フィルムパートナーズ

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Atsushi Fukuda @fukudadesuga

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