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佐木隆三の小説「身分帳」をもとにした本作では、人生の大半を獄中で暮らした実在の男性をモデルに、出所後に社会で必死に生きる男の姿が描かれる。13年の刑期を終えて出所した元殺人犯の三上正夫役で役所、彼にすり寄る若手テレビディレクター・津乃田役で仲野が出演。スーパーの店長・松本に六角、ケースワーカーの井口に北村が扮した。まず西川は「映画を作る幸せを噛み締めながら心を込めて作った作品です。コロナの影響でお披露目できないかも?と思ったこともありましたが、こうやって劇場を開けていただき、皆さまに来ていただけてうれしいです。感無量です」と真摯に語る。
役所は脚本を初めて読んだときのことを振り返り、「原作小説は人生を男性的な目線でありのまま物語る。そこに女性の目線が入って化学反応が起こっているなと。温かくて美しい脚本だと思いました」と述懐。西川は「殊更に社会派の映画を撮っていこうという心構えはなかったんですが、現状をリサーチしていくと、一度失敗した人が社会でやり直すことが、今はより難しく窮屈になってることがわかったんです。結果的に社会に響く作品になったと思いますね」と述べた。西川の印象を問われた役所は「美人ですからね。現場の男はみんな大好きです(笑)」と話し、「どこか大丈夫かな?と思わせるところがあって、男女関わらず監督のためにがんばろうと思えるところが魅力ですね」と笑みをこぼす。
「役所さんは偉大な俳優さんです!」とマイクを強く握った仲野は「撮影がない日も役所さんの隣にいて、同じ時間を過ごさせていただきました。目を見ていると、瞳の奥が寂しそうだったんです。役所さんなのか、三上なのか境目がわからなくなりました」と回想し、「三上という男をご自身の写し鏡のように演じていらっしゃって、役と深い対話をされていた。現場でお芝居をしていても何度も胸が震える瞬間がありましたし、芝居じゃないところでも込み上げてくるものがありました」と力説。そして「役所さんとご一緒することは僕の最大の目標でした。そしてこれからも最大の目標です。また一緒に仕事がしたいです」と伝える。それを受けた役所は照れた様子で「僕もまた一緒に仕事がしたいですね」と返した。
六角は「普段は詐欺師とか変態とかおかしな役が多いんです。人間らしくて優しい男を久しぶりに演じさせてもらえてうれしかったですね」と言い、「人からもらった優しさは借りたものだと思っているんです。それを役者として返せるのは幸せです」とコメント。続けて六角が「役所さんは、ニュートラルにお芝居に入る方。全体を通して観たときに、こんなに素晴らしいお芝居になっていたんだ!とあとからわかるんです。素晴らしすぎて、勉強にならない」と明かすと、仲野も大きくうなずく。役所と3度目の共演だという北村は「(役所が)大好きで大好きで。いろんな話をさせてもらいました」と報告し、「僕が20歳前後の頃に、西川監督の『蛇イチゴ』を観たんです。いつかこの監督の作品に出るぞ!と決めました。今日という日が来て、本当にうれしいですし、この作品が監督の作品の中で一番好きです」と思い入れたっぷりに述べた。
イベント中盤には本作のタイトルにちなみ自身が思う「すばらしき世界」について登壇者が語り合う場面も。役所は「世界中の子供たちが夢を持てる世界ですね」と回答する。西川は「この映画を撮っているときは3密の最たるもので、カメラを取り囲み俳優部が飛沫を飛ばして喧嘩して、お互い励まし合うことが当たり前でした」と思い返し、「あの熱気の中で再び映画を撮ることができる世界。それが私にとってすばらしい世界かなと思いますね」と思いを口にした。
最後に役所は「この作品に参加できたことを誇りに思い、感謝しています。監督はすでに次回作の構想を練っていると思いますが、例えお呼びがかからなくても応援しています。監督は日本映画界になくてはならない才能です!」とたたえる。一方の西川は「静かですけれど、役所さんがいるだけで現場が活性化します。映画を作ることとはなんなのか? 役所さんのおかげで俳優、スタッフが感じることができました。映画らしさというものがわかりづらくなって、消費されていく気配がありますが、10年後20年後にもいいと思ってもらえる作品を作るという気構えを教えてもらいました」と言葉に力を込め、イベントの幕を引いた。
「すばらしき世界」は全国で公開中。
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