映画ナタリーは2019年7月、東京都内のスタジオで行われていた撮影に潜入した。撮影されていたのは、映画の終盤近く、沈みゆくコンテナ船を舞台とした緊迫のシーン。海水が押し寄せる貨物倉庫の中で敵に捕らえられた田岡を、鷹野が救出に向かう場面だ。水位は鎖で縛られ身動きが取れない田岡の足元から、腰、胸、首と徐々に上昇。一方の鷹野は水中に潜り、鎖を外そうと懸命にもがく。そんな絶体絶命の最中、追い打ちをかけるように心臓の警報装置が赤く点滅し始めるという瞬間になっている。
「久しぶりにきついという言葉も発せられない状況でした」と、その過酷な撮影を振り返る藤原。荒れ果てた貨物倉のセットの脇には巨大な水槽が用意されており、本番のスタートと同時に、スタッフが抱える数多のホースから水が滝のように流れ出す。水の使用量は1日だけで180t。お湯では湯気が画面に映ってしまうため、2人が浸かるのは体力を容赦なく奪っていく冷水だ。1日がかりとなるワンシーンの撮影で、藤原と竹内は計9時間も冷水にさらされていた。
藤原は「水は冷たくて流れも速い。火花も散っているし、足もつかない。その中で潜りながら田岡の腕に巻かれた鎖をほどかなければいけない。ハンマーや斧を探してはこれじゃないあれじゃないと何度もやる訳です。久々にこたえました。こたえましたが、終わったあとは達成感や爽快感がありましたね」と満ち足りた表情。竹内とはワンカット撮り終えるごとに励まし合いながらも「今までの仕事で何番目に入るくらいのつらさ?」と話していたそう。一方の竹内は「撮影スタッフの技術に惚れ惚れしながらやっていました。縛り方をしっかり勉強されたのか、本当に身動きが取れなくて。その状態で上から水が落ちてくるってけっこうパニックになるなと思いましたね」と振り返る。
見学していると、時折「男汁(おとこじる)」という聞き慣れない単語がスタジオに響く場面も。これは水に浸かり凍えるキャストのために用意されるお湯の隠語だ。この現場だけで使用されている言葉だそうで、撮影スタッフはカットの合間に「竹内さんに男汁!」と声を張り上げる。本番中は真剣そのものという表情の竹内も「男汁、お願いします!」と笑顔をこぼしながら全身でお湯を浴び、精神的にも体力的にも過酷な撮影を乗り切った。
ウェットスーツを着込み、水中にいながら現場の指揮を執った羽住は「普段は後輩の田岡に対してクールに接している鷹野ですが、原作を読んだとき実は幼少期に失った弟を田岡に重ね合わせているのではないかという印象を持ったんです。水位が上がってくる中で、鷹野が田岡を抱きしめながら助け出そうとする姿を見て、熱いものが込み上げてきてしまいました」と思いがけず涙したことを回想。「でも、ずぶ濡れの中での撮影だったので自分が泣いているとスタッフやキャストにバレずに済みましたね」と充実の撮影を振り返る。
羽住の「全編吹替なしでアクションシーンを撮りたい」というオーダーのもと、クランクインまでに徹底的に体を作り上げた藤原と竹内。緊迫感あふれる水中シーンのほか、映画の冒頭を飾る市街地でのハードなカーチェイスや鉄道を借り切ったアクションシークエンスにも挑戦している。羽住は「華麗な技で魅せるのではなく、肉体同士のぶつかり合い。重くて痛いアクションを目指しました」とこだわりを明かしつつ、藤原と竹内について「撮影中はボロボロになりながらも、力を失わない生命力にあふれた2人の眼力に圧倒されていました。合間にたわむれ合っているまなざしが少年のようだったのが印象に残っています」と語った。
「太陽は動かない」は3月5日より全国ロードショー。藤原と竹内のほか、ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハン、市原隼人、南沙良、日向亘、加藤清史郎、鶴見辰吾、佐藤浩市がキャストに名を連ねた。
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