「
北海道・阿寒湖畔アイヌコタンを舞台にした本作では、アイヌの血を引く少年の成長を通して現代のアイヌ民族のリアルな姿がみずみずしく描かれる。自身もアイヌの血を引く下倉幹人が14歳の少年カント役で参加し、下倉の実の母である下倉絵美がカントの母役、阿寒に暮らす秋辺がアイヌの伝統を重んじるデボ役で出演した。
当初の脚本上では、主人公は青年にしていたと話す福永。「アイヌ役はアイヌの方に演じてもらうことと、阿寒で撮ることは決めていた。阿寒では絵美さんを通していろんな人を紹介してもらっていたので、幹人くんには早いうちから会っていました。なので、特別な感性を持っている少年だとは思っていました」と振り返る。「脚本を1回白紙に戻して、少年の話にするとなったときは迷わず彼しかいないと思った。特別な存在ですし、関係性がすでにあったというのも大きい。彼も演技にすごく興味を持っていたので、こういう形になってよかったです」とキャスティングの経緯を明かした。
本作ではアイヌ伝統の儀式である“イオマンテ”がテーマの1つとして描かれている。飼っていた動物“カムイ”を殺し、その魂を神の世界に送るもので、熊送りの儀式が有名だ。現在は行われておらず、それぞれの理由で復活を望む人と反対する人がいると前置いた福永。「イオマンテを描くか悩んだ」と述べつつも「ただ、それを映画の中で描くことによって現代を生きるアイヌの方々の思いの違いを映すことができる。さらにイオマンテはアイヌの文化や精神世界の集大成のようなもの。そういうものをイオマンテほど含んでいるものはほかにはなかった」と強い思い入れを口にした。
イオマンテについての会議シーンでは、演者たちは実際に思っている意見を述べていたという。イオマンテに賛成する秋辺は「参加者は本音で話していました。イオマンテをやることに、ここまで反対している人が多いことにびっくりしました」と回想する。10年ほど前、実際に儀式を行うために“チビちゃん”という子熊を飼っていたと話し、「賛成してくれる人が結局1人もいなくて。『かわいいチビちゃんを殺して食べるというなら、家を出ていく』と妻に言われたのであきらめました」とこぼして会場の笑いを誘う。しかし真剣な面持ちを見せ、「生き物を殺すということの重さ、生命に対する人々の関心の深さや大切に思う心を、(儀式に)反対する人から強く感じました。伝統文化を復活させることがすべて正義だと簡単には言えないと、撮影を通じて心から感じました」とも述懐していた。
「北海道出身ですが、なかなかアイヌについて学ぶ機会がなかった」と話した福永は、「和人がアイヌを題材にするにあたって、自分の作為やアイヌを美化しすぎていないかについて、いくら気を付けても気を付けすぎることはない」と語る。そのためのアプローチとして、キャストは本人役で出演してもらい、台本のセリフは暗記までせずに自分の言葉で話してもらうようにしたと述べた。
秋辺は「世界中の先住民と同じように、アイヌはこの160年ひどい目に遭っています。その中には和人に対する不信感や恨みが消えない人もたくさんいます。でも私の村では30年ほど前から和人に対する恨みや攻撃的な言動をする人はほとんどいなくなり、共存しようという空気ができあがっている」と説明。「福永さんが真剣に映画を作りたいという気持ちを村の人に伝えれば、これはうまくいくなと思った」と続け、「私からお願いしたのはこの映画を決して160年のアイヌからの仕返し、とはしないでほしいということ。フェアな、バランスの取れた目線で考えてほしいと監督に言ったことを覚えています。だからこの映画が人々の感動を呼ぶだろうと思っています」と思いを伝えた。
三浦透子、リリー・フランキーらもゲスト出演した「アイヌモシリ」は、10月17日より東京・ユーロスペースほか全国で順次公開。本作は第19回トライベッカ映画祭のインターナショナル・ナラティブ・コンペティション部門で審査員特別賞を受賞している。
※「アイヌモシリ」の「リ」は小文字が正式表記
映画ナタリー @eiga_natalie
「アイヌモシリ」監督が伝統儀式への思い語る、「アイヌ文化の集大成」
https://t.co/51ddXxAk1o
#福永壮志 #秋辺デボ #アイヌモシリ https://t.co/t3WPEiFVcg