耳の聞こえない監督・今村彩子の新作ドキュメンタリー、劇場公開と同時にネット配信

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ドキュメンタリー「友達やめた。」が9月19日より東京・K's cinemaほか全国で順次封切られる。同日に全国一斉ネット配信されることも決定した。

「友達やめた。」チラシビジュアル

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「友達やめた。」

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本作は、生まれつき耳の聞こえない映画監督・今村彩子が、アスペルガー症候群の友人・まあちゃんとの関係に悩み、彼女と友達でいる方法を考えるため自分たちにカメラを向けたドキュメンタリー。前作「Start Line」で日本縦断の自転車旅を通してコミュニケーションの壁に苦しむ姿を見せた今村が、新たな葛藤と向き合った1作だ。“見えない障害”と言われる発達障害当事者の困りごとにフォーカスを当てるのではなく、「自分と異なるバックグラウンドを持つ人とどうすればうまく共存できるのか」という本質的な問題に迫った。

「友達やめた。」

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当初は新型コロナウイルス対策と劇場支援の一環としてネット配信を検討していたが、今村はバリアフリーの観点なども含めて「私が知らないだけで、実に多様なニーズに応えられるのではないかと思います」という理由から、より多くの人に観てもらうために配信を決めたと説明している。配信は9月19日10時から10月31日23時59分まで実施。料金など詳細は公式サイトで確認を。

「友達やめた。」

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映画の公開に先立ち、今村と出演者のまあちゃんに加え、精神科医の本田秀夫、文筆家の能町みね子、映画監督の纐纈あや伊勢真一らからコメントが到着。本田は「自分とは異なるバックグラウンドを持つ人たち同士がどうすればうまく共存できるのか、という本質的な問題について、理想論だけではない感情の部分まで示している」、能町は「何がマイノリティで何がマジョリティか、それは常に流動的だ──と、そんな問題意識を孕んだ映画であると同時に、中年独身女性(あえてこう言います)の柔らかい友情の話でもある」とそれぞれ感想をつづった。

今村彩子 コメント

これまで私は「耳がきこえない」という少数派として、物事を捉え考えて生きてきた。でも、アスペルガー症候群のまあちゃんから見ると私は「一般の脳みそ」を持った人間、多数派となる。私は“多数派”に立った経験がほとんどない。まあちゃんと親しくなるにつれ、行動で戸惑うことも出てきた。その度、私は悩み、葛藤するようになった。

そこで、私はまあちゃんを「撮る」ことにした。どうしたらまあちゃんと仲良くやっていけるのかを考えるために。撮ったものを画面で見て、更に編集することで客観的に見つめられると思ったのだ。「友達やめた。」は、こうして生まれた。

「いい○○(友達、家族、パートナーetc…)でありたい」と考える人は多いと思う。でも、自分の役割を果たさなければと、頑張りすぎてはいないだろうか。実際、私は「いい友達でいなきゃ」と、たくさんのことを飲み込み、我慢を続けて爆発した…。この映画が「○○でなければいけない」と自分で自分を縛りつけている縄をほどき、あなたが気にかけているあの人との人間関係を見直すきっかけになったら、こんなに嬉しいことはない。

ネット配信について

映画のバリアフリーを考えた時、すぐ思いつくのは「耳のきこえない人のために字幕を、目の見えない人のために音声ガイドを」という声です。しかし、今回、発達障害や感覚過敏など様々な理由で、自宅での視聴を希望する方がいらっしゃることを知りました。ネット配信は、私が知らないだけで、実に多様なニーズに応えられるのではないかと思います。

まあちゃん コメント

初めて監督に会ったのは、12年前のこと。お互いあいさつ程度で、話した記憶はない。わたしは監督が映画を作っている人だということを知っていたが、「食っていけてるんだろうかこの人は?」と思っていた。

意気投合してひんぱんに会うようになり、ちょいちょい「まあちゃんを撮りたい」と言い出すようになった。わたしに何のネタがあるのか?と、ほとんど聞き流していた。冗談で言ってるのだろうと思っていた。それぐらいの空気はわたしにだって読める。

わたしの知り合いの中で「いただきますを言わないから」「飲み物を勝手に飲んだから」「お菓子を勝手に取ったから」「ピシッと叩いたから」といって本気で怒るのは、監督だけだ。なぜそんなに怒るのか、わたしには正直わからない。いまでもわからない。

人はしょせんわかり合えない。それは圧倒的事実だ。
大事なのは、わかりたいという気持ち、わかろうとする努力なのだと思う。

本田秀夫(精神科医)コメント

自分とは異なるバックグラウンドを持つ人たち同士がどうすればうまく共存できるのか、という本質的な問題について、理想論だけではない感情の部分まで示している。
それは、簡単に答えが出るものではないかもしれないが、とても大切な問題だ。

能町みね子(文筆家)コメント

構図としては、“まともな”今村監督が“ちょっとおかしな”まあちゃんを撮っているはずなのだけど、観ていると、わっどうしよう私まあちゃんの気持ちのほうがわかってしまうぞ?と慌ててしまった。
人によっては、きっといろんな部分で価値観が逆転してこんがらがる作品。
何がマイノリティで何がマジョリティか、それは常に流動的だ──と、そんな問題意識を孕んだ映画であると同時に、中年独身女性(あえてこう言います)の柔らかい友情の話でもある。
扉を開けてまあちゃんを迎えるシーンが何度もあるけれど、毎回うれしくなる。

田房永子(マンガ家)コメント

発達障害を持つ友人が私に話してくれる「生き苦しさ」。
頭ではなんとなく分かるけどハッキリとは分からなかった。
映画の中の二人の対話を聞いていたら、それが肌でわかる感覚が私の体に訪れた。
言葉で説明しづらい何かは、言葉で表現しきれない何かによって伝えることができる。
それが分かって、人間同士の不思議さ愛おしさで胸がいっぱいになり、たくさん涙が出ました。

北川恵海(作家)コメント

なんだか物騒なタイトルだなぁ。それが第一印象でした。
しかし作品を観てみると……なるほど、そうか。いいよね、友達やめたって。
本当は、友達やめたくなるくらい人と向き合うのって、難しいし怖いし面倒くさい。
でもそうするだけの価値が「友達」にはあるんじゃない?
改めてそう感じさせてくれたお二人に、ちょっと感謝したくなりました。

綾屋紗月(自閉スペクトラム・手話ユーザー / 東京大学先端科学技術研究センター)コメント

人が、自らに巣食うカテゴリー思考や偏見から抜け出すためには、そのカテゴリーに属する多くの人々に出会う必要がある。
それを知らない者たちが辿る足掻きを、本作品は目を背けたくなるほど誠実に切り取ろうとしている。

くらげ(「ボクの彼女は発達障害」著者)コメント

我が家も毎日がプチ「夫婦やめた」状態だ。
でも、お互いを必要とする気持ちと信頼が、「言葉」を超越したコミュニケーションを育んできたと思う。
「コミュニケーションとはなにか?」と考えるとき、本作から得られるヒントは多いはずだ。

寺島ヒロ(マンガ家)コメント

恋人同士であれば、欲しい愛と与えられる愛の形が違えば別れてしまうだろう。
では、友達同士で欲しい友情と与えられる友情の形が違う時は?
悩み、苛立ち、時には「友達やめた」と言いつつも、作品に昇華させた監督の執念は見事。
気の合う友達が欲しいと思っている人には特に見てほしい。出来れば2度。

滝口のぞみ(臨床心理士)コメント

自分を変えるではなく、相手を変えるではなく、相手を支えるではなく、支えてもらうではなく、一緒にいようと試みるとき、アスペルガーの人にとって一番苦手なはずの同じものを見つめる・共同注意が、うっかり生まれていることに出会って心動かされることがあります。
この映画にはたくさんのそれが見つかりました。

松森果林(ユニバーサルデザインアドバイザー)コメント

分かり合えなさをそのままにせず、かといって完全に分かり合えることを目標ともせず、お互いの困りごとを一緒に眺め、それはどんなときに起こるのか、何がそうさせるのか。
今村監督とまあちゃんのやりとりは当事者研究の対話そのものだと感じた。
「分かり合う」とは到達するものではなく、変化し続けるプロセスそのものである。

纐纈あや(映画監督)コメント

遠い他人は許せても、近い他人は許せない。
近くなるほど、互いの“ものさし”の違いがよくわかる。
怒っても注意しても無視しても、既に出来上がっているものさしは変わらない。
さあ、どうする? ずばり、あきらめる! 自分のものさしを相手に当てることを。
そして、まあちゃんとあやちゃんはふたりのものさしを作り始めるのだ。
人と関わるって、新しいものさしを作り続けていくことじゃないか。
一番面倒で忍耐のいるこの作業に、泣けてくるほどまっすぐ不器用に向き合うふたり。
あきらめという名の愛の物語。

伊勢真一(映画監督)コメント

「このままでは、まあちゃんを撮ってるのではなく、アスペを撮ってることになってしまう…」と今村さんが呟くシーンがある。その通りだなあ、と思う。
「アスペルガー」を撮り、「うつ」を撮り、「ろう」を撮ることに終始しているだけのドキュメンタリーが、なんと多いことか、そのことがわかりやすく描かれていれば良し、とするモノの見方……思考停止。
そこに、一人のヒトが生きていることを撮ることこそが、ドキュメンタリーの魅力なのにね。
人間は宇宙同様に、深いのだ。映画もね。

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