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岩手県大槌町に設置された“風の電話”をモチーフに、少女ハルが広島から故郷・岩手にたどり着くまでの道のりと心の救済を描いた本作。同映画祭のジェネレーション部門に正式出品され、約800席が満席となった会場には10代を含む幅広い年代の観客が集まった。
「ストーリーをどのように作り上げたのか?」という質問に、諏訪は「ハルという1人の少女の旅を通して、現代の日本のポートレートを撮りたいと思いました」と回答。そして発生から約9年が経とうとしている東日本大震災について「見た目にはその傷は見えなくなっているが、人の心にはまだ傷が残っていて、建物を建て替えるようにきれいにはできないと感じています。だからこそ、映画の中でさまざまな時間とというものを見せたり感じさせることができるのではないかと感じました」と思いを述べる。
モトーラは「ハルと一緒にいろんなところへ行って、いろんな人と出会って、そこで感じたものと一緒に私の中でハルができていったなと思います」と述懐。「物語が始まる場所に広島を選んだ理由は?」と聞かれた諏訪は「撮影する前年に西日本豪雨という大きな災害があったので、広島を物語がスタートする場所にしました」と答え、「初めはそれほど重要な意味があったわけではないのですが、劇中で広島の被爆体験の話が出てきますよね。あれは演じた女優さんが実際に体験したことで、打ち合わせでその話を聞き、強い印象を受けたんです。そしてその話を劇中でしてくださいとお願いしました」と明かした。
劇中でクルド人の入管問題を描いたきっかけについて質問が飛ぶと、諏訪は「一緒にシナリオを作った狗飼(恭子)さんの提案です。日本だけの問題ではなく世界中の人が傷付いているという気持ちになったことから、難民問題を入れることになりました。あの地域には2000人以上のクルド人が暮らしていますが、誰1人ちゃんとした難民として認定されていません」とコメント。「映画の中にはハルと同世代の女の子が出てきます。彼女は看護師になるという夢を持っているのですが、現状では彼女が職に就ける可能性はありません。日本の人たちはまだこの問題について関心を持っていない。でもこれは今の日本では普通の風景なのだと思って、あのシークエンスを撮りました」と話す。
映画を撮影していく中で受けた影響を尋ねられ、「20歳になって、撮影で初めて被災地に行ったとき、自分は12歳のときからすごく変わったけど、被災地は何も変わっていなくて、そのことが衝撃的でした」と述べたモトーラ。「この映画で、私たちの世代にもそのことが伝わってほしいと思うようになりました」と願いを込めた。
「風の電話」は全国で公開中。
※記事初出時、人名に一部誤りがありました。お詫びして訂正します。
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