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本作は「スノーマン」の作者レイモンド・ブリッグズが自身の両親を描いたグラフィックノベルを原作とする長編アニメーション。激動の20世紀を生きた平凡な英国人夫婦の40年間が丹念に描かれる。
イギリス滞在経験があり、同国の歴史や生活文化に精通している林。ブリッグズの絵本「おぢさん」の日本語訳を手がけた縁もある彼は、ブリッグズのことを「アンチスノビズムの人」と表現する。「イギリスと言うと、ガーデニングやらアフタヌーンティーとかスノビッシュなものばかり。でもそれはほんの一面に過ぎない。ブリッグズが描くのは3段重ねのアフタヌーンティーではなく、普通の人の普通の生活。(映画でも)茶色いティーポットでジョボジョボ淹れてたでしょ?」と述べ、「(エセルとアーネストは)政治家になったりお金持ちになるわけでもない。多くの人にとっての普段の生活が描かれている。その中に真の人生、人間が生きていくことの意味があるんじゃないか」とブリッグズから受け取ったメッセージを言葉にした。
また林は「ディテールをなおざりにせず、どれほど手間をかけて描いたのか」と、アニメーション制作者たちの仕事ぶりに感嘆。そしてエセルとアーネストの住む家や街の様子、言葉の訛りから彼らが労働者階級であることを表現している点や、イギリス人の階級社会に対する認識に言及していく。「神は細部に宿ると言うように隅々まで描き込む一方で、作品全体が1つの大きな構造を持っている」とも分析。初めてのデートでエセルがアーネストから花束をもらうエピソードが、彼女の晩年のシーンでも効いていることなどを説明し、優れた演出をたたえた。
さらに林は「劇中ではナレーションが一切ありません。普通なら『それから10年が過ぎ……』のような説明が入りますが、この作品では時間の推移を“もの”に語らせている」とうなる。最後に「この作品は単なる子供向けの作品とはまったく違うし、際どいシーンもあります。原作も子供向けに描かれたものではなく大人の絵本。奇々怪々なことを描くのが文学のようになっていますが、本当の文学とはなんの変哲もない日常に宿っている。『エセルとアーネスト』は素晴らしい現代文学だと思います」と、映画と原作ともども太鼓判を押した。
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