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現在開催中のフランス映画祭2019 横浜で上映された本作。劇中では、19世紀末から20世紀初頭、“ベル・エポック”と呼ばれた時代のフランス・パリを舞台に、少女ディリリとパリの配達人オレルが時代を彩った天才たちに出会い、街を騒がす誘拐事件の謎を解いていく。
上映後のQ&Aにて、ベル・エポックの時代を舞台にした理由を尋ねられたオスロ。「女性がとても丈の長いドレスを着ているからです。人々を魅了するような作品を作るうえで、美しい衣装はとても重要。欧米では女性があれほど長いドレスを着ていたのは、ベル・エポックが最後の時代なんです。サラ・ベルナールがショートパンツを穿いていたらちょっとおかしいですよね?」と劇中にも登場する当時の大女優の名を挙げ笑いを誘う。さらに、劇中で描かれる少女の誘拐事件にも触れ「調べるうちに、当時素晴らしい文化があったと知りました。でも男性が女性や小さな女の子を虐げていたと知り、それに対抗する手段として文明を取り上げたいと思った」と説明した。
仏領ニューカレドニアからやってきた主人公のディリリは、カナック族とフランス人のハーフという設定。その理由をオスロは「僕にとって1つ問題があって、ベル・エポックの頃のパリは、まだ白人の方々ばかりだったんです。僕はこれまで世界各地を舞台に作品を作っていて、出てくるキャラクターも肌の色がさまざまでした。今回もし白人だけを登場させたとしたら、とても貧しい作品になってしまうと思い、ディリリの肌に色を付けました」と解説する。またディリリが混血であることもこだわりだそうで「ハーフということは、母国が2つある。でもどちらの国でも阻害される運命を持ちがちという要素を大事にした」と振り返った。
また観客から、影響を受けた日本のアニメ映画についての質問も。「答えはシンプルです」と前置きしたオスロは「日本のアニメ界で面識のあるお二人がいます。高畑勲監督と宮崎駿監督です。高畑監督がここにいらっしゃらないことを、本当に悲しく思います。彼のことを思いながらこの作品を作った部分もあるのです。ご存命でいらっしゃったら、高畑監督がこの映画を日本語に翻訳してくださっただろうと思う」と、2018年に死去した高畑をしのぶ。さらに「高畑監督を失った『ディリリ』は、お父さんを喪った子供のような感覚です」と言葉を添えた。
美術系の仕事を志す女性客が感想を語るのを聞き、オスロは「アドバイスとしては、僕みたいな人生は送らないでくださいね。本当に長い間、資金調達の難しい時代が続いたんです」と笑う。オスロは、代表作である1998年の「キリクと魔女」以前と以後で自分の人生が二分されると言い「『キリク』の前は短編映画をほそぼそと作っている貧しいアニメーターでした。それでもすごく楽しんでいました。そして『キリク』がヒットしたおかげでみんなが僕を大好きになってくれたんです、銀行家の方々も含めて(笑)。最近ちょっと、彼らが僕に色目を使わなくなりました。銀行家は移り気なところがありますからね」と辛辣なジョークを飛ばす。また「作品を作るうえでさまざまなプロセスがありますが、どの工程にも楽しみを感じるし、僕は人に任せず全部自分でやってしまうんです。僕はけっこう腕のいい魔法使いなんです」とチャーミングに話した。
「ディリリとパリの時間旅行」は8月24日より東京・YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次公開。なお本作の日本語吹替版には、新津ちせや斎藤工が出演している。
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ミッシェル・オスロの映画作品
リンク
- 「ディリリとパリの時間旅行」公式サイト
- 「ディリリとパリの時間旅行」予告編
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massando @koiddon
オスロ監督の言葉には高畑監督への深い敬意が感じられました。ちなみにディリリについての質問をしたのは自分です。
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