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シネマドリフター(映画流れ者)を自称するカーワイが、最小限のスタッフとともに東ヨーロッパのバルカン半島へ渡り、現地に住む人々と即興を交えながら完成させた本作。主人公はスロベニアの首都リュブリャナに住むトルコ系マイノリティのフェルディだ。妻ヌーダンは彼の女ぐせの悪さに耐え切れず家出をしてしまうが、彼女の大切さに気付いたフェルディはマケドニアの田舎町へ迎えに行く。
企画のきっかけは、2年前にカーワイがバルカン半島を旅している最中、ゲストハウス経営者のフェルディ・ルッビジ夫妻とその仲間たちに出会い魅せられたことだった。彼はその後、カメラマン1人、録音技師1人とバルカン半島を再訪し映画を制作。登場人物を演じるのも職業俳優ではなく、すべて現地の人々だ。撮影はスロベニア、マケドニア、クロアチアの3カ国で2017年の夏に5週間をかけて行われた。
濱口は開口一番「すごいと思ってしまうのは、どう作ったの?ということ。僕自身もいわゆるインディペンデントに属する人間。でもこの映画がどのようにできあがるかが想像できない」と話し、カーワイの映画作りに驚きを隠せない様子。カーワイは2年前の旅路を「いろいろ面白い人に出会った。そのときはいかに彼らのキャラクターを生かして映画を作るかずっと考えていました」と振り返る。「スタッフも最小限でリスクを抑えれば作れると思った。未知のところに行くので旅する感覚。ワクワクするし損はしないだろうと」と自由なスタイルを語った。
劇中におけるフェルディの職業も、現実と同じゲストハウス経営だ。映画には彼がビジネスパートナーとやり取りする場面があるが、そこで行われる商談も現実のもの。カーワイは「彼らは僕も全然わからない契約の話をしてる。ほぼ演出はしないで彼らが会話をするのを撮ってるだけです」と明かし、編集の段階で物語の辻褄が合うように映像をつなぎ合わせ、足りない部分は追撮で補填していると話す。また濱口は映画で広角レンズが多用されていることを指摘。映画はすべてキヤノン EOS 5Dの一眼レンズで撮られており、使用したレンズも広角とズームの2本だけとのことだ。
「映画で2人に起こった出来事は本当の話?」と濱口が疑問をぶつける場面も。フェルディが女と酒が好きで、葉っぱを吸うのは実際の話だそうだが、カーワイは「実は脚本は全然書いていない。本当にその場にあるものを生かして、最初は自由に演じてもらいました。撮影が進むにつれ、徐々にストーリーが見えてきたら、必要な会話を足して」とコメント。完成品を観たフェルディは喜びつつも、ヌーダンとの喧嘩や葉っぱを買うシーンの削除を求めてきたという裏話も飛び出した。
カーワイは「ある意味、ヌーダンのために作った。映画にも出てきますが、彼女が育ったのは、夫の言うことが絶対なマケドニアの伝統的なトルコ村。その村のシーンでは女性が出てこないんです。結婚式も男性と女性で分かれてて、女性の宴会場は撮れませんでした。映画でのヌーダンは逃避する。でも現実だったら彼女は逃げ出せないし、フェルディも追いかけないと思います」と映画に込めた思いを述懐。濱口は「なるほど。だとしたら素晴らしいフィクションでもあるんですね」とたたえた。
「どこでもない、ここしかない」は池袋シネマ・ロサにて11月16日までレイトショー公開。連日、カーワイとゲストによるトークショーが行われる。
どこでもない、ここしかない トークショー
2018年11月3日(土・祝)~16日(金)東京都 池袋シネマ・ロサ
連日20:45~の回上映後
11月5日(月)
<登壇者>
11月6日(火)
<登壇者>
リム・カーワイ / 向井康介
11月7日(水)
<登壇者>
リム・カーワイ / 柘植伊佐夫
11月8日(木)
<登壇者>
リム・カーワイ / 舩橋淳
11月9日(金)
<登壇者>
リム・カーワイ / 渡辺真起子
11月10日(土)
<登壇者>
リム・カーワイ / 冨永昌敬
11月12日(月)
<登壇者>
リム・カーワイ / 内田伸輝
11月13日(火)
<登壇者>
リム・カーワイ / 相澤虎之助
11月14日(水)
<登壇者>
リム・カーワイ / 真利子哲也
11月15日(木)
<登壇者>
リム・カーワイ / 深田晃司
11月16日(金)
<登壇者>
リム・カーワイ / 田中泰延
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- 「どこでもない、ここしかない」公式サイト
- 「どこでもない、ここしかない」予告編
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『すべて、至るところにある』リムカーワイ @cinemadrifter
【今週のハイライト1】
「どこでもない、ここしない」
濱口竜介も驚嘆!映画流れ者リム・カーワイの映画作りとは
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