第31回東京国際映画祭コンペティション部門に出品された「テルアビブ・オン・ファイア」の記者会見が本日10月29日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、監督のサメフ・ゾアビ、キャストのヤニブ・ビトンが出席した。
イスラエルとパレスチナのシリアスな問題をユーモラスに描いた本作。主人公は人気メロドラマの制作インターンをしているパレスチナ人のサラムだ。撮影所に通うためイスラエルへの検問所を通っていた彼は、ドラマ好きの妻を持つ検問所の主任アッシと知り合う。アッシのアイデアで正式の脚本家に出世できたサラムだったが、アッシとスポンサーがドラマの結末に不満を抱き始める。
アッシ役のイスラエル人であるビトンは26日に東京国際映画祭内で行われたアジアプレミアでの反応を振り返り、「遠く離れた東京の観客が、僕たちが抱えている問題をどれだけわかってくれるか心配でしたが、笑って作品を楽しんでくれました。やはりコメディは万国共通」と笑顔を見せる。脚本を読んだ段階で本作がコメディであることに驚いたという彼は「実際の問題は決して笑えるものではない。でも映画の政治的な視点、物語、キャラクター、意図すべてに同感できた。この役ほど、どうしても演じたいと思えた作品はありません」と熱を込めて語った。
パレスチナ人であるが、アラブ社会とは異なるイスラエルの都市テルアビブに住んでいるゾアビ。「コメディですがとてもパーソナルな作品」と本作を説明し、劇中でサラムが置かれている状況には自身の境遇が反映されていると明かす。「イスラエルの人々と共存していて、日々、闘争を間近に感じています。常に自分が何を表現したらいいかという声に耳を澄ませ、我々が抱える問題をいかに物語にできるか模索しています」と語り、コメディではあるがジョークそのものではなく、それが成立している状況を伝えたいと続けた。
映画には、中東地域で広く食べられるアラブ料理のフムスが、パレスチナ問題を比喩的に表すものとして登場する。ゾアビは「フムスはとても政治的になり得ます……」と述べ、「1948年のイスラエル建国から、我々の文化も吸収されていきました。フムスもその1つ」と説明。「自分たちのアイデンティティを強調するために、ほかのアイデンティティを消し去る。こういった状況をフムスに象徴させたつもりです」と付け加えた。
現地では「誰のフムスがおいしいか」という話題が尽きないそう。ゾアビは「僕も作るし母も作る。パレスチナ人にとっては、家で作るもので、外に食べに行くものではないんです。でもヤニブにはフムスがおいしいレストランによく誘われます(笑)。イスラエル人も本当にフムスが好きなんです」と述懐。一方のビトンは「撮影で食べたフムスは本当にまずかった」と愚痴をこぼしていた。
最後にゾアビは「僕が描きたかったのは軍事的に占領されている状況ではなく、精神的な占領。映画に登場する検問所の先にあるものを見なければならないのです。それはパレスチナ人もイスラエル人も、お互いに持っているもの。オスロ合意は、僕にとってもはやジョーク。我々パレスチナ人は国もないし、土地もない、市民権もない。若い世代は将来が見えないのです。映画を通して、1つの答えよりも多くの疑問を提起したい」と語り、会見を締めくくった。
第31回東京国際映画祭コンペティション部門の会見レポートはこちらから
マルセリーノ・イスラス・エルナンデス「ヒストリー・レッスン」
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リンク
- 第31回東京国際映画祭(2018)公式サイト
- 「テルアビブ・オン・ファイア」 | 第31回東京国際映画祭
- 「テルアビブ・オン・ファイア」クリップ映像
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