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廃墟でゾンビ映画の撮影を行う人々を描く「カメラを止めるな!」。2館という小規模公開でスタートするも、口コミを中心に話題となり、現在では累計上映館数が220館を超えている。監督と俳優の養成スクール・ENBUゼミナールのシネマプロジェクト第7弾として生まれた本作にて上田は、数カ月にわたるリハーサルを経て、俳優たちに役を当て書きした。気弱な映画監督、極度に胃腸の弱い俳優、適当な番組プロデューサーといった個性豊かなキャラクターが作品を彩っている。
上田によると本作のキャストには、経験豊富で安定した芝居をするタイプと、芝居が“不安定”で何が起こるかわからないタイプがいるそう。安定した芝居力のある2人として、日暮家の母・晴美役の
本作では、ポンコツだらけの撮影隊が、ワンカットゾンビ映画の制作を通して成長していくさまもつづられる。アイドル女優・松本逢花役の
13名それぞれに対するコメントは以下の通り。「カメラを止めるな!」は、現在も全国で上映中だ。
日暮隆之役・濱津隆之について
まず、「カメラを止めるな!」は濱津さんがいたからこそできた映画だと思っています。とにかくこの映画の主人公は、くせ者たちに振り回されて困っていてほしかった。濱津さんは、その困り顔が絶品でした。それくらいアップで撮りたい顔なので、実は劇中でも濱津さんの困り顔で終わるシーンがかなり多いんですよ。口や目がモゴモゴ動いている、常に“顔がアクションしている”というのが魅力ですね。あと濱津さんは、テイクを重ねるごとに言い方やニュアンスがまったく変わるんです。逆に言うと“安定しない”のですが、その芝居っ気のなさに、濱津さんがそのまま出てしまっている感じがすごくいいなと思っています。
日暮真央役・真魚について
日暮晴美役・しゅはまはるみについて
しゅはまさんはCMや舞台などの経験が豊富なだけあって、日暮家の母でありながら上田組の母でもありました。経験の浅いキャストが多い中で安定したお芝居を見せて、物語を本軸に戻す役割をしてくださった。そのほかにもみんなにアドバイスしたり、宣伝のときも旗を振って先導してくれたり。ただ役柄と一緒で、ときどき我を忘れるくらい、前のめりにがんばってしまうときがあって(笑)。そこがいい部分でもあり、僕がしゅはまさんに当て書きした部分だと思います。あといい意味で面倒くさいところもありますね。僕が用意した晴美の衣装も「これはちょっと違うんじゃないですか、こっちはどうですか」と、誠実に意見していただいて。演出や制作にも積極的に参加して、作品をよりよくしてくれました。
神谷和明役・長屋和彰について
長屋は最初の頃、本当に神谷みたいなところがありました。みんながワイワイやっている中でも1人でブツブツ台本を読んでいて、飲み会でも隅のほうでみんなを見守っているといったように、距離を作っていて。僕は「何か言いたいことがあったら僕にLINEしてください」というスタンスでやっていたのですが、長屋もいい意味で面倒くさいところがあって、「上田さんのやっているここが納得できないんですが、どうですか」とLINEが来ました。そういうころで誠実にぶつかってくれる、嘘のつけないやつなんです。だから「みんなとはなあなあな関係にはならないぞ」っていう、神谷とちょっと通ずるところはありましたね。でも映画が公開されてからぐっと打ち解けて、最近は飲み会でおちゃめなことも言うようになりましたね。
細田学役・細井学について
細井さんとは7、8年前からの知り合いで、僕の短編作品に何本も出てもらっています。でも今までは小さい役が多かったので、僕の代表作となるこの作品で、メインキャストとして一緒にやってもらえて本当にうれしいです。細井さんもずっと舞台をやっていた人なので、お芝居がすごく安定していますし、対応力もあって、現場に安心感を与えてくれます。本当にあの役のままのひょうきんな人なので、いつもガハハと豪快に笑って、空気をよくしてくれる人ですね。ご自身はあの役ほどお酒を飲むわけではありません。アル中役でオファーしたときは、そんなに抵抗はない感じで、「ああそうか、俺アル中役か、あはははは!」みたいな反応でしたね(笑)。
山ノ内洋役・市原洋について
彼は数年前からの知り合いで、別のワークショップを3カ月くらい一緒にやっていたこともありました。なんと言うか、普段は真面目で神経質なネチネチしたやつなんですよね(笑)。でも飲みの場では気が大きくなって調子に乗るもんだからみんなに面倒くさいと言われていじられています。映画祭に行っても、1泊2日なのにすごく大きいキャリーケースを持ってきて、ずーっと荷物の整理をしている。そんなに整理するものある!?っていう(笑)。あと撮影前は真魚と喧嘩して、泣かされたりしていました。真魚は感性で行くタイプなんですが、市原は努力でこつこつ積み上げていくタイプ。それを本人も自覚しているので「お前に憧れてるんだよ!」と言いながら泣いていましたね。そんな性格や神経質な部分は役に生かされているし、実は気を使える人です。
山越俊助役・山崎俊太郎について
山崎は本当に変わり者で、面倒くさいランキング1位です。宿泊先でも「僕は今日、押し入れで寝ます」って言い出すし、「ああああああ」って宇宙人みたいないびきをかくらしくて。ワークショップでエチュードをやっているとき、他の方が演じているのを見て勝手に感情移入し「うえーん」と泣き出したこともあった。彼の芝居は毎テイク変わるので、二度と同じものが撮れない。赤ちゃんや猫を撮るときと同じくらい先が読めないんですが、そのライブ感がいいところですね。山崎との芝居は常にスリルを伴うので、相手は新鮮なリアクションができるんです。37分ワンカットの部分にはある程度芝居が安定している俳優を使っているんですが、安定しきらないようにあえて山崎を投入して、毎回新しい風を吹かせてもらおうと計画しました。コントロールできない唯一無二の存在ですし、「次はどんなものを見せてくれるかな」と毎回ドキドキさせてくれる役者です。
古沢真一郎役・大沢真一郎について
7、8年前からの知り合いでしたが、こんなにがっつりご一緒したのは初めてでした。コントロールできないくせ者たちだけでは作品ができないので、“この人がいてくれないと困る!”っていう、安定したお芝居をしてくれる役者さんの1人ですね。上田組においてしゅはまさんが母だとしたら、大沢さんはアニキ的な存在。若いやつらを盛り上げてくれるし、和やかに「駄目だよ」と教えてくれる。役について当て書きした部分は、真面目にしゃべっていても、イケメンなのでなんだかキマりすぎてしまって、逆にうさん臭くなる面白さがあったところ。それから業界ノリのルックスを持っているところもポイントでした。
笹原芳子役・竹原芳子について
竹原さんについては、映画を観た人から必ず「インパクトがすごかった」「どこから連れて来たんや、あの人」と言われるくらいです(笑)。僕も最初にオーディションで会ったときはとんでもないインパクトを受けましたね。竹原さんは、これまで演じたことがあるのが“蛾”だけだったんです。人間ではなく。オーディションにもあのままの見た目で来て、「蛾を演ります」と言って思い切り披露して、「すいませーん、どうでしたか?」と聞かれて。とにかく思い切りがいい。ブレーキってもんがなくて、底抜けに明るい人ですね。あの顔、キューティクルが輝くあの特徴的な髪型、そしてあの関西弁。画面に出てくるだけで心を動かされる役者ってなかなかいないと思うので、本当にこれから日本の宝になってほしいと思っています。
吉野美紀役・吉田美紀について
吉田さんもなかなかくせの強い人。まずすごく呑兵衛で、飲み会のあとは、フラフラになった吉田さんが地面にぶつぶつ話しかけながら雑踏の中に消えていくのが名物になっています(笑)。もともとENBUゼミナールの監督コースで学んでいたんですが、市井昌秀監督から「あなたは芝居をしたほうがいい」と言われて芝居を始めたそうです。吉田さんはあの迫力のある声と、男気のある顔が魅力ですね。でも動物を見て「キャー」とテンションが上がったり、マスコットを見て「かわいいー」と近付いていったりする、女の子な一面も持っている方です。
栗原綾奈役・合田純奈について
純奈は今回が初演技。オーディションのときは事前に渡していたセリフが完全に飛んでしまって、まったくしゃべれなくなってしまいました。そこで「じゃあ台本を見てもいいよ」といって本を渡したんですが、それでも声が出ないくらいに固まってしまって。そのあたふたしてる感じが不器用ですごくよくて、キャストに選びました。彼女の場合は芝居の基本も何もないので、型にとらわれることなく、相手の言葉に反応する形でナチュラルに演じてくれました。これだけの人たちに囲まれて、物怖じせずに堂々とよくやってくれましたね。今は福岡で記者として働いている、すごく真面目で芯のある子です。
松浦早希役・浅森咲希奈について
咲希奈は天然で、彼女の中だけにあるルールや理屈があって、ときどき何を言っているのかわからないことがあります(笑)。この13人の中だったら、今は彼女が一番多く舞台挨拶に立ってくれているくらいがんばり屋。宣伝のときも「『踊ってみた』をやるのはどうですか?」といったように積極的にアイデアを出してくれました。クラウドファンディングをやっていた頃、自主的にTwitterでキャスト・スタッフ紹介をアップしてくれたこともありましたね。作品への愛もみんなへの愛も強くて、もともと地方のアイドルをやっていただけあって度胸も据わっている人物です。
松本逢花役・秋山ゆずきについて
彼女は7年ほど前に「恋する小説家」という短編で初めてご一緒して、それから僕の作品に何度も参加してもらいました。もともとアイドルだったのでグラビアやモデルとしての活動が多かったのですが、僕は「絶対に女優をやったほうがいい」と思っていて。アイドル舞台でも、1人だけ群を抜いて芝居がうまいんですよ。ゆずきちゃん自身も逢花のように少しつかめないところがあって、撮影が終わったらさっさと帰るし、打ち上げでも2次会には来ないし、さっぱりしているんです(笑)。でもこの映画が公開してから変わってきたなと感じています。自分からたった1人でゲリラ舞台挨拶もやってくれましたし、チームの仲間とも本当の意味で打ち解けてきて、まさに劇中の逢花がゾンビ映画を撮ってから成長した姿を見ているようですね。ワンカット部分でも一番つらい役でしたから、走り回って切り傷だらけになってしまったんですが、文句の1つも言わずいつもアイドル然として笑っていたのはプロだと思いました。この映画でまた一皮むけてくれたのがうれしいです。
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