ポノック「ちいさな英雄」現場レポ、西村義明「アニメ映画の可能性を広げたい」

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「メアリと魔女の花」で知られるスタジオポノックの新作アニメーション「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」の制作現場に映画ナタリーが密着した。

「カニーニとカニーノ」新場面写真

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「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」ビジュアル

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本作はプロデューサーの西村義明が「ポノックとして初めて」と語る、3本の短編で1作品を形作るオムニバス。米林宏昌が監督を務めるカニの兄弟の冒険ファンタジー「カニーニとカニーノ」、卵アレルギーを持つ少年と母親、2人の絆を題材にした百瀬義行による人間ドラマ「サムライエッグ」、山下明彦が目には見えない男の孤独な闘いを描く「透明人間」で構成される。

米林宏昌

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「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」の作業風景。

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取材が行われたのは6月中旬。東京・武蔵野市にあるスタジオポノック内の開けたスペースには、デスクで絵コンテをチェックする米林や背景美術担当のスタッフの姿があった。取材陣に気付いて手を止めた米林は「すみません、だらしない格好で」とひげの伸びた頬をさすりながら苦笑する。アフレコ前とあって、作業は佳境に突入している様子だ。背景美術スタッフが一心不乱に筆を動かし続ける横の壁には、主人公カニーニたちが住まう川がさまざまな表情を見せる絵が何枚も貼られ、取材陣が思わず見とれる一幕も。

「カニーニとカニーノ」新場面写真

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スタジオ内で暮らすカニタマ。(提供:スタジオポノック)

スタジオ内で暮らすカニタマ。(提供:スタジオポノック)[拡大]

「カニーニとカニーノ」の世界観について、西村は「麻呂さん(米林の愛称)が描こうとしているのは幻想と現実の合間」と表現する。「麻呂さんの持ち味は美しい手描きのアニメーションですが、そこに優れたCGクリエイターの技術を組み合わせることで、手描きの限界を超えた素晴らしいものが仕上がると思ったんです」と熱を込めた。内容に関しては、米林の私生活がもとになっているという。西村は「2017年末に麻呂さんに第2子が誕生し、奥さんが入院している期間に長男の成長ぶりを感じたそうなんです。彼は『親がいないときに子供が一生懸命勇気を振り絞って前に進み、成長していく物語にしたい』と話していました」と明かす。米林は東京・奥多摩の川でロケハンを行い、水中の色彩、川辺の環境などを調査してきた。その際に出会った1匹のサワガニは「カニタマ」と名付けられ、ポノックの一員としてスタジオで暮らしている。

「サムライエッグ」新場面写真

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百瀬義行(右)(提供:スタジオポノック)

百瀬義行(右)(提供:スタジオポノック)[拡大]

都内に住む実在の親子をモデルにして制作された「サムライエッグ」は、生まれつき卵アレルギーを抱える少年が主人公だ。給食で卵を食べたクラスメイトのつばが触れただけでも、治療剤を打つなど迅速に対応しなければ命に関わる。それほどのアレルギー症状と戦いながらも懸命に生きる少年と、息子を明るく支え続ける母親の姿勢に、西村と百瀬は感銘を受けたという。西村らが「この少年が前に進む力と家族の力強さが、大人にも勇気を与えてくれるんじゃないか」と感じたことから企画が始動した。

「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」の作業風景。

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「サムライエッグ」の登場人物設定をまとめたボード。

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作画スタッフが作画用紙をめくる音や、鉛筆の音が響く現場には「サムライエッグ」登場人物の線画を集めたイメージボードが。主人公・シュンと母親の絵には、色鉛筆で淡く色が付けられていた。「実話にもとづいて制作するときは、きわめて写実的に描くというアプローチもありますが、それでは実写を作るのと変わりない」と語る西村は「絵本的な風合いで表現したとしたら、実写でやるよりも生々しさが出る可能性がある」と百瀬らと試行錯誤を重ねたという。高畑勲の右腕として、長年新たな表現方法を模索してきた百瀬の新作となる「サムライエッグ」について、西村は「今回公開する3作品の中で、表現的には一番冒険している作品かもしれません。絶えず新しい技術を取り入れてきた百瀬さんだからこその、今まで観たことのないものになると思います」と自信を見せた。

「透明人間」新場面写真

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山下明彦(提供:スタジオポノック)

山下明彦(提供:スタジオポノック)[拡大]

「透明人間」の登場人物設定をまとめたボード。

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「透明人間」は、東京・三鷹の森ジブリ美術館所蔵の短編「ちゅうずもう」の監督を務めた山下が初めて挑戦するオリジナル短編映画。周囲の人間はおろか、自動ドアやATMにも存在を感知されない主人公が、都会の隅で繰り広げるスペクタクルアクションだ。同作のイメージボードには、数多くの場面カットが貼り出され、傍らには主人公のキャラクター設定画が。外出時にお守りのように持ち歩く消火器のイラストには「逆さにして放出する昔のタイプ」というメモが添えられ、緻密な演出の様子がうかがえる。

「透明人間」新場面写真

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山下を「人物を動かすのが天才的にうまい」と評する西村。「そんな山下さんだからこそ、目には見えない透明人間をどう動かすんだろうと思ったことが始まりでした」と企画の発端を明かす。西村は「山下さんはサービス精神がある方なので、表面的に観ても楽しめるスペクタクルアクションに仕上げてくださいました」と感謝する。続けて「何回か観ているうちに、消火器とこの小道具はなぜ同じ色をしているのだろうと思ったり、哲学的な見方ができてくると思います。3本の中ではもっともアヴァンギャルドな作品ですね」と述べた。

「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」の作業風景。

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「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」3作品の絵コンテ。

「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」3作品の絵コンテ。[拡大]

スタジオ奥の部屋では若手スタッフがディスプレイを注視し、カニーニやカニーノの動き方をチェックしていた。西村によると、人材の固定化を防ぐため、本作では20代~30代前半のスタッフや初めて参加するスタッフも多く登用したという。西村は「なぜかというと、こうして『やってみて』と任せたときに、次回以降の作品につながる力量と才能と人徳を持ったスタッフが見つかるからなんです」と述べる。「短編だから一緒に仕事できるスタッフ、短編だから挑戦できる題材。自分たち自身の可能性もですが、アニメーション映画の持つ可能性を広げ、驚きをお客さんと享受したいという思いで作業を進めています」と語った。

「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」は、8月24日より全国でロードショー。

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(c)2018 STUDIO PONOC

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