吉永にとって通算120本目の出演映画となる本作は、「北の零年」「北のカナリアたち」に続き北海道を舞台にした“北の3部作”最終章。ソ連軍の侵攻により土地を追われ樺太を脱出し、北海道・網走へとたどり着いた女性・江蓮てつの人生を描く。てつを吉永が演じ、アメリカで成功を収め北海道に帰ってくるてつの次男・修二郎に堺雅人が扮する。
本作では、てつの心象風景を象徴的に舞台で表現する。もとの台本にはなかった舞台パートが追加された理由を吉永は「樺太の悲劇って、すごく重いんですよね。電話交換手の方たちが自決したり、この映画では看護師さんたちが自決してしまう。最初のシナリオではそれがしっかりと描かれていたんですけど、ちょっとヘビーすぎるのではないかと心配していたんです。そこで、抽象化した舞台で表現することによって、若い人も受け止めやすくなるんじゃないかと」と説明する。
6月下旬のこの日に撮影されたのは、1945年の樺太でてつと子供たちがソ連軍の空爆に襲われるシーン。東京都内のスタジオに舞台のステージがセットされ、観客の代わりに滝田やKERA、そして3つのカメラが俳優たちと対面する。まずは樺太の平和な時代を表現すべく、吉永と夫・徳次郎役の
KERAが「リハーサルで監督が、『舞台シーンは舞台シーンで、本編は気にせずやってくれ』とおっしゃってくれた」と語る通り、舞台パートの演出は全面的に彼が担当。実写映画に心象風景としての舞台パートを挿入するという試みについて、「例えば舞台女優を主人公としたストーリーで演劇のシーンがあるとしたら、もっとワンカットずつ細かく撮ると思う。でも今回はある程度つなげてお芝居して、それを監督たち撮影チームがどう切り取っていくかなんです」と話す。滝田との役割分担に関して聞くと、「僕はカット割りには一切意見しません。好きに切り取ってください、というスタンス。その代わり、こっちがカット割りを気にして演劇を作ることも一切ない。ある意味、『さあ、どう切り取るの?』というバトルみたいなところがあって、スリリングです」と笑顔を見せた。
撮影の合間に子役の緊張をほぐすため歌を歌ったり、じゃれ合ったりしていた吉永は、中学時代に演劇部に所属していた。「当時は菊池寛の『父帰る』をやりました。高校を出たら新劇に応募してみようかしらと思っていたんです。でもそのあとに坂東玉三郎さんのようなすごい方たちの舞台を観すぎたら、とても上手で私にはやれないなと思ってしまって(笑)」と明かす。しかし本作での舞台パートは心から楽しんでいるようで「リハーサルから『ああ、舞台って楽しい!』と感じて。学生時代に戻ったような心情なんです」と満足気に述べる。
そんな吉永と現場をともにすることを、「本当に光栄だし、一生の宝です」と喜ぶKERA。同パートの撮影は約5日間で終わってしまうことから、「本当にあっという間。できることなら、ああでもないこうでもないと相談しながらもっとやっていたかった」と残念がる。そんなKERAから舞台出演を熱望された吉永は、「想像できないんです」と回答。KERAに「でも僕は映画監督もやってますから。まだこれがご一緒できる最後の機会っていうことではない。ぜひ123本目の出演映画は僕の作品に(笑)。ちょっと変わった映画があってもいいんじゃないですか?」と誘われると、吉永は「それもまた楽しいですよね」とニッコリ笑った。
「北の桜守」は2018年3月10日より全国ロードショー。
関連記事
吉永小百合の映画作品
関連商品
リンク
- 北の桜守|東映[映画]
- 「北の桜守」特報
※記事公開から5年以上経過しているため、セキュリティ考慮の上、リンクをオフにしています。
柴田和巳 @show1900
「北の桜守」現場レポ、KERAの舞台パートで吉永小百合「学生時代に戻ったよう」 - 映画ナタリー https://t.co/qiHRidfhAI