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“熊野大学”とは、作家・中上健次の名を冠にし、その出身地である新宮市で文学者たちが継続してきた勉強会。中上の命日に合わせて毎年8月頭に開催され、これまで吉本隆明、浅田彰、いとうせいこう、青山真治、瀬戸内寂聴らがゲストとして参加してきた。
試写会のプレトークには、山戸と井土に加えて文芸評論家の市川真人が参加。市川は24年目となるこのシンポジウムでなぜ本作を上映したのかについて「まずジョージ朝倉さんの原作は、ものすごく中上的なマンガ。ここ新宮や南紀を舞台にして描かれた少年と少女の青春ドラマでありつつ、中上作品を知る人が読めばあちこちに中上健次の思想がある」と話す。ジョージ朝倉は中上作品の愛読者とのことで、市川はこの原作を「中上健次が描こうとしたものがマンガの形でここにある」と評価した。
山戸は「ジョージ朝倉先生の『溺れるナイフ』は、私たち世代の女の子にとって熱狂的なマンガだったのですが、その作品に映画監督として関わった際に中上健次さんの名を頻繁に聞くようになり、憧れのジョージ先生が愛読されていた大切な作家さんであるということを知りました」と振り返る。そして「ジョージ先生の作品を通して、中上健次さんの熱が伝播して映画を撮らせていただきました。これはティーン向けの映画なのですが、もし映画『溺れるナイフ』を観てくれた子が熱を受け取って何か表現してくれたら、きっとみんないつのまにか中上さんに出会ってしまうし、この土地の力が、波紋のように広がっていけばいいなと思います」と願いを込めた。
そして本日8月6日には、高田グリーンランドにてクロストークを実施。ここには3人に加えて芥川賞作家の村田沙耶香も登壇した。市川は、「溺れるナイフ」がどのような点に置いて中上健次的であるかを「全能感を失った若者たちがいかにしてそこからもう一度立ち直れるかという物語であるということ。“堕天”、“全能感の喪失”は中上健次に刻まれている」と解説する。
「少女マンガの世界では、恋をしたら永遠に結ばれるけれど、ジョージ先生はもっと真実の世界を見ている」と分析する山戸。「すべての女性の人生には、菅田さん演じるコウちゃんのように憧れを抱かせる男性と、重岡さん演じる大友のように等身大で自分を救ってくれる男性が存在する。けれど、憧れには終わりがあるし、等身大に甘んじては自己実現は果たされない。ジョージ先生が描くその選択と結末は、鮮烈でした」と続けた。
また村田はジョージの作品から影響を受けているそうで、この原作マンガに関しては「思春期の女の子の切実さ、コントロールできないものの衝動を、目立たないタイプの主人公ではなくあえて目立つタイプの主人公で描くというのが新鮮でした」と語った。
「溺れるナイフ」は11月5日より全国ロードショー。
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- 「溺れるナイフ」公式サイト
- 「溺れるナイフ」ジョージ朝倉 | 講談社コミックプラス
- 「溺れるナイフ」特報
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