本作は、医師の女性ジェニーが、治療を拒否して死亡した患者の身元を明らかにしようと奔走するさまを描いた人間ドラマ。
出身地であるベルギーの工業都市・セランを、しばしば作品の舞台としているダルデンヌ兄弟。「セランは現代的な問題が噴出する世界の縮図のような街なのか?」と質問が飛ぶと、ジャン=ピエールは「もしそうなら、私たちはセランから逃げ出しているだろうね」と前置きしながら、「セランの街には私たちが描きたいと思う物語がたくさん転がっている。映画を撮影するためによく知っている街をもう一度見渡すと、違う景色が見えてくるのもいいものだ。私たちはこの街で初めて夢を見て、初めて喧嘩し、初めて欲望を抱いた。犯罪者のように、犯罪を犯した現場に戻っているのかもしれないね」と同地への思いを述べる。リュックは「友人で医者になった男がいる。主人公のジェニーが住んでいる設定の場所のすぐ近くにクリニックを構えているんだ。それもセランで撮影した理由の1つかもしれないね」と明かした。
さらに「2人で監督を務める秘訣は?」と聞かれ、ジャン=ピエールが「秘訣なんてないよ。私たちは共同監督ではなく、1人の人間だから」とジョークを交えながら答えると、会場は爆笑に包まれた。報道陣の反応を受けて、ジャン=ピエールは「本当だよ。そうは見えない? 肉体は2つあるけれど、1人の人間なんだ。そうじゃなかったら、毎日一緒に現場に行って一緒に監督なんてできるわけないだろう。もし2人の人間がいるのだったら、1人はカメラの前に立ち、1人が演出すればいい。そうしていないのは1人だからだ(笑)」と続ける。
話題は3月にベルギーで発生したテロ事件に。「この事件があなた方の作品に影響を与えたか?」と尋ねられ、ジャン=ピエールは「この物語は私たちの中にずっと前からあったもので、数年前に脚本を書き上げて、ようやく去年撮影した。その後にあの忌まわしいテロがフランスとベルギーで起きたが、そこにつながりは感じない」とコメント。そしてリュックは「私たちはいつも、映画で人生を描きたいと思っている。恐ろしいテロで亡くなった人々の写真を目の当たりにすると、大切な人生を守りたいという気持ちになる。それを映画から感じ取ってもらいたいと思う。そこがつながりかもしれないね」と真摯に語った。
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