「リップヴァンウィンクルの花嫁」は、3月26日に封切られる岩井の監督最新作の小説版。主人公の皆川七海が、なんでも屋の安室に奇妙なアルバイトを次々と斡旋される過程で起こるドラマが描かれている。七海は月100万円の報酬がもらえる住み込みのメイド仕事で破天荒な女性・里中真白と出会い、彼女がウエディングドレスを買いたいと言い出したことをきっかけに物語が展開していく。キャストには黒木華、綾野剛、Coccoらが名を連ねる。
本イベントでは、サイン会の前に、映画プロデューサー川村元気をゲストに迎えたトークショーが行われた。川村が「映画版の制作は今どの段階まで進んでいるんですか?」と尋ねると、岩井は「今はまだ作っている最中です。昨日“ピクチャーロック”という、これ以上は触っちゃだめだよという段階まで行きました」と答え、集まったファンは期待に満ちた表情に。
そして、劇中でCoccoが演じるキャラクターの“ある職業”へと話題が及ぶ。岩井は「ネタバレしないでほしいという人はいますか?」と観客を気遣いながら「以前、映画監督の紀里谷和明さん、北村龍平さんとアメリカでよく会って飲んでいたときに、“ある職業”に関する企画を耳にして。話を聞いているうちにどんどん興味が沸いていきました。その職業の方々の妙なバイタリティや生き生きとした感じが、それまで抱いていた印象と違って、自分の被写体になり得るなと感じたんです」とコメント。さらに「僕は『スワロウテイル』で移民を描いたり、『PiCNiC』では精神病院を舞台にしたりと、社会という規範からドロップアウトした人への執着や憧れがあるんです。今回その職業の人が、そこに合致したんですよね。一風変わった業界ですが、描きがいがある人たちだなあというのを、実際にそうした職業に就いている方々にお会いして思いました」と続けた。
この物語が形になるまでの歩みを、岩井は「最初は小説から始まりました。プロットのようなものを膨らませていって、シナリオを起こしたりまた小説に戻ったりして。小説だと、シナリオだけでは書けない事象以外のことを表現できるんです」と話す。また映画の撮影時を振り返って「台本に会話が書いてあるから、みんなそれをなぞりはするんですけど、カメラを回すとアドリブを入れていったりして。こちらが指示をしているわけではないんですが、実際にその役割であるかのように演じてくれました」と、俳優たちとのエピソードを披露。「映画の中に法事のシーンがあるんですが、そこでお坊さんを演じた方は、実は役者ではなくて、映画に出てくるお墓の持ち主だったんです。人のいない村へ行って撮影をしたので、現地で人を集めたときにとても協力してくれた方で。その墓石に鶴岡と書いてあったので、あるキャラクターの名前はそこから取って鶴岡に決まったんですよ」と明かし、観客を驚かせる一幕も見られた。
本作には、結婚式のエキストラにまつわる場面が登場する。岩井は「そういう仕事が存在するなんて想像していなかったのですが、中野の居酒屋で飲んでいるときに、近くの席に結婚式帰りと見られる家族がいたんですよ。彼らが敬語で話しているのを見て『ひょっとして結婚式のにせもの?』と思い調べてみたら、本当に(そういった仕事が)あったんです。思い付いたらすぐビジネスに発展して、ニーズがあれば広がっていくというのが現代の摩訶不思議な縮図のようだなと思いました。そうした“サービス”というものが、この物語のテーマの1つですね」と真摯に語った。
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