書籍「漫画家、映画を語る。─9人の鬼才が明かす創作の秘密」の発売を記念し、7月17日に東京・ヴィレッジヴァンガード下北沢店にて、「
松江は同書を読み、マンガ家・上條淳士による言葉に共感を覚えたと語る。「映画に対してあこがれはあるけれど、コンプレックスはない」とインタビューで受け答えする上條に、「ドキュメンタリーは撮るけれど、劇映画は撮らないんですか」とたびたび尋ねられる自分が重なったと吐露。松江は「映画で1番面白いのはドキュメンタリー。カメラ1台あれば、自分が勝負したい映画が作れる」と断言し、「他の人が作らないものを自分が作っていくことに意義がある」と言葉に力を込めた。
代表作「鈴木先生」がドラマ化・映画化された武富は「自分のやり方は、マイナー寄りの手法になりがち。だからより多くの人に読んでもらうため、メジャーなやり方に取っかかりを作ってもらいたい」と正直な気持ちを述べる。それを受けた松江が「でも『こだわりは、しがみついてでも入れてやるぜ!』って気持ちを感じる」と言及すると、武富は「そういうところ、僕たち共通してますよね」と賛同。
武富が「松江さんの、マイナーなところを突きながらも、閉じていないところが好きです」と明かせば、松江は「小数点以下のこと、グレーなものが描かれなくなっている。“テロリスト”の心情をきちんと描いた『鈴木先生』はかっこよかったです」と述懐する。「わかりやすさ至上主義はいやだ」と斬る松江に深くうなずく武富は、そんな自分たちに対して「意見とか認識に差があっても、出てくる作品がやっぱり似ている」と再確認した様子だった。
イベントの終盤、これから伝えていきたい“リアリティ”について問われた2人。「本当のことに興味はない」と言い切る松江は、「社会問題を撮りたいわけじゃない。こだわっているのは、観た人に実生活で起きたことを『映画っぽいな』と感じてもらうこと。心にひっかき傷を残して、生活の中で咲かせてもらいたい」と胸の内を明かす。
いわゆるドキュメンタリーではないものを目指す松江に対し、「僕のコンセプトと似てます」と話す武富は「『“侵食感”出してやるぞー!』っていう気持ちでやってます」と伝える。自身の作品「惨殺半島赤目村」については70年代の日本映画、とりわけ市川崑が監督した「金田一耕助」シリーズへのオマージュやアンチテーゼが含まれていると触れ、「多くの人にウイルスを注入したかったんです」と説明する武富。しかし「ウイルスに気づいて、途中でふたしちゃった人もいたみたい……」と自虐的にコメントし、会場の笑いを誘っていた。
なお8月5日には同著の発売を記念した映画監督・大林宣彦とマンガ家・浅田弘幸のトークイベントが、東京・紀伊國屋書店新宿本店にて行われる。
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