現地時間5月18日に、カンヌ国際映画祭のクラシック部門にて「残菊物語」のデジタル修復版が上映された。
「残菊物語」は
また上映前には「海街diary」の
現地で上映を観た欧米の観客からは「かなり古い作品なのにきれいに修復されていてクオリティも素晴らしかった。森赫子の演技が秀逸だった」「とても楽しめました。普段、日本の歌舞伎や歌舞伎座のことを知る機会がないけれど、その機会を提供してくれたことに感謝します」という声が上がるなど、上映は盛況のうちに終了した。
是枝裕和によるプレゼンテーション内容
2年前の小津安二郎「秋刀魚の味」に続いてプレゼンターを任させれまして、自分の上映よりも非常に緊張しながらここにやって来ました。
この部門を作っていただいて、このように毎年、映画史に対するリスペクトの念をきちんと表現されている映画祭の皆さまに感謝を伝えたいと思います。ありがとうございます。
(この上映プレゼンターという役目を引き受けたのは)ここ数年歌舞伎の勉強を自分なりに始めていまして、今日上映されるこの溝口さんの素晴らしい「残菊物語」を繰り返し繰り返し観ていたという偶然があり、これも何かの縁だろうと思ったのが1つの理由です。
もう1つは僕の「ワンダフルライフ」という映画に、溝口の「近松物語」に主演されている
作風に共通性を感じておられない方が多いと思われるのですが、空間の中で人間をどう動かして、カメラをどう動かすかという監督の職業を突き詰めて考えていく時に、やはり最終的に溝口の名前というのは考えざるを得ない存在だなと、最近よく考えています。香川さんが溝口の演出について語った言葉がいろいろなところで紹介されているのですが、その1つに現場で役者に対して「反射してますか」と「反射してください」と繰り返し役者に話すと聞いたことがあります。反射ということは演技の基本であるという溝口さんの考え方を僕なりにとらえた結果と言ってもいいと思うのですけれど、僕自身も自分の撮影の現場で意識している、用意してきたものをそこで再現するのではなくそこで生まれたものに自分が反応していく、役者の芝居に反応していく、役者同士も相手のセリフに反応していく、その瞬間瞬間の反応の連続が演出というものにつながっていく、映画撮りにつながっていく、そういうような捉え方は溝口さんの「反射してますか」という言葉とつながっているような気がします。
皆さんがご覧いただく作品について僕が多くを語ることは失礼にあたると思うので、「残菊物語」について1つだけお話しすると、溝口の多くの作品の中に描かれる非常に重要な瞬間というのがあります。最高に幸せな瞬間ととても不幸な瞬間というのがひとつの画面のなかに同居している。端から見ていると非常に不幸なんだけれども、本人たちは幸せであるという感情が二重に重なり合わされている形で登場している、そういう瞬間がよくあります。
この映画の中にも、自分が最初に使用人として入った家で最終的には妻と呼ばれる存在となる1組の夫婦が、夫は舞台の上にいて、妻は舞台袖でその夫の芝居を見ているその瞬間、今お話したような非常に複雑で残酷なシーンがあります。そこを観るたびに僕はいつも鳥肌が立つのですけれども、そんな非常に溝口的な瞬間が随所に現れている作品だと思いますので、ぜひごゆっくりご覧ください。
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