ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」 2024年10月号 [バックナンバー]
公開情報ももちろん大事、でも裏話や考察で「作品について知ることの楽しさ」も感じたい
作品についての理解が深まるPRとは
2024年11月11日 19:00 6
映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。
今月は「
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「月刊おもしろ映画宣伝」10月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう!
「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」
11月15日公開の映画「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」が、新日本プロレスリングとコラボ。同作が10月14日に東京・両国国技館で行われる「KING OF PRO-WRESTLING 2024」のメインスポンサーに就任したとわかった。
今回のコラボは「会場へと向かう闘志燃える後ろ姿、そしてリングの中で命懸けで戦うプロレスラーはまさに“グラディエーター”そのもの」との理由から実現したもの。「その周りを囲む何万ものファンが一斉に大きく歓声を上げる光景は、ローマ帝国最高峰の地“コロセウム”を埋め尽くすローマ市民とも重なるほど圧巻」ともつづられている。
まずは景気のいいコラボからご紹介! 「プロレスラーはグラディエーターそのもの」と言われれば確かにそれはそうと納得せざるを得ません。映画宣伝でプロレスコラボと言えばモンスター映画が定番ですが、原点回帰という感じでいいと思いました。両国国技館が「グラディエーターII」仕様に変貌するという景気のよさもいいですね。
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」
一方こちらはあまり見たことがないタイプの宣伝、というよりニュースなのでピックアップしました。
内戦が勃発したアメリカで、大統領へのインタビューを敢行するためホワイトハウスへ向かう4人のジャーナリストの体験を描いた本作。日本では10月4日に公開され、週末動員ランキングで初登場1位となった。A24は「現在の日本の映画市場において、洋画の成功は非常に難しいと言われています。A24の今年の<必見>映画が、日本での最初の週末で1位を獲得したことは素晴らしいことです。A24は、この映画が多くの映画ファンに届いたことを喜び、日本でこの映画を上映してくれた劇場に感謝しています」と謝辞を述べている。
確かに注目作とはいえA24という海外のインディーズ映画会社の映画が1位を獲得したのは本当にすごいことだと思います。宣伝を見ていると日本での上映形態やタイミングなどかなりこだわって公開されたというのを感じます。その努力が実ってこのような謝辞が送られるというのは映画ファンとしてもうれしい気持ちになります。しかも監督やプロデューサーではなく映画会社からのコメントという点で日本におけるA24の浸透度を感じました。携わった皆さんに拍手を送りたいと思います。
「シン・デレラ」
押切が描いたのは、純白のドレスに返り血を浴び、血の滴るガラスの靴を片手に少し微笑んでいるようにも見えるシンデレラの姿。押切からは「おおおぉぉい! なにやってんだー!! 俺の知ってるシンデレラじゃあねぇ!」と映画の感想が到着した。
これはベストマッチを感じるコラボイラスト!
「破墓/パミョ」
チェ・ミンシクの公式な来日は「春が来れば」以来18年ぶり。 キム・ゴウンと チャン・ジェヒョンは、映画プロモーションでの来日はこれが初めてだ。チェ・ミンシクは「俳優として活動する中で、観客の皆さんと触れ合えるこの瞬間は、本当に幸せな時間だと思っています」と喜びをあらわにし、キム・ゴウンは「日本の皆さんにこの作品を紹介できることは、私の人生にとって大きな経験。この映画をどうご覧になったのか、楽しみでわくわくしています」、チャン・ジェヒョンは「いつも日本には遊びや買い物で来ているので、仕事で来られるのは不思議な気持ちです」と心境を伝える。
今月はうれしい来日が多かった印象です。この「破墓/パミョ」の来日イベントもまさにその1つです。記事内容や写真を見ると終始穏やかで楽しい雰囲気のイベントだったことがわかります。チェ・ミンシクさんの「私が入ってきたときは、それほど歓声は大きくなかったような……」というジョークや、キム・ゴウンさんとチャン・ジェヒョン監督が語る「撮影時に霊を呼んでしまった」というおもしろエピソードなどもあってこれも1つの「おもしろ映画宣伝」だと感じました。
「エストニアの聖なるカンフーマスター」
映画「エストニアの聖なるカンフーマスター」の初日舞台挨拶が10月4日に東京・新宿武蔵野館で行われ、来日した監督のライナル・サルネットらが登壇。主人公のモデルになった実在の修道士や現場で作り上げた“正教会カンフー”の秘話を明かした。
こちらも楽しそうな来日イベントです。修道士とブラック・サバスとカンフーを組み合わせるというエンタメ作品なのですが、実話が発想のベースになっていたり、この奇妙な組み合わせにも細かい成り立ちがあるということがわかったりと、ためになる内容の来日イベントでした。ライナル・サルネット監督も実際のお姿を見るととても気さくな印象でした。こういうことがわかるのも来日のいいところですね。
「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」
映画「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」の公開前夜祭ジャパンプレミアが10月10日に東京・丸の内ピカデリーで行われ、日本語吹替版キャストの平田広明、 村中知、山田裕貴が登壇した。
こちらは「ジョーカー2」の日本語吹替版キャストが集ったジャパンプレミアです。海外でも大きく話題になった作品ということで奇をてらわずに作品の衝撃度や考察などを語るイベントになっているのが印象的でした。特に印象に残ったのが山田裕貴さんのコメントです。
そして山田は「普段生きていたら嘘ついたり愛想笑いするじゃないですか? そうやってメイクを1つずつ重ねていって、『本当の自分ってどこにいるんだろう?』ってわからなくなることありませんか? それこそが“ジョーカー”だと思う」と持論を展開。「本当のことなんてどこにもないけど、その人にしかわからない本心がある。その本心をジョーカーというキャラクターを通して見守っていくみたいな見方ができたらいいのかと思います」と言葉を紡ぎ、「感想を言い合って、議論が生まれるというのがこの作品の狙いだったらどうします? 賛否があるからこそ盛り上がっているんだと思います」と語った。
かなり的を射ているというか、この作品の総論のようなコメントが飛び出していて驚きました。山田裕貴さんは以前からジョーカー愛を語っていた方ですので、作品に対して愛情があり、自分なりの持論を持つ方が宣伝に参加されるのはいいことだなと改めて感じました。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版」「ヴェノム:ザ・ラストダンス」
水木しげる原作によるアニメ映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版」と、映画「ヴェノム:ザ・ラストダンス」が再びコラボレート。「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」のキャラクターデザイン・谷田部透湖が描き下ろしたコラボイラストが公開された。
先月「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」と「ヴェノム:ザ・ラストダンス」の2作品による「最凶相棒秋祭2024」というコラボ動画が話題となりましたが、なんと今回は「鬼太郎誕生」のキャラクターデザインの方が描き下ろしたコラボイラストが登場。しかもめちゃくちゃかわいい……。改めてこの2作は愛されているということを強く感じました。みんなバディムービー大好きですよね!
そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月は少し悩みましたがこちらです!
「ライオン・キング:ムファサ」
渡辺謙が映画「ライオン・キング:ムファサ」の“超実写プレミアム吹替版”に声優として参加し、ヴィラン役を務めることが、本日10月21日に行われたイベントで発表された。
渡辺謙さんが「ライオン・キング:ムファサ」のヴィラン役をオーディションで勝ち取り、それを発表するイベントなのですが、私が注目したのはここです。
イベントではムファサ役の“超実写プレミアム吹替版”声優・尾上右近がサプライズ登場。本日10月21日は渡辺の65歳の誕生日でもあり、獅子舞演舞とオリジナルケーキで祝福した。渡辺は相次ぐサプライズに感謝しつつ、改めて「友情や愛の話というエンタテインメントだが、人生の深いところに触ってくる瞬間がある素晴らしい作品になると確信しています」と本作をアピール。右近は「僕もオーディションでムファサ役にチャレンジしました。謙さんやほかのキャストの発表があり公開日が近付いていることを実感してわくわくしています。壮大な愛がテーマの映画でたくさん感動していただけると思います」と伝えた。
誕生日のお祝いということで獅子舞演舞、しかも渡辺謙さんが吹替を担当するライオンのキロスにちなみ白い獅子舞が登場という点で芸が細かい! 縁起物でありつつ、ライオン同士の戦いの様子を模している演舞を採用したのはお見事だと思いました。こういう日本の芸能と海外の映画が組み合わされたときの妙味を味わいたくて映画宣伝ウォッチをしているということを思い出しました。
今月も賑やかな映画宣伝が豊富でした。今月の宣伝群を見ていて感じたのは「作品について知ることの楽しさ」でした。来日した監督や俳優さんが語る映画の裏話や豆知識は、その映画に対する理解が深まり、ますます好きになる要素となります。また、著名人の方々のコメントや独自の考察などは作品に対する期待を高めてくれます。映画宣伝は、その映画の公開情報を知ってもらうことはもちろんですが、その内容についても理解や知識が深まるようなPRもあるとよりよいものになると感じました。
以上、月刊おもしろ映画宣伝2024年10月号でした。次回もお楽しみに!
ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。
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映画ナタリーさんでの連載コラム「月刊おもしろ映画宣伝」 2024年10月号を書きました!今回は宣伝を通して作品を知ることの楽しさに焦点を当てました。10月は来日も多くて楽しかったですね!ぜひ読んでみてください。https://t.co/JbmtQDWjrq