左からチャオ・リーイン(趙麗穎)、ミディ・ジー(趙德胤)

中華エンタメを知る Vol. 1

女性のエンパワーメント作品が次々登場する中国、「チャオ・イェンの思い」ミディ・ジー×チャオ・リーインのインタビューでそのわけを読み解く

1

49

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 4 32
  • 13 シェア

近年、中国映画や中国ドラマの人気が日本で上昇している。そんな中、中国作品ならではの強いヒロイン像やシスターフッドに惹かれるという声が少なくない。

連載「中華エンタメを知る」Vol. 1では、中国映画「チャオ・イェンの思い」(原題「乔妍的心事」)を引っさげ東京国際映画祭に参加するため来日したミャンマー出身の監督ミディ・ジー(趙德胤)と、主演のチャオ・リーイン(趙麗穎)に取材を実施。同作もまた、女性たちが権力や圧力に立ち向かい、協力して運命を切り開いていく姿を描いた作品だ。

インタビューでは「中国で女性のエンパワーメント作品が次々に生まれる理由は?」といった質問を投げかけたほか、「チャオ・イェンの思い」の舞台裏についても聞いている。

取材・/ 金子恭未子

中国は女性のパワーを表現した作品が非常に多い

チャオ・リーイン(趙麗穎)

チャオ・リーイン(趙麗穎)

──お二人の来日をとても喜んでいるファンがたくさんいます。「チャオ・イェンの思い」のチケットは即完売でした。

ミディ・ジー 完売したのは、チャオ・リーインさんが人気者だからですよ!

チャオ・リーイン この映画を通して、ファンの皆さんに今までとは違った演技、役柄を見ていただけることがうれしいです。

──近年、中国のエンタメファンが日本でとても増えているんです。東京国際映画祭で海外メディアの人たちと交流する中でも、それぞれの国で同じような状況にあると聞いて、改めて人気を実感しました。

ミディ・ジー 映画や音楽というのは、その国の経済力と切り離すことはできないもの。経済が発展すると人々の生活がよくなり、映画などのコンテンツの生産量も上がりますよね。そして映画やテレビは文化を届ける力を持っている。今、中国コンテンツは東南アジアや、ヨーロッパなどにどんどん輸出されていますし、アメリカには、中国の作品を配信するプラットフォームもあるんです。

ミディ・ジー(趙德胤)

ミディ・ジー(趙德胤)

──中国エンタメ好きの方から、中国作品ならではの強く生きる女性の姿に心惹かれるという声をよく聞きます。チャオ・リーインさんがこれまで出演されてきた「明蘭~才媛の春~」や「輝け!シンフー~幸福到万家~」、そして「チャオ・イェンの思い」もそうですが、中国で女性のエンパワーメント作品が次々に生まれる理由をどのように捉えていますか?

ミディ・ジー 中国の映画やテレビは多様化していますが、そんな中でも、女性視点で描かれる物語、女性のパワーを表現した作品が非常に多いですよね。それはチャオ・リーインさんが演じてきた役を見てもわかると思います。彼女がこれまで表現してきたのは伝統的な女性像ではなく、自分の権利のために戦う現代的な女性たちです。ヨーロッパやアメリカでもここまでの数は作られていないと思います。私は中国の映像業界にそれほど詳しいわけではないですが、素晴らしい女優さんがいるということが1つの大きな理由だと考えています。

チャオ・リーイン 作品を選ぶときは自分の好きなストーリーを選んでいるんですが、パワフルで、芯の強い女性が好きです。作品の中の役柄ではありますが、観客の皆さんにもそういったキャラクターは喜んでいただけます。自立心があって、負けず嫌いという私の性格も作品選びと関係があるかもしれません。

ミディ・ジー 数あるオファーの中から、リーインさんが自分の価値観でそういったキャラクターを進んで選んでいるということもポイントですよね。映画や芝居には大きな力がある。女性が自立する姿を演じることで、そういった生き方を支持することも大事なこと。彼女は時代劇にも出演していますが、その中にも現代的な女性の考え方が反映されています。

チャオ・リーインとホアン・ジュエによる7分間のアドリブ演技

チャオ・リーイン(趙麗穎)演じるチャオ・イェン

チャオ・リーイン(趙麗穎)演じるチャオ・イェン

──「チャオ・イェンの思い」のお話も伺いたいと思います。チャオ・リーインさんは、どんなところに魅力を感じて、出演を決めたのでしょうか?

チャオ・リーイン 家族愛が描かれていること、そして監督のスタイルが好きだからです。演じたことのないキャラクターにチャレンジしたいというのも理由でした。

ミディ・ジー 物語の舞台の1つは中国の雲南省とミャンマーの境目です。チャオ・イェンは標準語である普通話と雲南省の方言を使いますが、方言は物語の重要なキーになるもの。だから撮影する前にかなり時間を掛けてトレーニングをしました。

「チャオ・イェンの思い」STORY
中国西南部の国境の町で生まれ、努力の末にスター女優となったチャオ・イェンは、表面的な華やかさとは裏腹に他人には言えないプレッシャーを感じていた。そんなある日、匿名の脅迫状が届き、時を同じくして長年連絡が途絶えていた姉が突然訪ねてくることに。姉の名も、チャオ・イェンだった。この再会をきっかけに、スター女優チャオ・イェンはこれまで隠してきた過去に脅かされることになる。チャオ・リーイン(趙麗穎)がチャオ・イェンを演じ、彼女の姉にドラマ「慶余年~麒麟児、現る~」のシン・ジーレイ(辛芷蕾)、マネージャーに「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」のホアン・ジュエ(黄覚)が扮した。

──チャオ・リーインさんの演技を間近で見ていて、監督が一番、心揺さぶられたのはどの場面でしたか?

ミディ・ジー オープニングシーンです。あの場面では非常に複雑な演技を求めました。チャオ・イェンの表情は、恐怖、悲しみだけでなく、強いプレッシャーを感じていること、そして何か秘密を抱えていることを観客に伝えます。そしてあらゆる重荷を抱えていた彼女が、ついに反撃に転じ、自由な人生を手に入れようとしていく。最初のシーンにはそういったさまざまなものが凝縮されています。またチャオ・イェンとマネージャーが対峙するシーンも心揺さぶられた場面の1つです。演出でどうにかなるような場面ではなかったので、チャオ・リーインさんとホアン・ジュエさんにすべて任せて、7分間、ノンストップで撮影をしました。

──すべてお二人のアドリブだったということですか?

チャオ・リーイン (ほほえみながら)そうなんです。

──驚きました……。

ミディ・ジー 最初はアクションディレクターの方に動きを付けてもらったんですが、どうしてもリアルさが足りなかった。やはりリアルであることが一番大事なので、2人に任せたんです。

シン・ジーレイ(辛芷蕾)演じる、チャオ・イェンの姉

シン・ジーレイ(辛芷蕾)演じる、チャオ・イェンの姉

──チャオ・イェンとお姉さんの関係も作品の注目ポイントの1つだと思います。姉妹を作り上げるうえで、お姉さん役のシン・ジーレイさんと何か相談したことはありましたか?

チャオ・リーイン 姉妹の関係は複雑です。親しくもありますが、他人のようでもあって、近付いたり、離れたりする。監督が望んでいたのは私たちがリアルであることでした。だから、どのようにお芝居をするかをシン・ジーレイさんと相談することはあまりなかったです。撮影が始まる前から姉妹として普通に会話をし、少しずつ、少しずつ、役に入っていきました。

──撮影外でも、シン・ジーレイさんとは方言を使ってお話ししていたんですか?

チャオ・リーイン そうですね。役に入るために普段も方言を使って話していました。だから自由に切り替えられるまでに、マスターできたんです。今でも、監督とシン・ジーレイさんとみんなでお話をするときは、方言を使っています。

ミディ・ジー 言葉の使い分けを通じて、お姉さんとの関係を表現しているんです。例えば、チャオ・イェンが標準語を使っているときは、お姉さんを威嚇するとき、方言を使っているときは、心が近付いているときなんです。

──「チャオ・イェンの思い」の日本公開を楽しみに待っているファンも少なくないと思います。最後にメッセージをお願いします。

ミディ・ジー この作品はすべての人に届けたい作品です。この映画で伝えたいことは、自分と和解することで次のステージに進んでいけるということなんです。また「チャオ・イェンの思い」は女性を中心とした作品です。女性たちが権力や圧力に立ち向かい、助け合って、陽の当たる道を見つけていく姿が描かれます。今まで見たことがないチャオ・リーインを見ることができる作品でもある。大きなスクリーンでもう一度、彼女を知っていただく絶好の機会です。

チャオ・リーイン(趙麗穎)

1987年10月16日生まれ、中国・河北省出身。2006年にオーディションに応募したことをきっかけに芸能界入り。出演作にドラマ「後宮の涙」「お昼12時のシンデレラ」「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」「楚喬伝(そきょうでん)~いばらに咲く花~」「明蘭~才媛の春~」「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」「輝け!シンフー~幸福到万家~」、映画「西遊記 女人国の戦い」「チャオ・イェンの思い」などがある。2024年には、ドラマ「風吹半夏」の演技が高く評価され、中国電視劇飛天奨で優秀女優賞、中国電視金鷹奨で最優秀主演女優賞に輝いた。

ミディ・ジー(趙德胤)

1982年12月18日生まれ、ミャンマー出身。16歳のときに台湾に渡り、その後、国立台湾科技大学を卒業。2011年、初監督作「Return to Burma」が釜山国際映画祭ニューカレンツ部門などに入選。そのほかの監督作に「マンダレーへの道」「ニーナ・ウー」「チャオ・イェンの思い」などがある。

イベントレポート

この記事の画像(全10件)

(c)Shanghai Linmon Pictures Co.,Ltd. & Beijing Enlight Pictures Co.,Ltd.JPG

読者の反応

  • 1

映画ナタリー @eiga_natalie

女性のエンパワーメント作品が次々登場する中国、「チャオ・イェンの思い」ミディ・ジー×チャオ・リーインのインタビューからそのわけを読み解く

🎥インタビューはこちら
https://t.co/rK7GIm081s

#乔妍的心事 #ミディ・ジー #趙德胤 #チャオ・リーイン #趙麗穎 #MidiZ #ZhaoLiying https://t.co/4Xc8vHP5gh

コメントを読む(1件)

関連記事

チャオ・リーインのほかの記事

リンク

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャの映画ナタリー編集部が作成・配信しています。 チャオ・リーイン / ミディ・ジー / シン・ジーレイ / ホアン・ジュエ の最新情報はリンク先をご覧ください。

映画ナタリーでは映画やドラマに関する最新ニュースを毎日配信!舞台挨拶レポートや動員ランキング、特集上映、海外の話題など幅広い情報をお届けします。