ミルクボーイ駒場孝の「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」第12回ビジュアル

映画超初心者・ミルクボーイ駒場孝の手探りコラム「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」 第12回 [バックナンバー]

“女子が観るおしゃれ映画”という認識だった「プラダを着た悪魔」

観るべきタイミングに観るべき作品に出会えて大満足

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これまで名作をほぼ観たことがないまま育ち、難しいストーリーの作品は苦手。だけど映画を観ること自体は決して嫌いではないし、ちゃんと理解したい……。そんな貴重な人材・ミルクボーイ駒場孝による映画感想連載。文脈をうまく読み取れず、鑑賞後にネット上のレビューを読んでも「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」となりがちな彼が名作を気楽に楽しんだ、素直な感想をお届けする。

第12回で観てもらったのは、2006年公開の「プラダを着た悪魔」。日本版ポスターに「恋に仕事にがんばるあなたの物語」と書かれている本作に、20歳だった公開当時にはまったく興味がなかったという駒場だが、社会人に、そして父になった2024年に鑑賞すると「わかりすぎるほどわかる」と共感しっぱなしだったという。

/ 駒場孝(コラム)、松本真一(作品紹介、「編集部から一言」

「それが君のタイミング」ということです

こんにちは、ミルクボーイ駒場です。今回鑑賞したのは2006年公開の「プラダを着た悪魔」です。今回も映画に対する事前情報はなく、公開当時僕は20歳で、ポスターに見覚えはありましたが漠然と「女子が観るおしゃれ映画」くらいのイメージで、そもそも映画に興味がない僕からしたら1番縁遠い作品でした。ただそれから18年経った今、映画ナタリーのスタッフさんに「次回『プラダを着た悪魔』はどうですか?」と聞かれたときに「興味ないなぁ」とか「入ってこなさそうなのでほかのがいいなぁ」など思うことなく、むしろ「観てみたい」と思い了承しました。

20歳の頃と真逆の感覚の自分に驚きました。そういうタイミングだったのかなと思います。歳を取るごとに、タイミングの大切さを感じるようになってきて、巡り合わせというか、そうなるべくしてそうなってるんだなと思うことが多くなってきたんです。結婚にしても、昔は先輩が「結婚はタイミング」と言っていたのに対して「そんなあほな」と思ってましたが、自分が結婚したときのことを思うとタイミングは重要だと思いますし(それだけではないですが)、自分たちがM-1で優勝できたのもタイミングで、それまでテレビに出ず(出られなかっただけ)ネタがバレていない状態であのタイミングで出たから優勝できた、みたいなことがあったり。日常で言うと「こんなに広いスーパーの駐輪場やのになんで自分が自転車出そうとしてるときに真横に停めてる自転車の持ち主のおばちゃんが帰ってきてぶつからんか気遣いながら鍵ガチャガチャしなあかんねん」とか「傘持ってるとき雨降らんと傘持ってないとき雨降るやん」とかも今までは腹立ってましたが、そうなったことにはすべてそうなる意味があると思えるようになりました。「それが君のタイミング」ということです。ブラックビスケッツも歌ってました。懐かしくなり聴いてみました。すると衝撃の事実が発覚しました。「それ“が”君のタイミング」とばっかり思っていたのに「それ“も”君のタイミング」だったんです! “も”もあって“が”もあるだろうと思って聴いていましたが、全部“も”なんですよね! これは驚きました。“が”も1回くらいあった気しません? 同じ感覚の人は少なくないと思うんですが。まぁでもこれも今知るタイミングだったということです。

「プラダを着た悪魔」場面写真(写真提供:20th Century Fox / Photofest / ゼータ イメージ)

「プラダを着た悪魔」場面写真(写真提供:20th Century Fox / Photofest / ゼータ イメージ)

今のこの年齢、環境、精神だからこそわかる話

話を戻しまして、「プラダを着た悪魔」ですが、観ていくと改めて、今観るタイミングどころか今観る運命だったんだと確信しました。とにかく今の自分にめちゃくちゃ刺さりました。信じられへんくらいアンディに共感しっぱなしの110分。呆れるほどにあるあるでした。「アンディ、そらそうやんな!」「それはアンディがかわいそうや!」「アンディがんばれ!」「アンディしんどいかもしれんけどちょっと我慢しよう」「ナイス! アンディ!」「アンディの周りの人、今はそう思うかもしれんけどアンディも好きでやってる訳ちゃうから!」「アンディの気持ちも汲み取ったってよ!」「アンディ、それはアンディが悪いで!」「……アンディ!!」など、とにかくアンディに夢中になりました。こんなにアンディ、アンディと言ってますが、演じているアン・ハサウェイはもちろん今回初めて知りました。一発でファンになりました。20歳の頃観ても絶対こんな気持ちにはなってなかったはずです。仕事も家庭もあり、今のこの年齢、環境、精神だからこそわかりすぎるくらいわかる話。

ですので今回の「そんなこと言うてた?」は「この映画、こんなに人間臭いって言うてた?」です。ポスターの感じもそうですが、特に主題歌の「アイシーアイシーアイシー」みたいなあの軽快な曲調からは想像もできないメッセージのある内容でした。あの歌は有名ですし聴いたことはもちろんありましたが、この作品がこんなストーリーだとは思わなかったです。恋愛みたいなところも少しありましたがそこは別として、どの世界にも上下関係はあるし無理言われることもある。でもやらないといけない。ただ必死にやっているとほかがおろそかになっていく。それでもいったん今はこちらをやらないといけない。自分たちの未来のためだから。でもずっとそんなことばかりも言ってられない……など、度合いの程度はそれぞれあれど誰もが感じたことがあるであろうジレンマ、答えのない思考のループがわかりやすく描かれていた気がします。とにかく考えさせられました。「プラダを着た悪魔」側も、「そんなに重く受け取られても」と思うかもしれないですが、個人的にはとても響きました。観るべきタイミングに観るべき作品に出会えて大満足でした。今回は、映画は観るタイミングも大事だということと、「Timing~タイミング~」の正式な歌詞は「それ“が”」ではなく「それ“も”」だということも勉強になりました。これからもいろんな作品を楽しみたいと思います!

編集部から一言

駒場さんにはこれまでお仕事ものを観てもらったことがないのでこの作品を選んでみました。ただ芸人とは全然違う世界のお話なので反応が読めなかったのですが、まさかこんなに響くとは。そしてこんなにブラックビスケッツの話に文字数を割かれるとは。自分も「それ“が”君のタイミング」だと間違って覚えていたので正解を知ることができてよかったです。

「プラダを着た悪魔」(2006年製作)

「プラダを着た悪魔」場面写真(写真提供:20th Century Fox / Photofest / ゼータ イメージ)

「プラダを着た悪魔」場面写真(写真提供:20th Century Fox / Photofest / ゼータ イメージ)

ジャーナリストであるローレン・ワイズバーガーが、ファッション雑誌「VOGUE」の編集長であったアナ・ウィンターの助手を務めた経験をもとに書いた同名ベストセラー小説の映画化。名門大学を卒業したアンドレアはジャーナリストを目指していたが、なぜか人気ファッション雑誌「ランウェイ」編集長であるミランダのアシスタントとして働くことに。極めて有能だが横暴で、アシスタントに身の回りの世話も押し付ける彼女のもとで働くアンドレアは、文芸誌での仕事への足がかりとして働くうちに仕事の面白さに目覚めていく。アン・ハサウェイがアンドレア、メリル・ストリープがミランダを演じた。監督はデヴィッド・フランケル

駒場孝(コマバタカシ)

1986年2月5日生まれ、大阪府出身。ミルクボーイのボケ担当。2004年に大阪芸術大学の落語研究会で同級生の内海崇と出会い、活動を開始。2007年7月に吉本興業の劇場「baseよしもと」のオーディションを初めて受け、正式にコンビを結成する。2019年に「M-1グランプリ2019」で優勝し、2022年には「第57回上方漫才大賞」で大賞を受賞。現在、コンビとしてのレギュラーは「よんチャンTV」(毎日放送)月曜日、「ごきげんライフスタイル よ~いドン!」(関西テレビ)月曜日、「ミルクボーイの煩悩の塊」「ミルクボーイの火曜日やないか!」(ともに朝日放送ラジオ)など。またミルクボーイが主催し、デルマパンゲ、金属バット、ツートライブとの4組で2017年から行っているライブ「漫才ブーム」が、2033年までの10年を掛けて47都道府県を巡るツアーとして行われる。

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