5月10日、プロデューサーの紀伊宗之が代表取締役CEOを務めるK2 Picturesが、“日本映画の新しい生態系を作る”ことを目指し、映画製作ファンド「K2P Film Fund I(ケーツーピー フィルム ファンド ファースト)」の立ち上げを発表。映画監督の
映画ナタリーでは、「
取材・
いつの時代も異端児的プロデューサーが映画界を牽引してきた
──まずは、お二人の出会いを教えてください。
紀伊宗之 映画「
岩井俊二 うちで働いていた子から、紀伊さんが事業化した「ゲキ×シネ」(※)の仕事をしていると聞きました。映画館の在り方がどんどん変わっていく中で、そんな映画館の使い方があるんだ……と。新しいことをしている人がいると思ったのが、紀伊さんの最初の印象でした。しっかりタッグを組んで映画を作ったのは「キリエのうた」(2023年公開)ですね。
※編集部注:「劇団☆新感線」による演劇の映像を映画館で上映するプロジェクト
紀伊 最初に「キリエのうた」の話を聞いたときは、まだなんにもない状態でしたよね。
岩井 そうですね(笑)。ラフの段階で
──岩井さんは「K2P Film Fund I」の立ち上げに際しても、賛同の声を挙げていますね。
岩井
紀伊 がんばります。
なぜ映画界には「週刊少年ジャンプ」のようなオリジナル作品が生まれないのか
──紀伊さんは日本映画界の課題点として、製作委員会方式によって映画の製作費が縮小傾向にあるということを挙げていました。岩井さんは映画監督として、そのあたりを実感することはありますか?
岩井 僕のWikipediaを見てもらうとわかると思いますが、実現しなかった映画のラインナップがたくさん載っていて、それらを実現できなかったのはすべてビッグバジェット(予算が高額な作品)だったことが原因です。もし実現していたら、僕のフィルモグラフィは今と全然違うものになっていたはず。「あずみ」「日本沈没」「宇宙戦艦ヤマト」など、実は最初僕のところに話が来ました。
──企画があっても、映画の完成に至るまでにはさまざまなハードルがあるのですね。
岩井 最終的に映画化できなくて、その準備で丸1年飛んでしまったこともあります。ビッグバジェット作品ほど実現するまでのハードル、難易度が高いのはやむを得ないですが、結果的に少しイビツな状況も生まれている気がします。普通に考えたら、映画なんて一般大衆の好きなものが優先的に作られている気がしますが、意外とそうじゃない。例えば「週刊少年ジャンプ」の連載のラインナップと比べても、あまり共通点がないというか。「呪術廻戦」「チェンソーマン」「鬼滅の刃」のような作品が普通に作られているかというと、人気IPの二次創作を除けば、ほぼない状況。この間、紀里谷(和明)監督が「
※編集部注:2023年に公開された映画。両親を亡くし、学校にも自分の居場所を見つけられずにいた女子高校生のハナが、政府機関を名乗る男に夢の内容を尋ねられることから物語が展開する。伊東蒼がハナを演じ、岩井もキャストとして参加した
紀伊 確かに「ジャンプ」を読んでいると妖怪や怪獣がたくさん出てきますが、オリジナルの映画として製作しようとすると「大変そうだから」となかなか手が出ないんですよ。製作者、つまりはお金を出す映画会社があきらめている。だから原作がないオリジナル作品の場合、いわゆる“人間劇”がラインナップの中心になっているんだと思います。アニメーションの世界では多種多様なジャンルものをどんどん作って数字を取っているから、余計に「実写はダメだよね」という風潮になっているのが現状じゃないですか?
岩井 コミックは紙とペンで生み出せるけど、映画は作るのにお金が掛かりますから。当然、安きに流れていく風潮になりますよね。観客のニーズを無視しているとまでは言わないけど、結局、“客が入る+あまりお金が掛からない”作品を作るという、リスクヘッジのほうにどんどん行ってしまった。日本の“失われた30年”は映画業界も例外ではなかったと感じます。
紀伊 映画にお金を掛けるというのは、プロデューサーができる最低限のこと。お金を掛ければ品質が上がって、競争力が上がる。だからこそ、プロデューサーがリスクを取らないといけないんです。映画のプロデューサーは予算をコントロールする、要するに予算内で作品を作らせることが仕事だと思われがち。でも僕は、予算を超えてもいいと判断をするのがプロデューサーの仕事だと思う。その分、責任はあるわけですよね。予算を超えた分を補えるように稼がないといけないし。でも、そういうふうにやっていかないと日本映画はデフレスパイラルから脱却できないと思う。
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」をフィルムで撮っていたら
──観客からしてみても、知らず知らずのうちに観られる作品の種類が減っていたということですね。
岩井 時代のムードというのもバカにならない。例えば昔のテレビドラマは、「太陽にほえろ!」などフィルムで撮られていたものが多かった。でもだんだんビデオで撮影する作品が主流になり、フィルムで撮影されたドラマはなくなっていった。
紀伊 当時はそう言われていましたよね。
岩井 でも今思えば、フィルムで撮ってネガが残っていたら4Kリマスターができたわけで。当時のビデオの解像度は、今の高画質な映像と比べたら残念すぎるレベル。どの時代でも、必ずしもハイクオリティが勝つわけではなくて、スペックの低いものが生き残ることもある。利便性で勝つ場合もあるし、理由さえわからない場合もある。もはや時代のムードとしか言いようのないケース。お酒の業界にも日本酒が敬遠された時代とか、ウイスキーが全然飲んでもらえない時代とかがありました。時代の嗜好に合わないとなると、どこまでも敬遠されてしまう。ただその敬遠されているジャンルが次の時代の担い手になるというケースもよくあるわけで。
紀伊 みんなが時間を掛けて競争していけば、もっといろんなジャンルの作品が出てくると思うんですけどね。出たとこ勝負になっているのがずっと続いている印象です。
映画界は新人発掘に消極的
岩井 あとずっと懸念していたのは、原作モノへの依存率が高いということ。小説やマンガは、新人賞など次の担い手を発掘する仕組みが確立されているじゃないですか。僕らが子供の頃からマンガ雑誌は新人募集をしていて、小学生でも「自分も描いてみようかな」と見よう見まねで始めてしまう仕掛けがありました。それに比べると映画界は新人発掘には消極的。ほかの業界から新しいアイデアを買ってくるのが主流。今はそういう関係性が出版界と映画界・テレビ界の間で結ばれていますよね。
──映画で、オリジナル脚本の企画を通すのはハードルが高いのでしょうか?
紀伊 現状、かなり高いですよね。
岩井 すべてオリジナルの仕事をしている脚本家はいるんですかね……。テレビ業界なら20人くらいいるかもしれない。大河ドラマや朝ドラはオリジナル脚本がむしろ主流です。テレビのほうが、そこはまだバランスが取れている気がしますね。映画業界ではなかなか難しい。
──映画業界には新人育成のシステムが少ないとのことですが、もう少し詳しくお伺いしたいです。
岩井 映画の場合、作る時点で安く見積もっても何千万も掛かってしまう。新人育成でひとまず失敗してもいいから、試しに何か作ってみようかとはなかなかならないですよね。この何千万をどうやって回収するのか?というところに話が行ってしまう。僕も若い頃「プレイワークス」という脚本のワークショップを主催していて、いいシナリオができたら映画化してもらえるように営業すればきっと誰かがお金を出してくれるだろうと軽く考えていたんですけど、そんなことはなかった。でもそのワークショップのおかげでNetflixシリーズ「First Love 初恋」の
映画プロデューサーの仕事は“実写化する”こと?
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村田泰祐 @Murata_Taisuke
K2紀伊さん、岩井俊二さん対談
✅出版業界に比べて映画界は新人発掘には消極
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