ミルクボーイ駒場孝の「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」第6回ビジュアル

映画超初心者・ミルクボーイ駒場孝の手探りコラム「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」 第6回 [バックナンバー]

僕にとって「TENET テネット」は、荒れ狂う夜の海

過去最速で置いていかれました

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これまで名作をほぼ観たことがないまま育ち、難しいストーリーの作品は苦手。だけど映画を観ること自体は決して嫌いではないし、ちゃんと理解したい……。そんな貴重な人材・ミルクボーイ駒場孝による映画感想連載。文脈をうまく読み取れず、鑑賞後にネット上のレビューを読んでも「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」となりがちな彼が名作を気楽に楽しんだ、素直な感想をお届けする。

第6回で観てもらったのはクリストファー・ノーラン監督作「TENET テネット」。未来で発明された時間を逆行する装置が登場し、“逆行”のルールが複雑なこと、そして時系列が非常に入り組んでいることなどから、ストーリーの難解さで有名な本作。前々回の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」で「何も考えずに観れる映画もあるんや」、前回の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で「これが伏線回収の面白さか」と気付いた駒場の目にはどう映ったのか。

/ 駒場孝(コラム)、松本真一(作品紹介、「編集部から一言」

エンドロールが流れてきたとき「待って待って!」

こんにちは。ミルクボーイ駒場です。今回鑑賞したのは2020年公開の「TENET テネット」という作品です。

スマホで映画を観ているとき、自分はまだまだ映画初心者だなと感じるのが、画面下に表示される、その映画のタイムのバーを定期的に表示させて残り時間を確認しているときです。集中していたり楽しんでいたら時間なんて気にならないはずなのに、僕はちょこちょこ見てしまう。このへんがダメだなと思います。それでも最近は、そのタイムのバーを表示させる回数が少なくなってきて、時間を忘れて気付けばエンドロールみたいなこともあったんです。ただ今回の「TENET」、本編150分中、タイムのバーをほぼ表示していました。というのも、退屈だからとかではなく、本当に訳がわからなさすぎて、「今何分? ここでこんなにわかってないのにこの先いける?」みたいな思いでタイムのバーを表示させまくっていたんです。

確かに観る前「少し難解ですがすごい映画です」と言われました。ただこれは“少し難解”どころではないです。僕は先月この連載で、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観て記念すべき伏線回収の楽しさの一歩目に立って、これから伏線回収大海原へゆっくり出て行こうという者です。そんな僕に「TENET」は荒れ狂う夜の海でした。もちろん今までよりかなりの覚悟を持って挑みました。ただ、観始めてすぐ「なんかいろいろ始まってる、マスクで顔がよく見えない、ヤバいヤバいヤバい」とか思ったとき、タイムのバーを見ると「2分55秒」でした。3分弱。おそらく過去最速で置いていかれました。

もちろんその時点で最初から観返しました。でもわかろうとしても同じようなところでまた置いていかれる。観返す、置いていかれる。の繰り返しで、これは永遠に観終わらないと思い、「最初からストーリーが全部わかることはないよ」というこがけんさんの言葉を思い出し、気になることはあれど観ていくうちにわかるかもしれないと、とにかく観続けることにしました。そしたらそのまま終わっていきました。一応、序盤のほうに出てきた合言葉みたいなやつはがんばってずっと頭の片隅に残していたのですが特に意味はなく(あったのかもしれないですが)、合言葉が頭の片隅スペースを2時間ちょいレンタルしただけで終わりました。ここまで難しいとは驚きました。エンドロールが流れてきたとき「待って待って!」と心から思いました。「『終わりました』の雰囲気出されても!」と思いました。当たり前ですが、ゆっくり堂々とエンドロールは流れていました。

エンドロール、もうちょいなんか言うことあるやろ

「TENET テネット」場面写真(写真提供:Warner Bros./Photofest / ゼータ イメージ)

「TENET テネット」場面写真(写真提供:Warner Bros./Photofest / ゼータ イメージ)

エンドロールが流れているときの感覚なのですが、マンガの「こち亀」(こちら葛飾区亀有公園前派出所)で1つのドタバタが解決して、大原部長が「ふぅ、一件落着だ。でも待てよ、両津がいらんことしていたな……」みたいな感じのことを言ってるときにそのコマの奥のほうで抜き足差し足で逃げようとしている両津がいて、それを部長が振り向かず気配だけ感じて怒りに震えながら「両津、お前も何か言うことあるよな?」と言って両津がギクっとなって「あ、パトロール行ってきまーす」などはぐらかして猛スピードで走りながら飛び跳ねてそれを後ろから部長が「待たんか両津ーーー!」と言いながら追いかける、みたいなシーンってあるじゃないですか? “エンドロール”が“両津”で、“僕”が“部長”だとしたら、「ふぅ、一応150分終わった。でもちょっと待てよ、結局何が言いたかったんだ」となっている後ろを、抜き足差し足で“両津”である“エンドロール”が逃げようとするのを“部長”である“僕”が「待たんかエンドロールーーー!」となるはずなのに、“両津”である“エンドロール”が抜き足差し足ではなくとんでもなく堂々とゆっくり歩いていってる、みたいな感じでした。何言ってるのか自分でもわからないですが、つまり「もうちょいなんか言うことあるやろ!」みたいな感じでした。もちろんエンドロールは両津ではなく何も悪いことをしていないので、ゆっくり堂々と流れていていいんです。いいんですが、こんな複雑なの見せて、何事もなかったかのようなエンドロールはちょっと待ってくれよという感じでした。

もちろん、観ていてところどころは、このシーンとこのシーンがつながっているのかなとか、思うところはあったのですが、97%は何が何やらわかりませんでした。観終わったあと、「夢」を見てるみたいやなと思いました。夢って、つながりもないし意味もわからない、不思議なことがたくさん巻き起こりますが、目覚めても覚えているくらいインパクトや妙な見応えはある。もちろん「TENET」を理解している人からしたら夢と一緒にするなと思うかもしれませんが、わからなかった僕からすると、「TENET」は「夢」みたいでした。

そしてネットのレビューを見たら「そんなこと言うてた?」だらけでした。なので今回の「そんなこと言うてた?」は、「全部」です。そもそも僕は本編で主人公の名前すら最後までわからなかったです。名前言ってました? 本当にそんなレベルでした。ただ全体的にはものすごい緊張感もあるし演技もアクションもすごい迫力のある作品でした。今後さらに映画力を磨いて、いつか「TENET」を攻略できるようがんばります。

編集部から一言

「オッペンハイマー」が第96回アカデミー賞で作品賞を受賞したことを記念し、今回は駒場さんにクリストファー・ノーラン監督作をいくつか提案させていただきました。その中でも「『ダークナイト』はノーランの中でも比較的見やすいはず」「『TENET』は難解なことで有名ですが、この作品の感想が一番読みたいかもしれません」と伝えたのですが、あえて「TENET」を選ぶところに芸人魂を感じます。そして「話がわからなかった」という内容で2000字埋めるとは。「どれだけ難しいのか、逆に観たくなった」と思ってくれる読者がいてくれるといいなと思いました。あと駒場さん、この映画で主人公の名前は出ておらず作品上でも単に「アメリカ人」とだけ呼ばれてます。脚本上の役名や、英語圏での公式サイトなどでの呼ばれ方も「主人公(The Protagonist)」なので「名前言ってました?」という感想は正しいです!

「TENET テネット」(2020年製作)

「TENET テネット」DVDジャケット (c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc.

「TENET テネット」DVDジャケット (c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc.

特殊部隊に所属する“名もなき男”は、フェイと名乗る人物からあるミッションを命じられる。それは、未来からやって来る敵と戦い、人類にとって核戦争以上の脅威となる事態を回避すること。そしてその任務のキーワードは“TENET”という言葉だった。監督はクリストファー・ノーラン、主演は「ブラック・クランズマン」のジョン・デヴィッド・ワシントン

駒場孝(コマバタカシ)

1986年2月5日生まれ、大阪府出身。ミルクボーイのボケ担当。2004年に大阪芸術大学の落語研究会で同級生の内海崇と出会い、活動を開始。2007年7月に吉本興業の劇場「baseよしもと」のオーディションを初めて受け、正式にコンビを結成する。2019年に「M-1グランプリ2019」で優勝し、2022年には「第57回上方漫才大賞」で大賞を受賞。現在、コンビとしてのレギュラーは「よんチャンTV」(毎日放送)月曜日、「ごきげんライフスタイル よ~いドン!」(関西テレビ)月曜日、「ミルクボーイの煩悩の塊」「ミルクボーイの火曜日やないか!」(ともに朝日放送ラジオ)など。またミルクボーイが主催し、デルマパンゲ、金属バット、ツートライブとの4組で2017年から行っているライブ「漫才ブーム」が、2033年までの10年を掛けて47都道府県を巡るツアーとして行われることが決定している。

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