ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。
第62夜は
文
ゾンビのルーツを背景に描くラブサスペンス
最後のコラムに選んだ作品は、ゾンビ映画の誕生作「恐怖城」である。ゾンビ映画といえば、ジョージ・A・ロメロが生みの親と言われているが、実はもっと昔にゾンビ映画は誕生していた。もちろん、世にゾンビ映画を広めたのは間違いなくジョージ・A・ロメロだが、この作品は1932年に公開されている。もし最後のコラムが来たら「恐怖城」を取り上げようと考えていたほど、ゾンビ映画を語る上では欠かせない作品。日本の古事記みたいなものだろう。
物語はマデリーンと婚約者のニールが挙式を上げるため、中南米のハイチにある、農園主ボーモンの屋敷に訪れることから始まる。道中、見慣れない習俗や葬儀、「ゾンビ」と言われる不気味な集団に遭遇するマデリーンたち。屋敷に到着すると宣教師に「ここに長居するな」と言われるものの、ボーモンからはもてなされる。一方、ブードゥー教の司祭であるルジャンドルの工場には、彼に操られているゾンビが働き続けていた。人を襲うことなく洗脳された、言わば「奴隷」だ。マデリーンに横恋慕していたボーモンは、ルジャンドルに相談し「ゾンビパウダー」を手に入れる。これを使ってマデリーンを仮死状態にし、自分のモノにしようと企んでいた。しかし、ボーモンだけではなくルジャンドルも彼女の美しさを手に入れたいと思い策に出る。
この作品で登場する「ゾンビ」は、人を襲う、喰らうゾンビではなく、洗脳された「奴隷」として描かれている。現代のゾンビとはスタイルが全く違うのだ。僕たちがよく映画で目にするゾンビというのは、ジョージ・A・ロメロが生み出した人喰いゾンビが派生して、今日の様々なゾンビへと姿を変えていったもの。「恐怖城」が描いているのは、ゾンビのルーツ。言うなれば、ノンフィクションに近い感覚だ。
ここでゾンビの起源に少し触れたいと思う。諸説あるが、まず西アフリカにブードゥー教のルーツとなる信仰を持った人々がいる。またコンゴでは「ンザンビ=不思議な力を持つもの」と言われる神が信じられており、コンゴ出身の奴隷によってハイチへ伝わる中で「ゾンビ」へと変わっていった。「ゾンビ」はブードゥー教の司祭が死者を掘り起こし、呪術を掛け蘇らせたもの。魂を壺に封じ込み、永久に働く奴隷を作り出していた。それがルーツとされている。
しかし、ここで僕が引っ掛かるのは「奴隷」として生きていたことだ。実は「ゾンビ」という言葉は隠語でしかなく、恐らくゾンビの起源の真相も疑わしい。社会的に嫌われ者やあるいは何らかの障害を抱えた人間を実際に奴隷として扱い、その事実を隠すかのように上記の神話のような言い伝えが起こったのではないだろうか。それで考えると、ロメロ監督が生み出した、人を襲う「ゾンビ=(奴隷)」は、奴隷の逆襲とも受け取れる。彼はゾンビ映画を通して社会風刺や、人間のエゴを描いてきた。ゾンビは単なるホラー映画のキャラクターではない、社会に蔓延る支配に立ち向かうシンボルだ。映画から脱線してしまったが、「恐怖城」はそんなゾンビのルーツを背景に描く、ラブサスペンスとも言える。ゾンビ映画を何本か観た方に特におすすめしたい。恋はいつもトラブルが付き物ですな。読者の皆さん、最後までありがとうございました。
磯村勇斗(イソムラハヤト)
1992年9月11日生まれ、静岡県出身。特撮ドラマ「仮面ライダーゴースト」のアラン / 仮面ライダーネクロム役、連続ドラマ小説「ひよっこ」でヒロインの夫となる役を演じ脚光を浴びる。第47回日本アカデミー賞では映画「月」の演技で最優秀助演男優賞を獲得した。出演ドラマ「不適切にもほどがある!」が現在放送中。連続ドラマW-30「演じ屋 Re:act」が初夏に放送・配信され、2024年には主演映画「若き見知らぬ者たち」が公開される。
「恐怖城」(1932年製作)
結婚式のため、ハイチにあるボーモン邸を訪ねたニールとマデリーン。ボーモンは快く2人を迎えるが、花嫁マデリーンを奪おうと密かに画策していた。そして謎の男ルジャンドルと共謀し、マデリーンに毒を盛って彼女をゾンビにしようと試みる。しかし、その裏でルジャンドルにはある思惑があった。
ガーネット・ウェストンが原作・脚本、
「恐怖城」DVD販売中
税込価格:1926円
発売元・販売元:フォワード
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