足立拓朗

テレビマンが作るドキュメンタリー映画 #2 [バックナンバー]

足立拓朗(東海テレビ) / 映画制作の原点は“人生の転機”となった御嶽山噴火の取材

ドキュメンタリーは、紛れもなく取材対象の魅力に助けられている

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「さよならテレビ」で“マスゴミ”として扱われる予定だった

──先ほどからも話に出ていますが、本作のプロデューサーを務めた東海テレビの阿武野さんと土方さんは、足立さんにとってどういう存在なんでしょうか。

1月27日に東京・ポレポレ東中野で行われた「その鼓動に耳をあてよ」初日舞台挨拶の様子。左から阿武野勝彦、土方宏史、足立拓朗、櫻木佑、蜂矢康二、北川喜己。

1月27日に東京・ポレポレ東中野で行われた「その鼓動に耳をあてよ」初日舞台挨拶の様子。左から阿武野勝彦、土方宏史、足立拓朗、櫻木佑、蜂矢康二、北川喜己。

※編集部注
阿武野勝彦:1981年入社。プロデュース作に「人生フルーツ」「テレビで会えない芸人」など
土方宏史:1976年入社。監督作に「ヤクザと憲法」「さよならテレビ」など

阿武野は“親父”ですね。古きよき時代の親父みたいな感じで、部下に権限を持たせて、細かいことは何も言わないけど、何かあったときは表に出てきてくれて、助けてほしいときはスパッと一言助けをくれる。

──理想の上司ですね。どういった言葉が印象的ですか?

御嶽山の遺族の取材のときに「お前が彼らの光になりなさい」って言われたことですかね。「何言ってるの? 光ってなに?」と思わせるようなアドバイスをするんです。細かく言わないし、僕はわからないからボイスレコーダーを仕込んで阿武野のところに行ってたんですけど(笑)。

──あまり直接的に「こうしなさい」って言わない方なんですね。

たぶん全体を捉えてるんじゃないですかね? 行く末も見えてるような気がします。だけど細かく言うと成長につながらないから、そこは悶えさせるというか(笑)。実際、土方もそれをまねているのかなと。

──土方さんに関しては、記者・ディレクターの先輩としてどう思っているんですか?

人としてはめっちゃしっかりしてますし、天才だし、制作者として尊敬してます。でも、メールとか事務作業みたいなことはあんまり得意じゃないので、年齢的には一回り違いますけど“手間のかかる夫”みたいな(笑)。「もう!」って思うことも多いですけど、最後は全部助けてくれるし、取材のときに何をつかまなきゃいけないのか、といった感性は圧倒的にずば抜けている。本質をすぐ見抜いてきます。

──土方さんからの影響はどういうところで受けていますか?

足立拓朗

足立拓朗

僕が報道に来てすぐの頃から、取材対象とのあり方とか、取材の仕方も含めて相当育ててもらいました。僕、「さよならテレビ」(※)の取材対象だったんです。結果的に出てはないですけど、“マスゴミ”っぽい部分を切り取って構成される予定だったので危なかった。そうなってたら今僕ここにいないと思うんですけど(笑)。

※編集部注:土方が制作したドキュメンタリーで、2020年に劇場公開された。同局の報道部にカメラを入れ、現代の若者がテレビを持たない背景や、テレビの現場で今何が起こっているのかに迫った。

──当時映画館で観て、衝撃的でした。放送局の内側をここまで映してしまうのか!と。

あれ観てると汗だくになるんですけど(笑)。御嶽山のドキュメンタリーのときも、取材している僕を土方が撮ってたんですよ。客観的に見られていて、取材後に「さっき、なんであんな質問したの?」とアドバイスをもらったり。物事を切り取って要素を組み立てていく土方は、ドライでもあるしちょっと怖いですけどね。

地域を掘っていかないと、存在意義がない

──今回は名古屋の病院を舞台にしていますが、普段の仕事で“地元”って意識されていますか?

勝手な見方ですけど、僕らは愛知を“大いなる田舎”って呼んでいて。都会じゃなくて田舎の一番上っていう位置付けなんですよね。身内に優しくて外に厳しい閉鎖社会で、まだ昭和感が残っている会社や組織、人がたくさんいるイメージです。ものづくりの街でもある愛知にいるそういう人たちを、ちゃんと発掘しなきゃいけないと思ってます。人情あふれるところとか、非効率だけどがんばってる人とか、世の中に必要なことをやっている人たちってけっこういる。東海テレビ製作のドキュメンタリー映画も、「ヤクザと憲法」以外は全部地元が舞台ですね。地域を掘っていかないと、存在意義がないよなって思います。

東海テレビで2017年に放送された番組「家族のキモチ」の取材時の様子。

東海テレビで2017年に放送された番組「家族のキモチ」の取材時の様子。

──今後、愛知で取材したいこと、作りたいものが浮かんでいたりしますか?

最近それはすごく悩んでいます。2023年12月に、御嶽山噴火の9年間の取材をまとめた番組(「ひまわりと登山靴」)を放送したのもあって、燃え尽き症候群のような感じになっていて……。僕の報道マンとしての根底は、御嶽山のご遺族の取材を9年間続けてきたこと。映画も魂を込めてやりつつ、御嶽山の取材だけは絶対に続けようと決めていたんですが、今は手持ちをすべてリリースした状態ですね。でも、医療ものはもう1本作ったほうがいいんじゃないかなと思ってます。またERでやってもいいし、行き詰まっている日本の医療制度という目線でもいいなと。

──楽しみにしています。最後に、テレビ局発のドキュメンタリー番組や映画化されたもので、今までにすごいと思った作品はありますか?

やっぱりうちの会社のものが面白くて、特に「平成ジレンマ」ですかね。あと、本当にすごいなと思ったのはNHKの「正義の行方~飯塚事件 30年後の迷宮~」というドキュメンタリー番組ですね。

配給・東風の担当者 「正義の行方」映画化しますよ! 東風配給で、4月27日公開です。

うそ!? まじかよ……めっちゃうれしいです! 福岡の飯塚事件の話なんですけど、あれもまさに映画の作り方っていうか。「はだかのER」を第77回文化庁芸術祭に出したときの大賞が「正義の行方」で、どうやらうちは僅差で負けたらしいんです。審査員の議事録には「正義の行方」について「議論が白熱した」と書いてあって、どんなもんやねんと思って観たらすごかった。撮れている素材で言うと、ぶっちゃけ僕らのほうが撮れているんですけど、あの番組は報道マンが演出家として作った感じ。例えば報道の考え方だと車のシーンは一緒に乗って撮ったりするけど、あえて車輪のところにGoproカメラを付けて、車がぐいーんと回るようなシーンを意図的に演出したりとか、ドローンもすごく細かく使っていたりする。報道なんですけどドラマなんですよ! あっぱれでしたね。映画、楽しみです!

※土方宏史の土は点付きが正式表記

足立拓朗(アダチタクロウ)プロフィール

1987年生まれ。金沢大学大学院を卒業後、2012年に東海テレビに入社。営業部を経て2014年に報道部へ異動。遊軍・経済・警察などを担当しながら、御嶽山噴火、熊本地震、北海道胆振東部地震といった災害地取材を多く経験する。ディレクターを務めたドキュメンタリー作品に「家族のキモチ」(2017年)、「はだかのER 救命救急の砦2021-22」(2022年・第77回文化庁芸術祭優秀賞受賞)、「ひまわりと登山靴」(2023年)がある。初監督作「その鼓動に耳をあてよ」は全国で順次公開中。

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東海テレビドキュメンタリー劇場 最新作『その鼓動に耳をあてよ』全国公開決定 @tokaidocmovie

㊗ついに3/16㊏~地元・名古屋での上映開始✨
ナゴヤキネマ・ノイのオープング作品に選んでいただき嬉しいです✨

◤ドキュメンタリーは、紛れもなく取材対象の魅力に助けられている◢
映画ナタリーでは本作の足立監督インタビューも掲載中です▷https://t.co/1hOwPLkGEb… https://t.co/RQdg7AqzgL https://t.co/mtkPWRudrz

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