左から村山章、西森路代、ビニールタッキー。

2023年の映画界を振り返る、村山章×西森路代×ビニールタッキー鼎談

“希望の星”マ・ドンソク、低調なMCU、「バービー」「マリオ」の大ヒット、騒ぎになったバーベンハイマー

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2023年は映画業界においてどんな年だったのか? 映画ナタリーでは、ハル・ハートリー作品の広報や配給業務に携わる映画ライターの村山章、6月に書籍「韓国ノワール その激情と成熟」を発売したライターの西森路代、“映画宣伝ウォッチャー”のビニールタッキーによる鼎談を実施。年の瀬に1年間を振り返った。

取材・/ 小澤康平

参加者プロフィール

村山章(ムラヤマアキラ)

1971年12月24日生まれの映画ライター。2009年より続く「しりあがり寿 presents 新春!(有)さるハゲロックフェスティバル」では、初回から運営スタッフを務める。配信系映画やドラマのレビューサイト・ShortCutsの代表。2017年からハル・ハートリー作品の広報や配給業務にも携わっている。

村山章 (@j_man_za) | X

西森路代(ニシモリミチヨ)

愛媛県生まれのフリーライター。主な仕事分野は韓国映画、日本のテレビ・映画についてのインタビュー、コラム、批評など。著書に「K-POPがアジアを制覇する」「韓国ノワール その激情と成熟」、共著に「韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020」などがある。

西森路代 (@mijiyooon) | X

ビニールタッキー

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。

ビニールタッキー (@vinyl_tackey) | X

希望の星はマ・ドンソク

ビニールタッキー 実は僕、お二人のファンでして。トークイベントに客として参加したこともあるので、今回お話しできて光栄です。

西森路代 え、そうなんですか! ありがとうございます。私もお話ししてみたいと思っていました。

村山章 僕もビニールタッキーさんのXアカウントをフォローしてますし、いつもポストを楽しみに拝見しています。

ビニールタッキー ありがたいです。

村山 2023年の映画界を振り返るということで、何から話すべきかを考えていたのですが、まずは配信の話からしてもいいでしょうか? 5年くらい前までは配信が作品の多様性を担保してくれて、救世主になってくれるかと思っていたんですが、最近はディズニープラスのオリジナル作品が知らぬ間に配信停止にされていたり、NetflixやApple TV+でも打ち切りになるドラマが急増していて。それが100%悪いこととは言い切れませんが、自分の好きな作品がいつかは観られなくなってしまうかもしれないという危機感をひしひしと感じています。皆さんはいかがですか?

ビニールタッキー 確かにそうですよね。Netflixは映画会社がやらないような面白いことをやってくれて、ディズニープラスは自分たちのIP(知的財産)を生かして今まで観れなかったものを作ってくれるなど、数年前はワクワク感がありました。ただ最近は予算の都合などであっさり終わってしまうことが増えてきている気がします。野心的に始まったものが結局コストの問題で切られていくことには、正直「あれ?」という気持ちがあります。

村山 配信サイトの規模が大きくなりすぎて、メジャースタジオへのカウンターとしては機能しなくなってますよね。今度はきっと主要配信サービスに対するカウンターが出てきて、それはそれで面白いことだと思うんですが。アジアの配信作品はどんな感じですか?

西森 配信停止になったり打ち切られたりして残念というニュースはあまりなかったんですが、韓国では劇場公開作の興行が不振で。コロナ前は1000万人観る映画が年に何本もあるという状況が6、7年は続いていましたが、今は500万人で大ヒットという感じです。

ビニールタッキー 韓国映画ってコメディもアクションも面白くてすごいなと思うんですが、興行的には苦戦しているんですね。

西森 日本と比べるとコロナの影響を大きく受けていて。大物俳優が出演している作品でも興行的に振るわないものはあって、そんな中で人気なのがマ・ドンソク。日本で2024年2月23日に公開される「犯罪都市 NO WAY OUT」は、韓国で観客動員1000万人を達成しました。

「犯罪都市 NO WAY OUT」日本版ビジュアル (c)ABO Entertainment presents a BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM &
B.A. ENTERTAINMENT production world sales by K-MOVIE ENTERTAINMENT

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村山 マ・ドンソク人気は本当なんですね。「この人が出ていたら必ず観る」みたいなスターシステムは世界的にあまり機能しなくなってきていると思っていたんですが、希望の星はマ・ドンソクということか。

ビニールタッキー 納得ですね!

西森 「犯罪都市」以外のシリーズを作って大ヒットするかはわからないんですが、そもそも韓国ってシリーズものが流行ることがあまりなかったので、マ・ドンソクの功績は大きいと思います。個人的には「イカゲーム」のイ・ジョンジェが監督した「ハント」がすごくよくて、今までにヒットしたポリティカルフィクションに引けを取らない出来でした。「突然すごい監督が爆誕した!」と思ってます。

「ハント」ビジュアル 各動画配信サービスにて先行配信中 2024年2月2日(金)より吹替版配信スタート 豪華版Blu-ray 2024年2月2日(金)発売 6380円(税込) 豪華版DVD 2024年2月2日(金)発売 5280円(税込) レンタルDVD 2024年2月2日(金)リリース 発売元:クロックワークス 販売元:TCエンタテインメント (c)2022MEGABOXJOONGANG PLUS M, ARTIST STUDIO & SANAI PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

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ビニールタッキー 初監督作としてはすごすぎましたよね。

西森 ですよね! あとは今久しぶりに「ソウルの春」という映画が、「犯罪都市 NO WAY OUT」を超えるほどの大ヒットになっていて。「アシュラ」のキム・ソンスが監督を務め、ファン・ジョンミンチョン・ウソンパク・ヘジュンらが出演している作品なんですが、日本ではクロックワークス配給で2024年に公開されるそうなので楽しみにしています。

低調なMCU、ユニバースものの未来は…

村山 ハリウッドの作品では、最近はMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が失速してきていると言われてますよね。実際、興行的にも落ちてきている。

ビニールタッキー 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」は世界的に大ヒットしましたが、「アントマン&ワスプ:クアントマニア」「マーベルズ」はあまり伸びなかった。ただ作品はどれも面白かったです。

村山 マーベルの強さは作品それぞれの出来よりキャラクターの魅力だと思っているんですが、急にキャラクターの描き方がダメになったという話ではないですよね。

ビニールタッキー 「マーベルズ」で言うと、キャプテン・マーベルは2019年に単独主役の「キャプテン・マーベル」がありましたが、ミズ・マーベルはディズニープラスのドラマ「ミズ・マーベル」で初登場したキャラクターです。実際に観てみたら、そこまで予習をしていなくても楽しめる映画だったんですが、「全6話の『ミズ・マーベル』を観ておかないといけないの?」みたいに敬遠しちゃう人もいるのかなと思いました。

村山 映画を1本観るのと、配信サイトの会員になってドラマシリーズを全部観るのとではハードルの高さが違いますもんね。

ビニールタッキー 数十年前は基本的にはヒーローって白人男性だったんですが、ミズ・マーベルはパキスタン系アメリカ人で、モニカ・ランボーはアフリカ系アメリカ人。監督のニア・ダコスタはMCUシリーズ初のアフリカ系女性監督だったり、意欲的な映画なんですよね。作品が悪いから大ヒットしなかったのではなく、“ヒーロー離れ”や“ユニバース疲れ”で観客の気持ちが下がっているタイミングだったからというのはあると思います。

村山 MCUの成功があったからだとは思うんですが、ユニバース的なプロジェクトは増えてますよね。2014年の「GODZILLA ゴジラ」から始動したモンスターバースとしては、Apple TV+でドラマ「モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ」が配信されてますし、長編5作目「ゴジラxコング 新たなる帝国」は2024年4月26日に公開されます。

西森 日本のハイロー(「HiGH&LOW」シリーズ)はユニバースと言えますし、先日ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の世界線と交差する映画「ラストマイル」も発表されましたね。「あの世界をもうちょっと観たい」という気持ちは、映画館に行く動機になるなと思います。

塚原あゆ子が監督、野木亜紀子が脚本を担当する「ラストマイル」のティザービジュアル。(c)2024「ラストマイル」製作委員会

塚原あゆ子が監督、野木亜紀子が脚本を担当する「ラストマイル」のティザービジュアル。(c)2024「ラストマイル」製作委員会

村山 今年の9月に「PATHAAN/パターン」というインド映画が日本公開されたんですが、この作品はサルマーン・カーンカトリーナ・カイフが主演した「タイガー 伝説のスパイ」(2012年製作)や、リティク・ローシャンタイガー・シュロフ共演の「WAR ウォー!!」(2019年製作)とつながってるんです。インドネシアの企業・ブンミラゲットがMCUにならって始めたBCU(ブンミラゲット・シネマティック・ユニバース)というのもあって、ヒーロー映画「スリ・アシィ」が日本で公開中だったりします。

ビニールタッキー それは知らなかったです(笑)。そういえば8月公開の「トランスフォーマー/ビースト覚醒」は、あるシリーズとのクロスオーバーを示唆する終わり方でした。

村山 ユニバース乱立問題が生じていますね(笑)。今後MCUが息を吹き返さないとも限りませんし、ユニバースの未来は果たして……。

西森 そんな中で、韓国はユニバースとうたっている映画がほとんどないんです。たぶんキム・ダミシン・シアが主演した「魔女」(「The Witch/魔女」「THE WITCH/魔女 -増殖-」)くらい。韓国は日本と同様にアメリカのエンタメの影響があるのに、IPという意味では現時点で、同じにはならないというのが面白いです。ただ、映画ではなく、今年ヒットしたディズニーの韓国ドラマ「ムービング」とかはユニバースものになるのかなと思います。

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「バービー」「マリオ」が大ヒット、ポイントはIPの活用?

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ビニールタッキー @vinyl_tackey

映画ナタリーさんの2023年の映画界を振り返る鼎談に参加しました!村山さん、西森さんという尊敬するお二人とお話しできて光栄でした。明るい話暗い話笑える話色々しましたのでぜひご覧ください。

2023年の映画界を振り返る、村山章×西森路代×ビニールタッキー鼎談 https://t.co/LTWJ9VXEME

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