フィル・タン(湯昇榮)

映画ナタリーが見たコンテンツビジネスの祭典・2023 TCCF Vol. 2 [バックナンバー]

「模仿犯」「悪との距離」などをプロデュース!台湾ドラマ・映画界の重要人物フィル・タンが語る台湾コンテンツの今とアジア交流の重要性

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アジアのコンテンツビジネスの祭典「2023 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」が11月7日から12日まで台湾・台北で開催された。同イベントのメイン企画の1つが、参加者が企画をプレゼンし、国内外の出資者から支援を募ることができるPITCHINGだ。4年目となる今年は初めて、世界中から企画を募集し、世界29の国と地域から539の企画の応募があった。

映画ナタリーでは、台湾の小説やマンガの映像化を目指す「Story to Screen」にて選件委員、審査委員会に参加したフィル・タン(湯昇榮)にインタビューを実施。プロデューサーとしてNetflixシリーズ「模仿犯」や、ドラマ「悪との距離」「茶金 ゴールドリーフ」など、数多くの大ヒット作を手がけてきた彼は、今回のPITCHINGをどう見たのか?

取材・/ 金子恭未子

PITCHINGにはさまざまなジャンルの作品が参加

──フィル・タンさんはこれまで「悪との距離」「次の被害者」「茶金 ゴールドリーフ」など数々のヒット作を生み出してこられました。幼少期や学生時代はどんなものに影響を受けたのでしょうか?

僕は客家人なので台湾の中部にある客家村で育ちました。子供の頃からテレビっ子でしたし、家の近くに軍営があってそこでは毎日映画が流れていたんです。多種多様な人々が住んでいて、とてもオープンな雰囲気の中で育ちました。大学卒業後は記者になって、そこからテレビ番組、ドラマ、ラジオ制作に携わるようになりました。作詞を手がけていたこともあったので、金曲奨(音楽の賞)の審査員を7年間務めました。もともと記者だったこともあって、社会の動きはとても気になるもの。そういった影響が「悪との距離」「次の被害者」「火神の涙」といった作品に出ていると思います。また僕の母は1980年代に日本で働いていて、兄も日本に留学していたんです。祖父母が日本統治時代に小学校の先生をしていたこともあり、日本との関係性が深い。日本の情報は身近にあって、子供の頃は日本の雑誌を見ていました。全然読めないんですが、そこに掲載されている写真を見ては、いろいろと調べてみたり。そんなふうに培った世の中に対する好奇心が僕のマルチな方向性につながったと思います。

フィル・タン(湯昇榮)

フィル・タン(湯昇榮)

──今回、TCCFのPITCHINGには世界29の国と地域から539の企画の応募がありました。フィル・タンさんは「Story to Screen」の選件委員、審査委員会に参加されていらっしゃいますが、いかがでしたか?

台湾ではTAICCAがさまざまなマッチングの支援をしています。例えば、ここ数年、出版社と映像業界がタッグを組んでIPを大きなものにしていくといったことに取り組んでいる。今年も多くの作品がPITCHINGに集まりました。アジアのトレンドは犯罪系やホラー系。今回のPITCHINGにもそのトレンドが反映されていたと思います。もちろんラブストーリーもありましたが、もう少し社会に寄り添った形にアレンジする必要がある。もっと新しい見せ方を模索していかないとダメだと感じているんです。PITCHINGではクリエイターの力を感じましたが、世の中で愛される作品を作るためにはパワー、推進力が必要です。TCCFには賞が設けられているので、そういった推進力になればいいと思っています。

──昨年は中国語でプレゼンしている参加者も多くいましたが、今年の「Project to Screen」は英語でのプレゼンが基本になりました。イベントはより国際色豊かに、企画もさらに多様化した印象を受けました。

今回のPITCHINGには歴史的な背景を持った作品もありましたよね。僕も「茶金 ゴールドリーフ」を作りましたが、過去を舞台にした作品を撮影するにあたってはやはり、パワーとリソースが必要。時代劇を作るためには、産業全体で支援していかないといけないと思っているんです。今はさまざまなOTTプラットフォームがあって、視聴者が途中で観たくなくなったらスキップできたりする。僕たち作り手がよりよいものを提供していかなければならないと思っています。

アジア全体でチャンスを生み出すことが重要

──日頃から世界各国のコンテンツに触れていると思いますが、フィル・タンさんが作品を手がけるうえで大切にしていることは?

ここ数年は俳優さんたちが実力を発揮できる作品であるかどうかをとても重視しています。今年は宮部みゆき先生の小説をもとにした「模仿犯」をNetflixでリリースしましたが、ウー・カンレン(呉慷仁)の演技力が遺憾なく発揮されていました。ここまでできる俳優なんだと、彼の力にやっとみんなが気付いたと思っています。俳優が演技経験を積めるよう、さまざまなジャンルやテーマの作品で出演機会を与えることが大切です。例えば、アニメーション映画「八戒」ではグレッグ・ハン(許光漢)やシャオ・ユーウェイ(邵雨薇)、リウ・グァンティン(劉冠廷)を声優としてキャスティングして、普段の演技とは違った表現にチャレンジしてもらっています。台湾は数年前までアイドルドラマが主流でしたが、ここ5、6年でガラッと変わった。犯罪系、コメディ、ホラーなど、さまざまな作品が登場しています。それが、俳優さんの能力を高めることにつながっている。役者は観られることによって、愛され、世界に通用する表現者になっていくと思います。

また世界中のクリエイターと作品を作る取り組みも行っています。「次の被害者」Season2にはディーン・フジオカ(藤岡靛)さんが出演しますし、「聽海湧(原題)」という作品には塚原大助さん、松大航也さんが参加しています。「化外之醫(原題)」では、ベトナム映画の帝王と称されるリエン・ビン・ファットさんをキャスティングしました。実はベトナムの有名俳優を10人ほど紹介してもらったんですがピンと来なくて。ドラマや映画で彼を見つけて、台湾に来てくれませんか?とオファーしました。現場のコミュニケーションは英語で取っていて、セリフも半分以上が英語です。

──海を越えて共同制作することで、より多くの人の注目を集める作品になりますよね。

アジアで交流していくのもすごく大事ですね。例えばグレッグ・ハンは、藤井道人監督の日台合作映画「青春18×2 君へと続く道」に出演していますし、韓国ドラマ「ノー・ウェイ・アウト」にも参加しています。アジア全体でチャンスを生み出し、ハリウッドでも売り出していく。そういう流れを生み出す努力もしているんです。

──TCCFには日本のクリエイターやバイヤーも参加していて、今後ますます日台の交流が活発になることが期待できました。

私も台湾と日本に関連のある物語をすでに、3、4個抱えているんです。一緒に仕事をしたい日本のクリエイターはいっぱいいる。日本の役者さんや監督と日本で撮影することもあるでしょうし、日本のクリエイターを呼んで台湾で撮影することも考えています。台湾と日本は友好的な関係にあるので、交流は増えていくと思います。今年の金馬奨にも北野武さんなどが参加しました。今後もこういった交流を増やしていきたいと思っているので、ぜひ期待してください。

フィル・タン(湯昇榮)

瀚草文創(グリーナーグラスカルチャー)の董事長。プロデュース作品に「悪との距離」「茶金 ゴールドリーフ」「模仿犯」「次の被害者」「火神の涙」などがある。

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