映画と決算 第6回 [バックナンバー]
IMAXの成長戦略とは?世界中に広がる圧倒的な映画体験
「『Oppenheimer』を上映しているからIMAXで観よう」から「IMAXで何を上映しているか?」へ
2023年8月22日 17:30 16
米ロサンゼルス在住のライター・平井伊都子がエンタメ関連企業の決算を読み解く連載第6回。今回はここ10数年で日本の映画館にも浸透し、巨大なスクリーンと最新の音響システムで圧倒的な映画体験を提供してきたIMAXを取り上げる。独自の上映システムを開発したIMAXコーポレーションの歴史と最新決算から、映画の未来を読む。
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IMAXは教育目的の上映からハリウッドへ
世界中でPLF(プレミアム・ラージ・フォーマット)と呼ばれる、IMAXやDolby Cinemaなど大画面や高音質を売りにした上映方式が人気を集めています。日本でも、昨年の「
IMAXコーポレーションは、1967年に映画技術者たちによって設立された映写技術とIMAXカメラの開発を行うカナダの企業です。万国博覧会などで上映するエキシビション映像用技術を手がけ、より大きなスクリーンで、より鮮明に、より快適な映像鑑賞体験を追求してきました(実は世界初のIMAX映写機による上映は1970年の大阪万博です)。そういった技術ファーストの企業理念から大きな変革を遂げたのは、1990年代に投資家が買収し、NASDAQに上場してから。教育機関などと組んだ技術開発から、ハリウッドのスタジオへとパートナーをシフトさせていきました。2009年の「アバター」でIMAXの名が世界中に知れ渡り、
クリストファー・ノーランは“IMAXの宣伝部長”
IMAX社とIMAXカメラの開発を協働するクリストファー・ノーランと撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマは、3時間に及ぶ「Oppenheimer」全編をIMAXフィルムカメラと65mmフィルムで撮影しました。ノーラン監督は、子どもの頃に美術館で観たIMAXの解像度に魅せられ、「
配給のユニバーサル・ピクチャーズは、IMAX 70mmフィルム上映、70mmフィルム上映、IMAXデジタル上映、Dolby Cinemaなど様々な種類のPLF上映形態を提供し、7月21日の北米公開日から3週間は北米2490スクリーン(うち70mm対応は19スクリーン)のIMAXシアターを独占し、上映する契約を結んでいました。そのうち多くのIMAX 70mm対応劇場では、8月末まで上映を延長しました。通常版の鑑賞料金に比べて、IMAXなどのPLF上映は追加料金がかかります。例えば、ノーラン組がテスト上映を行い太鼓判を押したLAにあるUniversal Cinema AMC at CityWalk Hollywoodでは、デジタル上映が17.75ドル(約2583円)、IMAX 70mm上映は24.75ドル(約3601円)となっていますが、北米では現在もIMAX 70mm上映のチケットの売り切れが続いています。ちなみにノーラン監督の好みの座席は、「シネマスコープ(アスペクト比2.35:1)では前方寄りの3列目真ん中あたり。IMAX(1.43:1)だと、センターラインよりも少し後ろの真ん中あたり」とのこと。
ジブリ初のIMAX公開も実現、日本アニメの可能性
「Oppenheimer」公開の翌週7月26日に行われたIMAX社の第二四半期決算発表で、CEOのリチャード・ゲルフォンド氏は満足そうにこう述べました。「映画興行が比類なき文化的・商業的な力として再認識され、IMAXが映画技術の最先端でその地位をますます強固なものにしていることを実証いたしました。IMAXのパラダイムシフトがこれほどまでに顕著になったことはありません」。
「Oppenheimer」に限らず、世界中でIMAXなどのPLF上映が興行成績における割合を増やし続けています。日本でも「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」の公開週末の興行成績のうち20%が48カ所のIMAXスクリーンによるものだったと語っています。IMAX上映はハリウッド大作映画だけでなく各国のローカル作品へもリーチを広げ、IMAXシアター全体の売り上げのうち30%を占めています。世界1638カ所のIMAX上映館のうち779館が中国にあり、「封神演義第一部(Creation of The Gods I:Kingdom of Storms)や「流浪地球2 (The Wandering Earth II)」のヒットにより、IMAXの興行収入は前年比150%以上の伸びを示しています。日本ではスタジオジブリ作品として初めて
鍵は“プレミアムな体験”
北米で劇場を持つNetflixも、最近Dolby Atmosの導入でリニューアルしたNYのパリスシアターで「ビッグ&ラウド」と題した特別な映像体験を約束する70mm上映の特集を行います。Netflixオリジナル作品の「
多様なラインナップを揃えることは、現在もハリウッドで続いている脚本家組合と俳優組合のストライキの影響を軽減する手段でもあります。ストライキが長引くにつれて、大作映画の上映延期の噂も聞こえてくるようになりました。IMAX社の決算発表後のオンライン記者懇談でゲルフォンドCEOは、11月3日に北米公開を予定している「
そのApple TV+を運営するアップルも、“プレミアム体験”を成長の軸に考えています。8月3日に発表された第二四半期の決算では、App Store、Apple Pay、Apple Card、そしてApple TV+、Apple Music、iCloudの全てを含めたサブスクリプション有料登録者が、全世界で10億件を超えたと発表。パーソナルコンピュータやiPhoneなどのハードと、ソフトのサブスクリプションサービスを二大柱に、今季も好調を印象付けました。6月には、北米での価格が約3500ドル(約51万円)のVRヘッドセット、Vision Proの発売を発表。このヘッドセットは、アップル初の3Dカメラ搭載で写真やビデオが撮影できるとともに、横幅100ft(約30m)ほどの“パーソナル映画館”として機能するようです。発表会にディズニーのボブ・アイガーCEOも列席し、2024年初頭のVision Proの北米発売開始時には、ディズニープラスのサービスも全てVision Proに対応すると発言しました。文字通り、PLFのような臨場感溢れる映像を自宅で、一人でも体験できるようになるとか……。劇場もストリーミングも、飽和状態の市場を勝ち抜くにはプレミアム体験がキーワードになりそうです。
※1 IMAX_2023_Q2_Financial_Results_Presentation_R3
※2 Christopher Nolan breaks down the best ways to watch a movie, ahead of his 'Oppenheimer' release | Associated Press News
※3 BIG & LOUD | Paris Theater
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- 平井伊都子
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アメリカ・ロサンゼルス在住。映画雑誌の編集や任期付外交官(文化担当)を経て、現在は映画ライター、ジャーナリストとして活動する。2021年からゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)に所属。
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面白い記事だった。勉強になる
Apple TV+が劇場上映に力を入れていくというこの記事と合わせて読むとよりワクワクするかも
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