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ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第46夜 [バックナンバー]

選者 / 野水伊織「サマー・オブ・84」

ただのジュブナイル映画…?安心しきった先にある戦慄の結末

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ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。

第46夜は野水伊織が「サマー・オブ・84」を推薦。結末に思わず「うへぇ……」と声が出たという彼女は、数あるジュブナイル映画を挙げながら本作を紐解いていく。

/ 野水伊織(コラム)、田尻和花(作品紹介)

最初と最後に流れる同じモノローグの温度差を、ずっしりと感じるが良い。

「サマー・オブ・84」場面写真

「サマー・オブ・84」場面写真

夏、暑い夏。幼少期から、夏は少年のものだという感覚が拭えない。
素足で駆け回り虫を探し、泥まみれになって汗をかいて、怒られてもそれが元気の証。スポーツに明け暮れ日焼けして、汗臭くてもそれが“男らしい”。逆に女性は汗をかかずにいい香りを漂わせ、暑くても美しさを保っていなくてはいけないのだという個人的な呪いにかかっている。
正直私は女性という性別に生まれて、生きることがずっと心苦しい。だからだろうか。キラキラと輝いて見える、少年たちの一夏のジュブナイルにとてつもない憧れがある。
そんなジュブナイル作品の中でも、子どもたちが冒険の中でホラーな目に遭う作品といえば、「IT/イット」(1990)、「ディスタービア」(2007)などこれまでにもあるが、とりわけ私に衝撃を与えたのは「サマー・オブ・84」(2017)だ。

1984年の夏。アメリカの田舎町で、子どもばかりが狙われる連続殺人事件が発生。
好奇心旺盛な15歳の少年デイビーは、向かいの家の警察官・マッキーがその犯人ではないかと疑い、親友たちと独自の捜査を開始する。
デイビーの推理は当たっているのか、ただの妄想に過ぎないのか……。

監督は「ターボキッド」(2015)の、フランソワ・シマールアヌーク・ウィッセルヨアン=カール・ウィッセルからなるユニットRKSS(Roadkill Superstars)。「ターボキッド」は低予算BMX版マッドマックスと呼ばれ、レトロでおバカなゴアゴア作品で面白かった。だから次作の「サマー・オブ・84」も楽しみだな~なんて気楽なノリで観たところ、その結末に度肝を抜かれた。
「ラスト○分間が見逃せない!」とか「どんでん返しに驚かされる!」系の惹句が添えられた映画は多々あるが、大抵が期待値が上がりすぎて肩透かしを喰らうように思う(これは完全に余談だが、私は「シックス・センス」(1999)以来、M・ナイト・シャマランがどんでん返しを期待される監督になってしまったことを悲しく思っているシャマラニストである)。
そもそも目が肥えた映画ファンは、そういった惹句が付いた時点で予想や考察をしながら鑑賞するため、本当に驚かされることなんてそうそうないだろう。
だがしかし「サマー・オブ・84」の惹句「トラウマ級の戦慄の結末!」は、シンプルな言葉ながらまさにその通り。胸糞ホラーもバッドエンドも大好きな私でさえ、観終わった後さすがに「うへぇ……」と声が出た。

とはいえ結末以外はホラーというほど怖いシーンもほぼなく、どちらかと言うとお決まりのジュブナイルの顔をしている。
80年代に実際流行ったようなシンセポップの劇伴が流れる中、ちょっとギーキーな主人公が自転車で走ってくる。彼の仲間はメガネ、太っちょ、不良、そしてちょっと歳上の女の子。Milk carton kidsと呼ばれる、行方不明の子どもたちの写真が載った牛乳パックとニュースを見て、近所の警察官が怪しいから偵察しようぜ!なんて、好奇心から死体探しの旅に出た「スタンド・バイ・ミー」(1986)とさほど変わらない。
実際「スタンド・バイ・ミー」や「グーニーズ」(1985)など、子どもが冒険を経て大人になってゆく作品がジュブナイル映画として定着した今だからこそ、この「サマー・オブ・84」という作品が成り立っているとも言える。それらの作品があるからこそ、安心しきって観た先の結末に裏切られる怖さが際立つのだ。

好奇心旺盛な子どもはもちろん、大人のあなたも、作品に鏤められたノスタルジーに浸りながら、青春を思い出して楽しめるはず。
どうかその際、最初と最後に流れる「連続殺人鬼も誰かの隣人だ」というデイビーのモノローグを覚えておいてほしい。そしてこの二つのモノローグの温度差を、ずっしりと感じるが良い。
きっと子どもが大人になるためには、何かの犠牲が付き物なのだ。

「サマー・オブ・84」場面写真

「サマー・オブ・84」場面写真

野水伊織(ノミズイオリ)

野水伊織

野水伊織

北海道出身、声優。2009年放送のアニメ「そらのおとしもの」で本格的に声優としてのキャリアをスタートさせ、以降テレビアニメ「デート・ア・ライブ」「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」、ゲーム「艦隊これくしょん-艦これ-」に参加している。現在は配信番組「まろに☆え~るのYouTube LIVE」に出演中。

「サマー・オブ・84」(2017年製作)

「サマー・オブ・84」DVDジャケット

「サマー・オブ・84」DVDジャケット

1984年、米オレゴン州の郊外に住む少年デイビーはエイリアン・幽霊・猟奇犯罪などの記事を夢中で収集している。近隣の町で同年代の子供たちばかりが狙われる連続殺人事件が起き始めると、彼は親友たちを集めて捜査を開始。向かいの家に住む警官マッキーを犯人として疑うが、待ち構えていたのは恐ろしい真実だった。
監督はフランソワ・シマールアヌーク・ウィッセルヨアン=カール・ウィッセルによるユニット・RKSSが担当。キャストにはジューダ・ルイスグラハム・バーチャーコリー・グルーター=アンドリューカレブ・エメリーティエラ・スコビーリッチ・ソマーが名を連ねる。

「サマー・オブ・84」Blu-ray / DVD販売中

税込価格:Blu-ray 5280円 / DVD 4180円
発売元・販売元:ブロードウェイ

サマー・オブ・84(DVD)

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※「サマー・オブ・84」はR15+指定作品

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2017(c)Gunpowder & Sky LLC

読者の反応

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野水伊織 @nomizuiori

リレー連載コラム「#今宵も悪夢を」
今回の持ち回りは、夏!ということもあり『サマー・オブ・84』について書きました!

ジュブナイル好きの皆さまに、一生残る心の傷を…☺️❤️
#映画ナタリー
#野水映画 https://t.co/1t0CRiEPhV

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