選者 / SCANDAL RINA「MEN 同じ顔の男たち」

文 / SCANDAL RINA（コラム）、田尻和花（作品紹介）

ひとつひとつの気持ちと向き合って、“ある男”をひとりひとり突き放す

映画館の前を通るたび、ポスターに惹かれて気になっていた作品のひとつ。
タイトルから、世にも奇妙な物語的な？
不思議な感じのストーリーを想像しながらワクワクしてたら全然違った。

ハッとするタイミングで音楽が鳴る。
ある日、酷い喧嘩の末、夫がひとつ上の階のバルコニーから身を投げる。
その瞬間、お互いの目が合ってしまう。
たった数秒間で、美しく衝撃的な映像が展開される。余計な説明はなく、ゆっくりとその世界に引き込まれる。

残された妻のハーパーは、心を癒すための旅に出る。自然豊かな場所に建つ立派なお屋敷で、ひとりのんびりと過ごす。
気持ち良い小雨が降る潤った森の中を歩き進めるたびに、心が解き放たれて、どんどん柔らかくなる表情がとっても可愛かった。
これまでに、どれだけ抑え込んできたものがあったのか、描かれてない生活までもが見え透いてくるみたいだった。

タイトルにもあるよう、ここで出会う人はみんな同じ顔をしている。子どもも、大人も。
みんながグルで何か罠に嵌められてるような感覚になったり、それは確かに不気味なのだけど、そのことに触れず話が進んでいくことに違和感があって気持ち悪かった。それでいて、お洒落。
「ミッドサマー」と同じA24が製作していることを知って、何だか納得できる感じがした。
（当然、また全然違う作品なのだけど。）

そして、中盤から一気に増すスリルがヤバい。
すごい力で惹きつけられる。急に怖くなる。
夫の悲惨な最期の姿を思い起こさせるような、象徴的なシーンがでてくるたび、連想ゲームのように「これはきっとあのときの気持ち。」「これはきっとあのときの痛み。」「そういうところが嫌だった。」そんな風にいつかの気持ちが、いろんな姿になって、ある男として出てきてるような気がした。心の擬人化なのか？とも思った。

ひとつひとつの気持ちと向き合って、ある男をひとりひとり突き放すことで、自由になっていく。
クライマックスはとんでもない映像を見ることになる。凄まじい光景を目を逸らさず黙って眺める姿が、逞しかった。だけど、実際に出産することができる女性であるからこそ、当然のように持ち合わせた強さの表れのような気もした。
これは、命を削って生死を繰り返す人間の話なんだなと思った。

無数のメタファーがちりばめられていて、何パターンもの考察ができるパワフルな映画だった。
軽い気持ちで見ると、良い意味で打ちのめされてしまう。予想してたよりずっと怖くて深くて面白かった。


RINA

SCANDAL RINA

1991年8月21日生まれ、奈良県出身。2006年にHARUNA（Vo, G）、MAMI（G, Vo）、TOMOMI（B, Vo）と結成したガールズバンド・SCANDALでドラムとボーカルを担当。2008年にシングル「DOLL」でメジャーデビューを果たし、翌2009年にシングル「少女S」でレコード大賞新人賞を受賞した。2019年にはSCANDALのプライベートレーベル・herを設立。結成17周年記念イベントが8月21日に大阪・なんばHatch、デビュー15周年記念ツアーが10月に大阪のZepp Osaka Bayside、愛知のZepp Nagoya、東京のZepp Haneda（TOKYO）で開催される。

「MEN 同じ顔の男たち」（2022年製作）

夫の死を目の前で目撃してしまったハーパーは、心の傷を癒やそうとイギリスの田舎を訪れる。豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリーに迎えられるも、町へ出かけると、行く先々で出会う男がジェフリーとまったく同じ顔をしていることに気付く。そして廃トンネルから付いてくる謎の影、木から落ちる大量のリンゴ、フラッシュバックする夫の死。不穏な出来事が連鎖し、恐怖が彼女のもとへにじり寄っていく。
A24が製作を担い、「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドが監督を務めた。出演にはジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン、サラ・トゥーミィが名を連ねる。

「MEN 同じ顔の男たち」Blu-ray / DVD販売中

税込価格：Blu-ray 6380円 / DVD 4290円
発売元：ハピネットファントム・スタジオ
販売元：ハピネット・メディアマーケティング

※「MEN 同じ顔の男たち」はR15+指定作品