日本に入ってくる中国の現代ドラマは、韓流スターや台湾スター出演のものが多かった(小酒)
──ちなみにお二人は中国の現代劇の入り口ってどこだったんですか?
島田 アン・ジェウク主演の「ルームメイト」(2002年)って覚えてますか? いわゆる“同居もの”作品。ちょうど私が中国に住んでいるときにリアルタイムで観ていたんですが、国や言葉の違いを飛び越えて、韓流スターが普通に中国のドラマに出ちゃうんだ!ってすごいびっくりして。
小酒 彼は中国で人気でしたよね。当時は編集者として韓流のムック本も作っていたので覚えています。韓流ドラマ扱いとして「ルームメイト」も日本に入ってきていました。
島田 当時、中国では「秋の童話」とか韓国ドラマがすごく流行っていて、日本より韓流が浸透している印象だったんです。これからはアジア合作で作品を作っていくのが、流行るのかなと思った記憶がありますね。
小酒 私も思い返すと、韓国の歌手・俳優John-Hoon(キム・ジョンフン)出演の「キスは背伸びして」(2012年)が入り口だったかも。上海を舞台に田舎から出てきたヒロインが垢抜けていって恋も仕事も成功するというお話で、テイストとしては台湾のアイドルドラマの影響も感じる作品でした。
島田 「流星花園~花より男子~」(2001年)で台湾ドラマの認知度が一気に上がって。F4がすごい人気でしたよね。
小酒 F4ブームの後、「流星花園」中国版と呼ばれた「一起来看流星雨(原題)」(2009年)が大ヒットして、中国でもいわゆるアイドルドラマが増えましたよね。その中で日本に入ってくる中国の現代ドラマは韓流スターが出ていたり、フー・ゴーやチェン・ボーリンが共演した「ハッピー・カラーズ ~ぼくらの恋は進化形~」、ピーター・ホーやリー・イーフォンが共演した「彼女たちの恋愛時代」のように台湾と中国俳優の共演作が多かった印象ですね。すでに日本で人気のある韓流スターや台湾スター出演をフックにして、作品が入ってきていた。
島田 Rain(ピ)が中国ドラマ「ダイヤモンドの恋人」(2015年)に出ていたりもしてましたよね。おしゃれな作品が増えている頃で。
小酒 その頃は中国で「星から来たあなた」が大ヒットしたりK-POPが流行ったりして再び韓国ブームが来て、ドラマに韓国俳優が主演したり、韓国ドラマをリメイクしたりする流れもありましたよね。でも、2016年に韓国エンタメを規制する「限韓令」によって状況が変わって。韓国が関係するドラマは随分お蔵入りになってしまった。ション・イールンとディリラバ共演で「彼女はキレイだった」をリメイクした「逆転のシンデレラ~彼女はキレイだった~」はギリギリ日の目を見て幸いでした。
──韓国・台湾スター出演が売りではない中国ドラマの存在感が日本で増してきたのはいつ頃なんでしょうか?
島田 大きかったのは「お昼12時のシンデレラ」(2014年)ですかね。この作品は面白かった。
「お昼12時のシンデレラ」
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※上記は2022年8月時点の情報
ストーリー
風騰グループに就職し、憧れの上海での生活を始めたシャンシャン(
小酒 確かに「お昼12時のシンデレラ」とそれに続く「マイ・サンシャイン~何以笙簫默~」(2015年)は印象的ですよね。そう考えるとこのあたりが変わり目なのかなと。2010年代半ばぐらいから今っぽい恋愛ドラマ、ラブコメが日本に入ってきた感触はありますね。私の中で大きかったのも2016年の「私の妖怪彼氏」で、中国の現代ドラマもイケてる!と思うきっかけの作品でしたね。
島田 主演が韓国の俳優さんでしたっけ?
小酒 そうなんですよ。でも有名なスターを起用したというパターンではなかった。「私の妖怪彼氏」は画面にエフェクトで吹き出しが出てきたり作りがすごくおしゃれでかわいくて。SNSを活用している今っぽい感じもドラマに盛り込まれ、ラブだけでなくミステリーも盛り上がるんです。今考えると監督は「贅婿[ぜいせい]~ムコ殿は天才策士~」のダン・カーで、その後もヒット作を送り出している。
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ストーリー
アイドル女優ティエン・ジンジー(ウー・チェン)は彼氏にフラれた晩、交通事故に遭い、大量失血して意識を失う。だが、病院のベッドで目覚めると、なぜか無傷で、ジンジーの前に謎のイケメン、シュエ・リンチャオ(キム・テファン)が現れる。彼は、彼女の血によって100年の眠りから目覚めた不老不死の男だった。その後、リンチャオとなりゆきで同居生活を始めたジンジーは、いつしか不思議でクールな彼に惹かれていく。
──今は、中国でどんなジャンルが視聴者に受けているんでしょうか?
小酒 相変わらず主人公がヒロインを溺愛する「甜寵劇」はすごいですね。全然廃れない(笑)。
島田 日本と違うところで言うと、中国では“eスポーツもの”の人気は定着していますね。
小酒 “eスポーツもの”は「マスターオブスキル 全職高手」「Falling Into Your Smile 君の笑顔にメロメロ」とか面白いんですけど、日本では配信だけというのもあって、イマイチ知名度がない感じ。
島田 中国ほどわーっと熱く盛り上がらないですよね。
小酒 中国は若い子なら誰でもオンラインゲームやスマホゲームをやっているイメージですよね。最近は実在するゲームとタイアップしてドラマを作っていて、「プラチナの恋人たち」に出てくる「王者栄耀」も実際にあるゲーム。実は日本でもグローバル版(伝説対決 -Arena of Valor-)がリリースされているので、そのユーザーの皆さんにもドラマを観てもらえたらうれしいですね。
島田 あとは、コロナ禍以降、医療系ドラマが多くなった印象ですね。
小酒 レスキューものも増えたかもしれないです。それから、職場ものの描き方がどんどんリアルになっているので、その業界について知らなくても、ドラマを観ているうちに知識が着いて勉強になりますね。
島田 若手CEOだらけじゃなくなりましたね(笑)。
一同 (笑)
島田 コロナによって、家でテレビを観る時間が必然的に多くなったので、今まで外に仕事に出ていてドラマから離れていた人たちが戻ってきているんですよね。だからドラマが若い子だけのものじゃなくなって、恋愛ものでも大人向けのものだったり、お仕事ドラマも、金融の世界や弁護士の姿をリアルに描くようなものが人気を集めている。あとは、家族でテレビを観る時間が増えたので、ファミリー向けのヒューマンドラマの人気がぐっと上がってきましたね。
小酒 そうそう。鉄板の家族ドラマがテレビドラマランキングの上位3位に入っていますよね。
島田 あとはベテランの俳優をメインキャストに据えて建国の歴史を描く……日本で言う大河ドラマのような作品の需要がぐっと上がってきているらしいんです。若い子が1人で観るようなネットドラマに勢いがあったけれど、コロナの影響で、今は家族みんなで長い時間観るようなドラマが盛り返してきている。
小酒 社会における女性のリアルな悩みをテーマにしたもの、シスターフッドものも増えてきましたよね。日本に入ってくる作品はどうしても偏ってしまうんですが、中国ドラマには色んなジャンルがある。ラブコメもシンデレラが王子様に幸せにしてもらうのを待っているんじゃなくて、自分の意志で人生を切り拓いて幸せを手にするという作品が増えています。ヒロインも自立していて、女性視聴者がリスペクトできる部分がないと共感されない時代ですよね。
島田 そういうのが似合う女優さんの需要が高まっていますよね。
小酒 あざとかわいいヒロインが登場するラブコメも確かに健在なんですが、でもプライドを持ってしっかり仕事をしていたりする女性になっている。最初の感触は一昔前のラブコメと変わりないように見えても、キャラクター造形はかなり進化していると思いますね。「月光変奏曲」はそういう作品。
島田 あとは、今までの現代ドラマって5話くらいまで観ると、なんとなく先が見えちゃうものも多かったと思うんですが、最近は大どんでん返しがあったり、全部観ないとわからないドラマが増えましたよね。
小酒 恋愛ドラマでもミステリーを忍ばせて、最後まで飽きさせずに引っ張る作品は増えましたよね。今は40話以下にしないといけないというのもあるので、尺稼ぎがなくなってお話の展開も速くなっている。
──中国時代劇にはお約束のような“あるある”がいくつもあって、それを見つけるのも楽しみの1つです。現代劇にも“あるある”はありますか?
島田 若きCEOには要注意(笑)。
一同 (笑)
島田 会社が経営難になって若きCEOが突然退任するみたいな展開はあるあるですよね。お金なんかなくたってヒロインと2人で愛を育むという。学園ものだとジャージ姿もあるある。あとはひょんなことからの同居ですかね(笑)。
小酒 鉄板ですよね。契約結婚してとか、大家さんの問題でとかいろんなパターンがある。同居させるとお話を進めるのがスムーズなんですよ(笑)。でも、中国の現代ドラマはまたこのパターン?と思わせておいて、ひねりがあって面白いものがたくさんある。作り手がすごく工夫しているのを感じます。例えばシュー・カイチョン出演の「旦那様はドナー」も契約結婚ものなんですが、意外な展開に進んでいく。そういう物語の面白さ、作り手の意欲と誠実さが楽しみ続けられる理由なんじゃないかと思いますね。
小酒真由子(コサカマユコ)
フリーライター。アジアから欧米までドラマについて執筆。「韓国TVドラマガイド」(双葉社)にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆に参加した「チャン・ツィイー主演『上陽賦~運命の王妃~』公式ガイドブック 上・下巻」(ぴあMOOK)が発売中、「『夢幻の桃花~三生三世枕上書~』公式ガイドBOOK」が10月15日に発売予定。
島田亜希子(シマダアキコ)
中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆するほか、中文翻訳もときどき担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」(キネマ旬報社)「見るべき中国時代劇ドラマ」(ぴあ株式会社)「『夢幻の桃花~三生三世枕上書~』公式ガイドBOOK」などにも執筆している。
さとうしん @satoshin257
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現代ドラマっつっても『山海情』とか『人民的名義』とか『大山的女児』、日本語版が放映される『都挺好』あたりは死んでも入ってこないというのはわかりますw