シリーズ:ファスト映画 第3回 [バックナンバー]
ファスト映画 その後【前編】──映画は生き残ることができるのか?宣伝と感想、危機感をめぐる対談
映画宣伝フラッグ代表・久保浩章 × 映画感想TikToker・しんのすけ
2022年7月29日 19:00 19
映画の存在感は低下している?
──フラッグは2020年から、洋画の買付や配給も始めていますね。これはどういった理由から?
久保 もともとは若者に映画館に来てほしいというコンセプトでした。いい映画があることを知ってもらい映画館で映画を観る体験を積み重ねて、今後のファンを作っていく。普段からミニシアターに通う方々の存在はもちろん大事ですが、年に1回映画館に行くかどうか、シネコンでたまに大作を観るといった人にもっと映画に興味を持ってほしいと思って始めたんですね。だから若者をメインターゲットにした映画を買い付けて、デジタルを中心に宣伝をしました。
──結果的にコロナ禍での始動となってしまったと思います。興行の感触はいかがだったのでしょうか。
久保 これまでに7作品を公開しましたが、ものすごく大変だと実感しましたね。そもそも認知がない映画は存在を知ってもらわないと観たいとも思ってもらえない。知ってもらおうとするんですが、監督も役者も有名ではない洋画だと本当に難しい。フラッグの場合、大作を宣伝させてもらうことが多いのですが、そことは違うやり方をしないと特にミニシアター系の作品でヒットさせるのは相当に困難。これからは映画館に来そうなお客さんをきちんとつかんで、その人にちゃんと映画の情報を何度も届ける仕組みを作る必要があると思います。
しんのすけ コロナ禍で余計に映画館に行かなくなって、地上波での映画の放送も減っている。映画という文化を生活の中でどう習慣づけるのかは重要ですよね。最近K-POPが好きな方から聞いたんですが、あるグループが新曲を出したら、MVだったり、歌番の収録だったり、同じ曲だけど違う映像を週6で公開したらしくて。供給があるから習慣化されて、どんどんと盛り上がっていく。
──確かにBTSの「Dynamite」など、公式が上げたさまざまなバージョンの動画を観ました。
しんのすけ 音楽やマンガ、アニメって常に新しい何かが出ているじゃないですか。音楽は歌番組やMV、ライブがあるし、マンガは連載、アニメは放送がある。業界からの供給が止まっている感じがしない。映画の存在感が低下しているのが、特にコロナ禍で顕在化してきている気がします。
──国内での映画の公開本数を見ると、過去最高は2019年の1278本。2009年の762本から10年で500本以上も増えています。
しんのすけ ほかの施策があまりにも強すぎるんですよね。多くの映画はコアファンに向いていて、一般層には届いてない。ほかと比較すると、どうしても少ない印象があります。大変ですけど、業界全体で映画鑑賞を習慣化させることを目指すべき。僕もTikTokをなるべく多く更新することで、まったく知らないタイトルの作品でも映画館で常に新しい何かが公開されている、配信が始まっているということを発信しています。
久保 映画館に行く回数を0から1にするのは規模感のある映画じゃないと難しいですよね。年に1回だけ行った映画館がミニシアターという人は少なくて、そこは業界を挙げて気にしないといけない。
しんのすけ 「
プロフィール
久保浩章(くぼひろあき)
1979年生まれ、東京大学経済学部卒業。在学中にフラッグを創業し、2004年1月に株式会社化。代表取締役を務める。映画のデジタルプロモーションやソーシャルメディアマーケティングを中心に担当。2016年には、映画学校ニューシネマワークショップ(NCW)と経営統合を行い、後進の育成にも力を入れているほか、近年は映画の配給や国際共同製作にも取り組んでいる。
しんのすけ(齊藤進之介)
1988年生まれ。京都芸術大学映画学科卒業後、助監督として働く。2019年より映画感想TikTokerとして動画投稿を始め、主にエンタメや社会問題などを中高生に向けて発信。「TikTok TOHO Film Festival」の審査員を2年連続で務めたほか、イベント登壇も多数行う。
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