左から山内マリコ著「一心同体だった」書影(光文社)、柚木麻子著「ついでにジェントルメン」書影(文藝春秋)。

映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めて | 山内マリコ×柚木麻子インタビュー

原作者としてステートメントを発表した理由とは

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作家の山内マリコと柚木麻子が4月12日、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めるステートメントを発表した。2人が文責を担い、賛同者として芦沢央、彩瀬まる、井上荒野、小川糸、窪美澄、津村記久子、西加奈子、蛭田亜紗子、ふくだももこ、三浦しをん、湊かなえ、宮木あや子、村山由佳、山崎ナオコーラ、唯川恵、吉川トリコが名を連ねている。

山内と柚木がこのステートメントを出した理由は、映画監督や俳優による性暴力・性加害が立て続けに報道されているため。「物語の書き手と映画業界は、特殊な関係にあります」と述べる2人は今、どのような思いで映画界を見つめているのか。

取材・/ 小澤康平

被害者に「私たちは味方です」と伝えることが一番大事

──山内さんと柚木さんは4月12日に、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めるステートメントをSNSで発表されました。その理由についてはステートメントに「映画業界の内部にいる人たちが、今回の件について意思を表示しづらい状況にあることを、関係者を通じ、目の当たりにしました。外部にいて、なおかつ特殊な関係性を持つ原作者である私たちならば、連帯し、声をあげられるのではないかと考えたことが、このステートメントを発表したきっかけです」と記されていますが、2人が文責を担い、そのほか16名の方が賛同者として名を連ねるに至ったことには、どのような経緯があったのでしょうか?

山内マリコ 3月に週刊文春で最初の報道があった翌日、知人を通して、映画関係者の方が発表しようと思っているステートメントに賛同者として参加してほしいと、お声を掛けてもらいました。私も柚子(柚木)も、もちろん賛同しますと言っていたんですが、ステートメントを出すこと自体が立ち消えになってしまって。そのあとに柚子が「私たちで出そうか」と言ったのが始まりです。

柚木麻子 最初に私が文章を書いたんですが、報道を受けて腹が立っていたこともあり、今読み返すと、こちらの気持ちなどは一切書いていない“強い”文面で。「映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求める」という趣旨は実際に発表したものと変わらないのですが、「暴力が発覚した場合はペナルティを課す」「公開中止を求める」「宣伝活動には一切協力しない」と条件をどんどん並べていました。「原作者は見張っているぞ」というムードの文章を書き上げて「よし!」と思いつつ、信頼できる山内さんに最初に見てもらい、その後ほかの作家さんの意見も取り入れていった流れです。

山内 柚子が書いた文章は、条件を箇条書きしていたり、契約書のようだったんです。正直、我々が公開中止を求めると騒いだところで、「菓子折り持ってなだめてこい」となって終わりだなという想像が付きました。ほかの作家さんからも、文章が威嚇のように感じられるという意見もあって。

柚木 本当にそうでしたね(苦笑)。いろいろな作家さんの意見を反映し、細かく推敲していって、山内さんに相談してから3週間後くらいに発表しました。

──文章を考えるうえで、指針のようなものはあったんでしょうか?

柚木 始まりは、被害を受けた女性たちがリスクを負って声を上げたことです。なので彼女たちに対して「私たちは味方です」と伝えることが一番大事だと考えました。

山内 全方位フォローしようとすると主旨がぼやけてしまって。ある賛同作家さんから、「性暴力は男性も受けますよね」という指摘をもらいました。確かに実際に起きているし、それを盛り込むことも考えたんですが、私たちが加害者の味方をしているようにミスリーディングされる可能性がある。今回は被害を受けた女性たちが傷付かない文章であることが最重要事項だったので、焦点を絞る道を取りました。

──なるほど。

山内 ただ私は、知人から声を掛けてもらうまで、ステートメントという存在を知らなかったんです。

柚木 私もです。ほかの作家さんに「ステートメントを出したいから賛同者になってほしい」と言うと、ほとんどの方が「新聞や文芸誌で発表するの?」って。Webで誰でもできるという考えが浸透していない。

山内 今振り返ると恥ずかしいんですが、声を掛けてもらうまでは当事者意識も薄かった。でも、原作者の名前は映画のポスターやクレジットでも扱いが大きく、制作にはノータッチでも、原作を書いた作家の作品として受け取られます。まったく他人事ではないですよね。映画業界が人間関係でがんじがらめなのもわかってきたので、外野からこういうステートメントを出すことがなんらかの援護になればと思い、文章を練っていきました。

映画界が変わることで、社会全体の流れも変わると思う

──お二方がステートメントを出されたあと、声を上げる人はさらに多くなっているように思います。その実感はありますか?

山内 深沢潮さんのツイートをきっかけに、山崎ナオコーラさんが作った「#文学界に性暴力のない土壌を作りたい」というハッシュタグが、桜庭一樹さんを中心に広がっていたりと、作家さんが続々と声を上げていて。アクションが伝播しているのはとてもいいことだと思います。

柚木 山内さんはステートメントに対して批判もあるのではないかと想像していましたよね。

山内 絶対あると思っていました。連名で発表するとはいえ、誹謗中傷の的にならない保証はどこにもない。なので公開前に、「もし誹謗中傷のメッセージが来たら1人で抱え込まずすぐに共有してください」と、防衛策を賛同者に回しました。でもありがたいことにメッセージの9割が賛同で、残りの1割も批判ではなく「こうしたほうがいいのでは」というものでした。

柚木 橋本愛さんがステートメントに反応してくれたことも大きいです。私たちは全部手探りでしたし、完璧ではなかったと思いますが、だからこそいろいろな方が声を上げやすくなったのではないかなと。

──昨今、立て続けに映画業界の性暴力・性加害が明らかになっていますが、そのような現状についてはどうお考えですか?

山内 私、実はもともと映画監督になりたくて、大阪芸術大学の映像学科に進学したんです。でも実際に映画を作る授業を受ける中で、あっという間に夢がしぼんでいった。当時は気付かなかったけれども、ジェンダー的に難しかったのもあるし、映画の現場がいかにオラオラしているかということを知って、これは向いてないなとあっさり挫折しました。

柚木 完全なる体育会系なんですね。

山内 そう、しかもそれが学生映画にも浸透しきっていた。けど、そういう体質自体を問題視する視点は、アメリカで#MeToo運動が起きてハーヴェイ・ワインスタインが失脚するまで、全然なかったんです。フランシス・マクドーマンドがアカデミー賞授賞式で「インクルージョン・ライダー」という言葉を用いて映画界の多様性を訴えてから、ハリウッドはすごく変わって、映画やドラマの多くにフェミニズムが含まれるようになりました。ジェニファー・アニストンリース・ウィザースプーンの共演作「ザ・モーニングショー」とか。

柚木 私あれ大好き!

山内 あのドラマのように、自分たちが所属する業界の黒い部分を直視しつつ、エンタテインメント性のあるものを作るという流れになりました。日本でも2017~18年にSNSで性被害を訴える動きはあったけれど、なかなか広がらず、社会を変える大きな潮流にまでは至らなかった。でもここ数年間で、ジェンダー観がものすごく変わりました。今がセカンドチャンスだし、その土壌は整っていると感じます。性暴力の危険性をはらんでいるのはどの業界にも言えることですが、映画人は知名度もあって、社会に与える影響も大きい。映画界が変わることで、社会全体の流れも変わると思います。

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当事者でなくても声を上げていい

読者の反応

白央篤司 @hakuo416

あとでじっくり読む。結局大手映画会社はハラスメントを許さないなどの声明は出したんだっけ?

【映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めて | 山内マリコ×柚木麻子インタビュー 】https://t.co/aJLAK1AqOI

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