イラスト / 徳永明子

映画と働く 第11回 [バックナンバー]

特殊メイクアップアーティスト:百武朋「作り物だとわかっていても驚いてしまう物を作りたい」

美しさと醜さを内包した創作で驚きを、作り手が抱える苦悩に迫る

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原作と違うものが出てくると「ん?」と思ってしまう

──これまで携わった中で印象的な作品はありますか?

どの作品もそれぞれ刺激的で面白く、印象に残っています。造形的には、「ライチ☆光クラブ」のロボットは、みんなで煮詰めて面白く仕上げられたと思います。現場が面白かったという意味では「スマグラー おまえの未来を運べ」「ミュージアム」、最近では「ヤクザと家族 The Family」や「ホムンクルス」ですね。「スマグラー」は、スタッフ、キャストと一緒に作り上げた作品だと思ってまして、現場のエピソードをあげたらきりがないほどの楽しくて。熱いものは熱く、重いものは重く、痛いモノは痛く・リアルを求める石井克人監督と都築雄二美術監督について行くような楽しい現場でした。「ヤクザと家族」はやはり館ひろしさんの印象が強かったです。初めてご一緒させていただきましたが、子供の頃から見ている印象通りのダンディな方でした。

──なるほど。事務所内には「荒川アンダー ザ ブリッジ」の星など、さまざまなマスクも飾られていますね。

「荒川アンダー ザ ブリッジ」シリーズでは山田孝之さんたちがかぶるマスクも担当させていただいたんですが、原作がある作品は、僕がもしファンの立場だったら原作と違うものが出てくると「ん?」と思ってしまうので、なるべく原作に忠実になるように仕上げたいと思って工夫しました。

百武スタジオの事務所にて。百武が携わった作品に登場するマスクなど。中央が「荒川アンダー ザ ブリッジ」シリーズに登場する星のマスク。

百武スタジオの事務所にて。百武が携わった作品に登場するマスクなど。中央が「荒川アンダー ザ ブリッジ」シリーズに登場する星のマスク。

──以前「ゴーストマスター」の特集でヤング ポール監督にインタビューさせていただいたんですが、監督が百武さんの担当された造形物や美術に関して「想像を超えるものを作っていただいた」とても楽しそうに話されていたのが印象的で、一度詳しくお話を伺ってみたいと思っていたんです。三浦貴大さんや板垣瑞生さん、成海璃子さんが劇中で妖怪のような見た目に変化していきますよね。

今、マスクの材質としてはシリコンが主流なんですが、あの作品は昔のホラー映画のようなテイストで、とテーマが決まっていたので、昔よく使われていたフォームラバーを使っています。好きな人が見たら、ああゴムでやってるんだなってわかるんじゃないでしょうか。醜いだけでは面白くないので、それぞれ役者さんの輪郭に合わせて少し美しく見えるようにラインを調整したり、成海さんのマスクにはラメを使ったりもしています。

いつも相手が見たこともないものを作りたい

──ちなみに、百武さんには制作上のポリシーはありますか?

特に決めていることはありませんが、ホラーやSF作品のほかに普通の連続ドラマのようなお仕事をいただくこともあるので、表現の引き出しが多いほうがいいと思っています。だからなるべく流行りの映像や新しい表現を気にするようにしていますね。コロナ禍で制作がいくつかストップして時間ができたとき、子供の影響もあってNetflixやYouTubeで映像をたくさん見るようになりました。特にK-POPアーティストのPVを見て、向こうのアイドルの子たちが傷メイクをかなりしているのが興味深くて。美しい顔に傷があることで、美しさがぐっと引き立つんですよ。傷を作るというより美しいメイクということで、なんでもありだなと思いました。

──メイクや造形に着目するとPVや映画を見るのが一層楽しくなりそうですね。

美しいものが好きなので、ゾンビの造形の仕事が来てもどこか美しくできるポイントがないか探してしまうんです。人によっては思いっきりグロテスクにしたい!とかこだわりもあると思うんですが。ゾンビ映画ってファンタジーだから、グロテスクは大事ですが、その方向だけに特化するのはファンタジーじゃなくなるかもしれない、と悩んだり。あるとき整形外科の先生がゾンビ論を語る講座に参加させていただいたんです。その先生はゾンビ映画に特別詳しいというわけではなかったんですが、ゾンビ映画好きの人たちからの質問に医学的視点で答えるという内容で。もし人間が本当にゾンビになったら何週間で肉体が腐乱していって、腐ったあとは走れるのかとか、筋肉質な人より脂肪分が多い人はゾンビになったら長生きするとか、その先生の持論なのですべてが正しいというわけではないんですけど、その講座に参加して、僕は自分たちが作っているものがファンタジーだということを再認識できてホッとしたんです。逆に戦争映画のお仕事が来たときは、「これはファンタジーではない」「こういうことがあったんだと誰かが忘れないための仕事」と心を整えて臨むようにします。

百武スタジオの事務所にて。

百武スタジオの事務所にて。

──お仕事をされていくうえでの原動力がわかってきたということでしょうか。

映画は監督の作品であるし、お客さんに楽しんでもらえるのが一番ですけど、自分がその中でどう表現したいのか、と考えるのが楽しいんです。何より人が驚くものってなんだろうなと考えたときに、最新の技術とこれまで見たことがないビジュアルだなと思いました。だから10代の頃から続けてきていまだに仕事に飽きていないですし……、常に手は動いているんだと思います。

──これまでお話を伺ってきて、ホラーやSFのほかにも特殊メイクが求められることは私たちの想像以上に多いと感じました。

自分がお声がけいただいた作品に関しては、いつも相手が見たこともないものを作りたいなと思っています。原作があるものは原作のイメージを大切にしながら、新鮮に驚かせたい。「これは作り物だ」とわかったうえで、それでもびっくりできる物を作っていきたいですね。

百武の愛犬・チルチルちゃん。取材中も事務所内でじっと耳を傾けていた。

百武の愛犬・チルチルちゃん。取材中も事務所内でじっと耳を傾けていた。

──最後に、特殊メイクアップアーティストを志す人たちに一言アドバイスをいただけますでしょうか?

この仕事に必要なことなのですが、デッサンと創造性を磨く、でしょうか。2つはまったく別物で、かつどちらかに偏ってもいけないと思っています。

百武朋(ヒャクタケトモ)

百武朋。百武スタジオの事務所にて。

百武朋。百武スタジオの事務所にて。

特殊メイク、特殊造形アーティスト。これまで参加した主な作品は「CASSHERN」「妖怪大戦争」「20世紀少年」シリーズ、「スマグラー おまえの未来を運べ」「テルマエ・ロマエ」シリーズ、「ライチ☆光クラブ」「ミュージアム」「シン・ゴジラ」「こどもつかい」「あゝ、荒野」「東京喰種 トーキョーグール」シリーズ、「22年目の告白 -私が殺人犯です-」「AI崩壊」、「映画刀剣乱舞」「恐怖の村」シリーズ、「ホムンクルス」「鳩の撃退法」「ヤクザと家族 The Family」、ドラマ「アバランチ」「鵜頭川村事件」「KAPPEI カッペイ」「映画『おそ松さん』」「JAM -the drama-」など。今後の公開作では「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」などに参加している。

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