2011年、61歳で急逝した映画監督の
森田が愛用した品について三沢と宇多丸が語り合う対談の後編となる今回も、貴重なグッズが登場。
取材・
強烈な印象を残す人のはずなのに……(宇多丸)
──ここで、森田監督が掛けていたサングラスをお出しします。
宇多丸 うわー!
三沢和子 「それから」の撮影のときに掛けていたものですね。白山眼鏡店のものでした。
宇多丸 形が今っぽいですねえ。僕が今掛けているのがEFFECTORというブランドのものなんですけど、そこがすごく作りそう。EFFECTORが出さないかな、「SOREKARA」って。「YUSAKU」というモデルも出してるんで、そこは。いやこれ、めちゃくちゃイケてますね。
──「森田芳光全映画」の「それから」の項にあるメイキング写真に写っているサングラスですよね。松田優作さんに「森田の目は怖すぎるからサングラス掛けてくれ」と言われて掛けたという。
三沢 真剣になったときの目が相当怖いみたいです。
──優作さんが怖がるというのがすごいですね。
宇多丸 ね。でも森田さんは誰にでもフラットで、みんながビビる優作さんにもぐいぐい来る。そのくせお酒は飲まないし、優作さんがそれまで接してきたタイプの人とは違う。感性は合うんですけど。
三沢 そうそう。
宇多丸 森田さんが面白いと思うのは、強烈な印象を残す人のはずなのに、喫茶店とかでは、オーダーを取りにすら来てくれなかったり、いること自体を忘れられちゃったりしがちなタイプでもあったんですよね?
三沢 (笑)。クイズ番組で10問正解してハワイ旅行に行ったときは、女子大生が多いと思って行ったのに新婚カップルの中に1人だけになっちゃって。ずっと嫌な顔をされて帰ってきて「二度とハワイには行かない」と言っていました(笑)。しかも行きの飛行機では、全員に配られるはずの機内食がちょうど自分の前で途切れて1人だけ食べられなかったと。「なんで言わなかったの?」と聞いたら「ただで行った旅行だからもらえないのかと思った」と言うんです(笑)。それで食器を下げに来たスチュワーデスに「お客様、なんでおっしゃらなかったんですか」と怒られて。
宇多丸 (笑)
三沢 それだけ存在感がないんです。
宇多丸 シャイではあると思うんですけど。
──シャイなんですか。
三沢 シャイなんですよ。「
──(笑)。どの段階でその関係がほぐれるんでしょうか。
三沢 現場に入ってからですかね。
宇多丸 でも
三沢 北川さんとはオーディションで仲良くなっちゃったんですよ。そういうこともある。どんなに打ち解けるのが遅い人でも、1本映画を撮り終わる頃にはみんなものすごく森田のことを「面白い人」と思ってくれます。撮影現場だけでなく、宣伝で関わった人もみんなものすごく森田と仲良しになります。森田と行ったキャンペーンが「一生の思い出」という宣伝部の人もいるぐらいで。インタビューにいらっしゃった人たちも、ものすごく怖いというイメージだったのに全然違いましたとおっしゃってましたね。
今、2021年の森田さんが見たい(宇多丸)
──宇多丸さんはファンとして、森田監督にどのようなイメージを持たれていたんでしょう。
宇多丸 プライベートの森田さんに会ったことはないけど、映画を観ているとなんとなくわかるところはあるんですよ。本を作ったあとだから自分の中でねつ造してるのかもしれませんけど、今お話に出たような人となりは知っていたような気がしていますね。きっとこういう方だったんだろうな、と。
三沢 映画には本人の“素”が絶対出ていますから。
宇多丸 とにかくフラットな方というのはインタビューを読めばわかってくることだし。ただ、実際に僕が知り合っていたら喧嘩しちゃったかも、と思うんです。お互い率直にものを言うタイプだからどうなるかわからない。知り合いだったら余計に言いたいことを言うから、どうなってたかなと(笑)。
三沢 でもきっと仲良くなっていたと思います。宇多丸さんのほうがお兄さんみたいな感じになっていたかも(笑)。
宇多丸 どんなに嫌がられても「これだけは答えてください」みたいなことは言っちゃうと思います。でもあまり説明したがらない方だから。
三沢 映画のことを説明するのは嫌な人なんです。自分が言葉で説明する必要があるなら、それは映画がダメだということだと。作品の中で全部出していますっていう持論があるから、映画のことでテレビに出ることは全部断っていました。でも映画のことでなければ、テレビはともかくラジオは出たがるから、もし今元気で宇多丸さんとお知り合いになっていたら「マジで1時間でいいから俺出してよ」って言ってる気がしますよ。
宇多丸 僕としては「監督、ここはもうちょっとご自身の言葉で語れば……」と思うこともあって。音声解説が付いている「
三沢 ダメだそりゃ。
宇多丸 でも、そういうのも「らしいな」と思います、ファンとしては。
──実際に共演されたらやっぱり映画のことをお聞きしたいと。
宇多丸 それはもう山ほど。「監督、僕はここのあれについてこう思ってますけど、どうですかね?」と1個1個やりたい(笑)。で、照れ隠しとかで否定されても「……本当ですか? そんなわけないでしょう」と言って嫌がられるとか、1回やってみたかったですけど。「もうあいつは嫌だ」とNGが出るぐらいしつこく行きたいですね。ただ、森田監督がご健在でしたら、そもそも僕がここまでしゃしゃり出る余地もなかったでしょうから。
三沢 確かに本人が元気だったら「森田芳光全映画」も作っていなかったかもしれないし。
宇多丸 もちろんそうですよね。全力で第一線を走られていたでしょうから。今の社会情勢、例えば#MeToo以降の世界に、絶対に何か面白い回答を返すはずですし。今の社会の変化に、絶対森田さんこそが芯を食った回答をするという確信があります。だから今、2021年の森田さんが見たいです、すごく。コロナ禍の中でどうするかとか。さっきも話に出ましたけど、iPhone1個で映画を撮る、みたいなことを森田さんはきっと一番最初にやりたがったはずだと思うし。
三沢 フィルムからデジタルへの抵抗もない人なんですよ。「これはフィルムで撮るべき」というときはフィルムで撮るだろうけど、デジタルに抵抗はないし、間違いなくNetflixにいち早く目を付けてるはず。
宇多丸 3Dやらせろとか、IMAXやらせろとかいろいろあると思うんですけど。テレビシリーズとかも面白そうですね。
やっぱり映画本もこっそり読んでるなあ(宇多丸)
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