新型コロナウイルスの感染拡大で休業を余儀なくされたことにより、全国の映画館は苦境に立たされた。その状況にもどかしさを感じている映画ファンは多いはず。映画ナタリーでは、著名人にミニシアターでの思い出や、そこで出会った作品についてつづってもらう連載コラムを展開。ぜひお気に入りの映画館を思い浮かべながら読んでほしい。
第8回では女優の
文
スクリーンには、生き方が、人生が溢れている
スクリーンの中の、息遣いだけに集中していたい。数時間、携帯の電源を切って、明日の集合時間とか少し痩せなきゃいけないかもしれないとか、グループラインなどから抜け出して、映画の登場人物の一挙手一投足に目を凝らす。セリフに耳を傾ける。面白いか、面白くないかはどうでも良かった時期もあった。ミニシアターは、私にとって一人である事を再確認させてくれる場所だ。一人であると自惚れているわけではない。事実として、しん、と心に染みていくのだ。世界は馬鹿みたいに広くて、どうしようもなく、私には手に負えなくて。東京はその縮図だった。制服のまま、とりあえず降りた駅の、近くのミニシアターでチケットを買い、トイレの個室で化粧を濃くした。学生証を普段から持っていなかったのか、学生割引を使った記憶がない。玉城ティナとして、名前を出して映画を観る事に自信が無かったのかもしれない。先週は、雑誌のカバーを飾った。朝方、コンビニに並んだ私を見て、誰だろう、とすら思った。瓜二つの双子みたいだ。あなたはそっちにいるのね。とても素敵だと思う、という具合に。
アイラインを長く引き、どうせマスクをするのに口紅を塗った。私は、あっち側の知らない世界に早く行きたかった。後方の席に座ると、午後四時頃のお客さんに、同年代はほとんどいなかった。やっと、落ち着いて、違う世界に飛べる。暗くなる瞬間が一番鼓動が早くなった。その瞬間、誰にだってなれるような気がしていた。山口小夜子にも、イギリスの男の子にも、時には夫婦生活に疲れた妻かもしれないし、飲んだくれの夫かも。そうして時間が経ちエンドロールが流れ始めると、私は絶望と安心を同時に得ることになる。あんなに私だ、と思った物語も、明かりがつけば泡のように消える。あっけなく。
すっく、と誰よりも早く席を立ち、日常への階段を足早に登る。長居はできない。帰り道は訳もなくたくさん歩いたりした。セリフを書き留めたりはしないし、引きずったりもしなかった。ぽろぽろと、涙がこぼれてしまう時もあったけれど、理由はわからない事の方が多かった。ただ、勝手に寄り添って、それで満足。今でも、映画に詳しいわけではなく、人間が生きている姿がそこにあるから惹かれるだけだ。
監督が世界をどう見ているのか、切り取り線はどこなのか。俳優の表情のバリエーション、声の強弱、それぞれのキャラクターのユーモラスさ。それらを頭の中で勝手に組み合わせるのが好きだ。それらを完璧に理解したって、私が完璧に生きられる訳じゃないのに。
スクリーンには、生き方が、人生が溢れている。ミニシアターには、そこに最短ルートで行ける強みがある。一人で、行って戻ってくる。そうすると、日々の選択が勝手に広がる。街並みはいつもと同じはずなのに、全てが鮮やかになったり、くたびれたりする。本当に、どうしてそんな事ができるのか。私がただ、単純なだけなのか、未だにわからない。
だから、といっていいのか、分からない、という理由でスクリーンの中に入ってみたかった。やってみたかった。興味があった、技術なのかまやかしなのか、全然想像がつかなかったから。
そして今、よーい、スタートの声で目を覚ます。もちろん普段だって起きている状態だけれど、うごめいているものに、出ていいよ、と合図を送る。喚いても泣いても、笑って叫んでも、役というだけで許される場所があるという事。私はまだひとり、何者にもなれる。寄りかかる壁が見つかった気がした。私はまだまだ映画の持つ力に、取り憑かれている。これからひとつひとつ、膨大にあるピースを、はめていって、わかろうとしてみるつもりだ。
映画と、私と、の思い込みかもしれない関係を。魔力の源を。
※映画ナタリーでは、業界支援の取り組みをまとめた記事「今、映画のためにできること」を掲載中
玉城ティナ
1997年10月8日生まれ、沖縄県出身。ミスiD2013で初代グランプリに輝き、14歳でファッション誌ViViの最年少専属モデルに起用された。2015年に「天の茶助」で映画デビュー。主な出演作に映画「貞子vs伽椰子」「暗黒女子」「わたしに××しなさい!」「Diner ダイナー」「惡の華」「地獄少女」「AI崩壊」、ドラマ「JKは雪女」「ドルメンX」「そして、ユリコは一人になった」「死にたい夜にかぎって」がある。
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玉城 ティナ TinaTamashiro @tina_tamashiro
映画ナタリーさんでコラム書きました。高校生だったあの頃のことなど。
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