コミックナタリー Power Push - 月刊コミックZERO-SUM

ついに100号!連載作家とともに歩んできた8年間をゼロサム2大女王・高河ゆん&峰倉かずやと振り返る

「マンガ読め」「マンガ読むな」って怒られる

──編集長としての立場の一方で、杉野さんは高河さんと峰倉さんの担当でもあるわけですが、もう大分長い付き合いになりますよね?

高河 杉野さんが前の会社にいたときからだから、もう20年くらいになるのかな。私、“担当変わりたくない派”なんですよ。基本的に一度その担当と付き合うっていうことに決まったら、ずっとその人で行きたい。もしその人がどこか異動するっていうんであれば、異動先の雑誌に移りたいくらいなんです。

杉野 でも最初の1、2年はすごくなめられてて(笑)。原稿取りに行っても会ってもらえなかったり。もう、こんなにもバカにされるのかと!

高河 ち、違うよ! それは儀式をしてなかったせいなんですよ!

──儀式って何ですか!? 「LOVELESS」っぽいですけど!

高河 儀式っていうのは、会ってこの人を自分の担当だって受け入れるか、受け入れないかを私が決める面談というか。ちゃんと話す機会がないまま、何となくズルズル始まっちゃってたんですよ。

杉野 なし崩し的に前の担当から「君がお話ししておいて」って投げられて、ちゃんといつから引き継ぎっていうのがなかったんですよね。

高河 そうそう。それで「私、こいつのことまだ担当って認めてないのに!」っていう。

杉野 高河さんは教えてくれないんだけど、僕のことを認めることになったきっかけはあったらしいんですよ。それって何だったんですか?

高河 何だっけ……ほんとに忘れた!

峰倉 じゃあもう誰にもわからないじゃないですか(笑)。

──峰倉さんと杉野さんの馴れ初めはどんな感じだったんですか?

峰倉 杉野さんは「最遊記」の最初からの担当じゃないんですよ。担当してもらったのは「最遊記」の3巻くらいから。

杉野 「最遊記」のアニメ化や「最遊記外伝」の連載が始まったりで、だんだん忙しくなってきたころに僕に変わったんですよね。高河さんとはまったく逆で、峰倉さんの場合はバシッと、「僕に代わります」っていう面談の機会がありましたね。

インタビュー写真

峰倉 ええ。あの頃はまだ20代前半だったんで、こんな年上の人と何をしゃべっていいやら、とまどったのを覚えています。でも杉野さんはタバコも吸うし、麻雀もやるので、すぐに馴染んで。「最遊記」を描く上ではすごくやりやすかったです。

──確かに、「最遊記」はタバコと麻雀の描写が多いですもんね。

峰倉 なのに杉野さん、一時期タバコをやめたんですよ! そのときがいちばんこの人のことを嫌いになった時期でしたね(笑)。あとで私、「最遊記」の担当やってる間は絶対タバコやめるなって言ったんですよ。

杉野 身体壊しちゃって……。

──それが峰倉さんが担当に求めるものだったってことですね(笑)。一方で杉野さんの、担当としてこれは守る、みたいなポリシーってありますか?

杉野 作家さんのポテンシャルを常にそのときの最大限にまで引き上げることですね。編集にできることって実は小さいんです。話作りの協力はするんですけど、編集が介在するのなんて3%くらいですよ。作品の半分は編集が作ってるなんて言い方がありますけど、そんなの嘘です。もし半分作ったとしても、作品の中でそれが持つ意味なんて3%くらいでしょう。作品は作家さんのものです。あとは、作家さんは作品を描いてると必然的に進化し続けるんで、その進化の速度に追いつくのが大変です。もっと頑張らないとダメですね。高河さんにはよく「勉強が足りない」って言われます。

──「勉強が足りない」というのは、例えば?

杉野 マンガをもっと読めと言われますね。

高河 ああ、よく言います。私ほんとにマンガが好きで、たくさん読むんです。だから自分がそのとき読んだマンガに対して思ったことをめっちゃ語りたいんですよ。なのに……。

杉野 この間も電話で「『鋼の錬金術師』最終回読んだ?」って聞かれて、「忙しくてまだ読んでない」って言ったら、「もういい! ガチャン!」って勢いよく切られるし(笑)。

高河 だって「ハガレン」の最終回だよ、すっごく語りたかったのに!

杉野 この辺りにも高河さんと峰倉さんの作家性の違いが明確に出てるんですよ。高河さんは他人のマンガを読むことも含めて、マンガに対する集中力なりテンションなりが上がらないと自分のマンガが描けないんです。モチベーションを上げるために人のマンガを読むことが大事。逆に峰倉さんは、自分の作品に対する集中力が高い人なんです。「最遊記」が今後どうなるべきかっていうことに対して、僕が峰倉さんの考えている水準まで追いつけないことに苛立たれる。

インタビュー写真

峰倉 だから逆に私からは「マンガをあんまり読むな」って言うんです。

高河 えー! 何で?

峰倉 マンガのことを知ってるべきだとは思うけど、他のマンガ読んでる時間があったら一緒に「最遊記」のこと考えてほしい。自分が作ったマンガを一番面白いって思わないといけない立場なのに、人の作ったマンガ読んで面白いとか言ってる場合じゃないだろ、っていう。人の作ったものを手放しで楽しんでるだけじゃだめだ、と。もちろん高河さんみたいなタイプの人もいるし、私個人の考え方ですけどね。

杉野 ほんとに正反対のタイプなんですよ。峰倉さんと高河さんはキャラクターの動かし方も真逆ですね。峰倉さんの場合は、自分が映画監督のように振る舞って、キャラクターに指示を出す、とおっしゃるんです。例えば、三蔵というキャラクターを演じているアクターがいて、峰倉さんが演出しつつも、演技プランは役者達に委ねる。逆に高河さんの場合は、「このセリフはどういう意味なんですか?」と聞くと「だって立夏がそう言ったんだもん」と。脳内でキャラクターが勝手に動くタイプなんですよね。方法は違うんだけれど、僕には考えも及ばないですね。ふたりとも、やっぱりノーマルじゃない部分を持ってる。

峰倉 杉野さんは多少頭のおかしいことを言ってもドン引きせずに受け止めてくれます。そこはこの人のいい点ですよね。

杉野 高河さんから「LOVELESS」の構想聞かされたときなんて、電話でいきなり「猫耳としっぽが生えてるの! かわいいと思わない!?」って言われて。よく意味がわかんなくて「どうなんですかねー」って濁しながら続きを聞いてると、「しかもそれが大人になると取れるの!」って説明されて。「大人になると取れるってどういう意味ですか? 性行為で取れるの?」って質問したらしたで、「杉野さん、それセクハラですよ!」って叱られました(笑)。

月刊コミックZERO-SUM8月号 / 2010年6月28日発売 / 680円(税込) / 一迅社

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2002年3月に創刊した女性向けマンガ雑誌。峰倉かずや「最遊記RELOAD BLAST」や、高河ゆん「LOVELESS」をはじめ、ファンタジー、学園、コミカライズなどさまざまなジャンルの作品を掲載している。編集長は杉野庸介。

8月号ラインナップ

相川有「CHRONOS-DEEP-」/蒼月ユズ「フローズンアップル」/雨宮由樹&市原ゆき乃「07-GHOST」/石動あゆま「コーセルテルの竜術士~子竜物語~」/上田信舟「彩の神」/遠藤海成「破天荒遊戯」/おがきちか「Landreaall」/作画:片桐いくみ 原作:二宮愛「Are you Alice?」/片山愁「当世幻想博物誌」/喜久田ゆい「魔法使いの猫」/如月芳規「#000000 -ultra black-」/高河ゆん「LOVELESS」/酒巻行里「イザヤカク」/さくら真呂「planetary*」/作画:sion 原作:実弥島巧「グラール騎士団」/瀬之たつね&高宮あや「天球儀-セフィラノーツ-」/高山しのぶ「あまつき」/なるしまゆり「鉄壱智」/naked ape「DOLLS」/魔神ぐり子「楽屋裏-貧乏暇なし編-」/御巫桃也「カーニヴァル」/美川べるの「ストレンジ・プラス」/峰倉かずや「最遊記RELOAD BLAST」/宮本福助「拝み屋横丁顚末記」/作画:山本佳奈 原作:里羅琴音(naked ape)「di[e]ce-ダイス-」/作画:雪広うたこ 原作:高殿円「魔界王子 devils and realist」/遊行寺たま「+C sword and cornett」/よねやませつこ「マジョリン」

プロフィール写真

高河ゆん(こうがゆん)

7月9日生まれ、B型。1985年デビュー。2002年、月刊コミックZERO-SUM創刊号より「LOVELESS」を連載開始。2005年には「LOVELESS」がTVアニメ化される。ほか代表作に「アーシアン」「超獣伝説ゲシュタルト」など。現在、月刊コミックZERO-SUMにて「LOVELESS」を、増刊ゼロサムWARDにて「佐藤さんと田中くん-The blood highschool」を連載中。キャラクターデザインを担当した「機動戦士ガンダム00」の劇場版が9月に公開予定。

プロフィール写真

峰倉かずや(みねくらかずや)

3月23日生まれ、A型。1993年デビュー。2002年、月刊コミックZERO-SUM創刊号より「最遊記RELOAD」を連載開始。2003年に「最遊記RELOAD」が、2004年に「最遊記RELOAD GUNROCK」がTVアニメ化される。ほか代表作に「WILD ADAPTER」「BUS GAMER」「私立荒磯高等学校生徒会執行部」など。現在、月刊コミックZERO-SUMにて「最遊記RELOAD BLAST」を、増刊ゼロサムWARDにて「最遊記異聞」を連載中。また、OVA「最遊記外伝」を現在製作中。