コミックナタリー PowerPush - 映画「Z~ゼット~」
相原コージが自らゾンビになるほど入れ込んだ 描き下ろしマンガの先行公開も
相原コージのゾンビマンガ「Z~ゼット~」が実写映画化を果たした。「Z~ゼット~果てなき希望」のタイトルで7月26日に封切られる。また映画とリンクした3つのエピソードも同時に制作され、映画本編と合わせ全6巻構成でDVD化。DVDのレンタルが8月2日よりスタートするほか、全6巻をまとめたDVD-BOXが8月6日に発売される。
コミックナタリーでは映画公開を前に、相原にインタビューを敢行。相原のほとばしるゾンビ愛を紐解き、原作執筆時の裏話から「うるさいゾンビ好きも納得の内容」と太鼓判を押す映画の見どころまでを語ってもらった。さらにDVD-BOXに収録される相原描き下ろしマンガの冒頭部分を先行公開。こちらもお見逃しなく。
取材・撮影/唐木元 文/宮津友徳
「Z~ゼット~」がなければマンガ家を廃業していたかも
──「Z~ゼット~」は相原先生初の実写化作品です。まずは話が決まったときの感想からお伺いできますか。
「Z~ゼット~」は連載化までに非常に苦労したので、すごく不思議な感じです。前の連載が終わったあと、「次は何をやろうか」って編集者さんと打ち合わせを重ねたんですが、なかなかこちらの出す企画に乗ってもらえなくて。「ゾンビマンガなんかどうですか」って言っても、「ゾンビねぇ……」という感じで非常に反応が悪い。もう新人のように出版社に出向いてプレゼンを繰り返していたんです。そんな中、別冊漫画ゴラク(日本文芸社)で「ぜひやろう」と言っていただき、始めたら意外にも評判が良くて、映画化にまでこぎつけたわけですから、感慨深いですね。
──もともと「次回作にはゾンビマンガを」と決めていらっしゃったんですか。
新連載の企画を考えていたときに、一番筆が進むだろうと思ったのがゾンビだったんです。当時「アイアムアヒーロー」や「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」とか、ゾンビマンガでヒット作も出ていて、若い頃だったら「みんなやってるしな」って敬遠してたと思うんですよ。ただ「そんなこと言ってる場合じゃねーぞ」っていう状況でしたし、歳も50になるので変なこだわりを持つのはやめようと。
──「Z~ゼット~」1巻のあとがきでも「いつ死ぬかわからないから好きなものを描こう」と仰ってますね。
そうなんです。自分の死に加えて、マンガ家としての死というのも若干考えてしまって。昔からマンガ家は5年が寿命とか10年で終わりとかいろいろ言われてますしね。僕はなんとか30年やってこれたので長いほうなのかもしれないですけど、なかなか連載が決まらない状況に危機感は感じていました。一応「Z~ゼット~」と同時期に、漫画アクション(双葉社)で「下ネタで考える学問」という連載も始まりはしたんですが、1年後には打ち切られていますから。ゴラクから声をかけていただかなかったら、廃業していた可能性もあります。なので「やれるんだったら(好きなことを)やってやろう」と思っていました。
──ある意味開き直って。
そうですね。なので自分の中で納得のいくゾンビマンガを描いて、それを評価してもらえたのは幸運だと思います。Twitterで「相原コージっていま何やってるんだろう」ってつぶやきを見かけたりもしたので、今回の映画で「Z~ゼット~」について知ってもらえるのはありがたいことです。
絵以外の部分でリアリティを出したい
──納得できるゾンビというのは具体的にはどういうものなんでしょうか。
ゾンビって「死者が蘇ったもの」だと思っているんです。最近は噛まれると感染するっていう部分を重視している作品が多い気がするんですけど、僕はやっぱり死者が生き返ったっていうところを大切にしたい。「Z~ゼット~」ではそこを起点に、「一度死んでいたら頭を破壊したって再び死にはしないだろ」とか、「腐敗が始まってるだろうから全力で走れないでしょ」っていう僕の考えるゾンビを描いています。
──作画の上で、ゾンビらしく見せるために気をつけている点はありますか。
うーん、最初に考えたのは瞳孔の部分ですかね。人が死んだときって、瞳孔が開いてるかどうかを確認して「死んでますね」って判断するじゃないですか。だから瞳孔が開いたように描いたらどうかなと思ったんですけど、黒目が非常に大きくなってしまって全然ゾンビに見えないんですよ(笑)。
──かわいくなってしまう。
そう。ゾンビ映画とかでもやっぱり、黒目が大きいのはいないんですよ。大体黒目が点みたいに小さくて、白目の部分が濁っていたりする。だから「Z~ゼット~」でも黒目の部分は斜線で小さく描いています。ただ僕は絵が上手い方ではないので、それ以外のところでリアリティを出してやろうと思っているんです。
──絵以外の部分というのは。
描かなくてもいいような、人間のしょうもない部分を描くということですね。原作でいうと、ゾンビに噛まれた男とその彼女が山小屋に逃げ込むエピソードがあって。死にそうになってる男が彼女に「最後に裸を見せてほしい」って言うんです。
──第3話の「カップルの場合」ですね。
物語を進めていく上で一見どうでもいいような描写を入れ込むことで、人間臭さを表現してリアリティを出すっていう手法を取っています。映画でもその辺りは非常に上手く表現してくれていましたね。
──それはどのあたりでしょう。
映画では登場人物たちが病院に籠城するんですよ。それで中年男が暇だからって携帯でゲームを始めたり、男子中学生たちが「別の階に裸の女のゾンビがいるらしいから見に行こう」って策を練ったりするんです。緊張感を持続させるためには、そんな描写は無いほうがいいのかもしれないですけど。
──いったん籠城してしまったら暇なのは暇だと。
はい。そういう「普通いらないだろ」という部分も描かれているので、ゾンビ映画としての臨場感は増していると思いますよ。
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7月26日(土)より、シネマート六本木、シネマート新宿ほか全国順次公開
女子高生のあかりは幼なじみの親友・恵に失恋の悩みを打ち明けていた。他愛の無い会話に興じる2人の日常が一変する──。釣り人に突然襲いかかった男が2人にも襲い掛かって来たのだ。絶体絶命の2人を救ったのは1人のアイパッチの少女。少女はナギナタを振りかざし、Zと呼ばれる生ける屍たちを斬り倒した。3人は妊娠中のあかりの姉・香澄と合流し、市の総合病院へと向かう。病院はZたちに占拠されたかに思えたが、7階に少数の人間が立て籠もっていた。生き延びていたのはたった6人。襲いくるZたち、非日常下での異常な精神状態、香澄の死を賭した出産、そしてZ出現の謎──。果たして彼等は無事、生き延びることができるのか──!?
- 出演:川本まゆ、木嶋のりこ、田中美晴、佐藤永典
- 監督:鶴田法男
- 脚本:酒巻浩史・鶴田法男
- 製作:香月淑晴
- エグゼクティブプロデューサー:櫻井由紀
- 企画:小野誠一
- プロデューサー:鈴木伸明・西前俊典
- 制作プロダクション:Takujiクリエイト
- 製作:エスピーオー
- 原作:相原コージ「Z~ゼット~」(日本文芸社「別冊漫画ゴラク」連載)
「コージ苑」「サルでも描けるまんが教室」「ムジナ」など、日本ギャグマンガ界の重鎮的存在である相原コージが、満を持して描くゾンビ・パニック・ホラー「Z~ゼット~」。
発生初期、発生中期、発生後期の3段階でストーリーは展開されるが、その構成は毎回バラバラのオムニバス。また、ゾンビ化も人間だけには留まらず、細分化された肉体さえもゾンビとして襲ってくるという、まさに手の付けようのない状態。
一筋縄ではいかないゾンビ・ホラーの傑作誕生!!
相原コージ(アイハラコージ)
1963年5月3日北海道登別市生まれ。日本デザイナー学院まんが専攻科卒業。1983年、漫画アクション(双葉社)にて「八月の濡れたパンツ」でデビュー。ギャグマンガの方程式を覆す革新的な手法に定評がある。1989年、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載された竹熊健太郎との合作「サルでも描けるまんが教室」は、人気マンガの分析・パロディといった業界風刺的内容が話題を呼び、現在も根強い人気を誇る。また、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて同じく竹熊健太郎とともに審査員を務めた「相原賞」は、榎本俊二やほりのぶゆきなど後に人気マンガ家となる新人を数多く輩出した。近年は「漫歌」「真・異種格闘大戦」「下ネタで考える学問」などを発表し、現在は別冊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「Z~ゼット~」を連載中。2013年に画業30周年を迎えた。
(c)2014 相原コージ/日本文芸社・エスピーオー