コミックナタリー PowerPush - 相原コージ「Z~ゼット~」

ギャグの求道者が挑むゾンビホラー 大根仁が「なぜ今」の理由を聞く

「ああそっか、俺、最初から迷走してたのか」って(相原)

大根 僕は割とハートが強いんで2ちゃんも見ますけどね。ネガティブな意見も、見てみると「君はそう思うんだろうねー」ってくらいで。だいたい作ってる気持ちのほうが強いですし、たいてい気付いてるじゃないですか、作りながら、突っ込まれそうなことっていうのは。だからどれも想定内っていうか。

相原 まあそうなんですけど……でも(書き込みへの)反論が頭の中をグルグルと回るんですよ。といって実際に反論できるわけじゃないんで、反論が脳内で回り続けて作品にエネルギーが行かなかったりしましたね。いまはTwitterやってるんで、そこで自分のことを検索したりはしてますけど。Twitterに書かれてることぐらいだったら大丈夫。

大根 「Z~ゼット~」の反応はどうでした?

「Z~ゼット~」第1話が掲載された、別冊漫画ゴラク2012年1月号。

相原 いろんなマンガ家さんが反応してくれたのが嬉しかったですね。江口寿史さんとか吾妻ひでおさんとかが面白いと言ってくれたり、すぎむらしんいちさんなんかは、あちこちの店を回ってようやく別冊漫画ゴラクを見つけて買ってくれたみたいだし。あと「相原さんに良かったと伝えてください」って直接編集部に電話を掛けてくださったマンガ家さんもいたみたいです。

大根 やっぱり始まった時の衝撃は大きかったですよ。相原さんがゾンビを描いてて、しかもめちゃくちゃ面白いっていう。

相原 大根さんは以前、ラジオで「真・異種格闘大戦」を紹介してくださったんですよね。たまたま聴いてたんですけど、そのとき「最初から迷走している作家・相原コージ」みたいなことをおっしゃってて。「ああそっか、俺、最初から迷走してたのか」って(笑)。

大根 ははは、失礼しました。

相原 いやいや、ありがたかったです。

オリジナリティやテクニックがなくても、なんとか戦える方法はある(大根)

大根 今回対談させていただくというので久々に相原さんの作品を読み直しまして、少なからず影響を受けてたんだなって気付いたんです。

相原 それはどの辺り?

大根仁

大根 僕は才能というものに非常にコンプレックスがあって。たぶん自分には才能らしきものは何にもないんですね。でも自分が影響受けてきたモノとか、他人の才能と才能をくっつけるという作業はすごく向いてるなというか、それがすごく好きで。相原さんもそうだって話じゃないんですけど、圧倒的なオリジナリティやテクニックがなくても、なんとか戦える方法はあるっていう、それを教えてくれた人だと思っていて。邪道には邪道の戦い方がある、みたいな。

相原 僕もまさにそんな感じですよ。やっぱり絵が上手いわけでもないし、構成やストーリーが得意なわけでもない。だったら、せめてほかの人がやっていないことをやることで、何かを見せるしかないなっていうのはありますね。

大根 「ムジナ」のとき、実験シリーズってやってらっしゃいましたよね。ストーリーは普通にそのまま進んでいるんだけど、突然筆で描いてみたり、特殊なコマ割りにしてみたり。

相原 あれは相当歪んだ作品なんですよね。それまでずっとギャグ描いてたのがストーリーをやることになって、そしたら実は制約があるじゃないですか、主人公は殺しちゃダメとか、ピンチはうまく切り抜けちゃうとか。なんかそういうのに忸怩たるものがあって。あとやっぱり編集との関係とか。

大根 関係というのは?

相原 ギャグのときは作家の感性に任せるところが大きいんですけど、ストーリーとなるといろいろ口出してくるんですよ。「こんなにうるさく言われるのか」ってうんざりしていたところもあって、ここだけは好き勝手やれるっていう領域が欲しかったんです。それであれを勝手に始めちゃったっていう。ネームの段階ではああいうことは一切やってなくて、原稿ではたとえば全部筆で描かれてるみたいな。

新しくて、しかも笑えて、たまにキュンとなるというゾンビマンガ(大根)

大根 あれ内緒でやってたのはすごいな。いやでも久々に読み直したら、終盤のくだりはやっぱりすごかったです。実験やりながらストーリーはちゃんと読ませてるっていう。

相原コージ

相原 そうですね、組み立てつつ破壊するみたいなことをやっちゃってましたね(笑)。

大根 業種は違えど、僕も若干気持ちはわかるんです。僕も新しいものをやるとき、それまで人がやってない技法を必ず1個取り入れてみるようにしていて。何でもいいんですけど。「モテキ」ってドラマやったときは映像用のカメラじゃなくて、デジタル一眼のムービー機能で撮ってみるとか。あと編集をいままでやったことない素人にやらせてみたりとか。まあそんなことばっかりやってるから、深夜ドラマしかやれなくなっちゃったんですけど(笑)。

相原 それも実験シリーズじゃないですか。僕と同じなのかな、そうすると。

大根 だから、そんな相原さんが「ゾンビもの」というメインストリームなジャンルに突っ込んでいって、どういう戦い方を見せてくれるのかをすごく楽しみにしてます。巷にあふれるゾンビマンガとは一線も二線も画している新しいゾンビマンガで、しかも笑えて、たまにキュンとなるという作品なのでね、これ読んでる人は買うように!

相原 いやー、読んでほしいですね。ほんと、ほかに言いようがないけど。ここのところ重版というのに縁がなかったのでね、この「Z~ゼット~」では、かかるといいなあと思ってます。

「Z~ゼット~」書影
「下ネタで考える学問」書影

相原コージ サイン会開催!

相原の「Z~ゼット~」1巻が日本文芸社から、「下ネタで考える学問」が双葉社から4月26日に同時発売された。この新刊発売と、今年が相原の画業30周年にあたることを記念して、5月12日にSHIBUYA TSUTAYAでサイン会が開かれる。詳細は下記と、SHIBUYA TSUTAYAの公式ページで確認しよう。

相原コージ サイン会

日時:2013年5月12日(日)13:00~
会場:SHIBUYA TSUTAYA 7Fコミック売場
定員:先着100名
整理券配布開始日:2013年4月26日(金)
参加方法:「Z~ゼット~」1巻、または「下ネタで考える学問」のどちらかをSHIBUYA TSUTAYAで購入

相原コージ「Z~ゼット~」/ 2013年4月26日発売 / 620円 / 日本文芸社
あらすじ

「コージ苑」「サルでも描けるまんが教室」「ムジナ」など、日本ギャグマンガ界の重鎮的存在である相原コージが、満を持して描くゾンビ・パニック・ホラー「Z~ゼット~」。

発生初期、発生中期、発生後期の3段階でストーリーは展開されるが、その構成は毎回バラバラのオムニバス。また、ゾンビ化も人間だけには留まらないし、細分化された肉体さえもゾンビとして襲ってくるという、まさに手の付けようのない状態。

一筋縄ではいかないゾンビ・ホラーの傑作誕生!!

相原コージ(あいはらこーじ)
相原コージ

1963年5月3日北海道登別市生まれ。日本デザイナー学院まんが専攻科卒業。1983年、漫画アクション(双葉社)にて「八月の濡れたパンツ」でデビュー。ギャグマンガの方程式を覆す革新的な手法に定評がある。1989年、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載された竹熊健太郎との合作「サルでも描けるまんが教室」は、人気マンガの分析・パロディといった業界風刺的内容が話題を呼び、現在も根強い人気を誇る。また、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて同じく竹熊健太郎とともに審査員を務めた「相原賞」は、榎本俊二やほりのぶゆきなど後に人気マンガ家となる新人を数多く輩出した。近年は「漫歌」「真・異種格闘大戦」「下ネタで考える学問」などを発表し、現在は別冊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「Z~ゼット~」を連載中。2013年に画業30周年を迎えた。代表作の4コママンガ「コージ苑」は2013年4月より文庫化され、3カ月連続で刊行される。

大根仁(おおねひとし)
大根仁

1968年生まれ、東京都出身。演出家、映像ディレクターとしてさまざまなドラマやビデオクリップを手がける。代表作は「演技者。シリーズ」「週刊真木よう子」「湯けむりスナイパー」など。2010年夏に放送されたドラマ「モテキ」のヒットによりその名を広く知られるようになる。2011年、映画監督デビュー作となる映画版「モテキ」が公開され大ヒット。2013年1~3月には脚本・演出を務めたドラマ「まほろ駅前番外地」が放送され、深夜ドラマでは異例のギャラクシー賞を受賞した。先頃公開された監督第2作「恋の渦」が7月6日より渋谷シネクイントにてレイトショーで再上映される。