「ばくおん!! 台湾編」を読んだバイク乗りは気軽に旅行してほしい(梅澤)
──ヤンチャンLive!では、まず人気作のスピンオフ3作品がスタートするということなんですが、掲載タイトルで気になったのはおりもとみまなさんの「ばくおん!! 台湾編」です。この「台湾編」というのは……?
浅井善行 「台湾編」に関してはBookLive!の社内でも、「なんで台湾?」って話題になりました(笑)。
梅澤丈文 (笑)。きっかけはですね、「ばくおん!!」がアニメ化されたときに、作品の担当編集と、アニメ制作スタッフさんが「もし『ばくおん!!』でアニメオリジナルストーリーの作品を作るなら、舞台は海外が良いですね」って話をしてたらしいんです。
浅井 なぜ海外なんですか?
梅澤 巷で「『ばくおん!!』がタイトルを参考にしすぎなのでは」と言われてる「ひらがな4文字タイトルの某大人気JKバンド作品」があるじゃないですか。
浅井 はい(笑)。
梅澤 その作品の劇場版アニメが、主人公たちがロックの聖地であるイギリスのロンドンに行くっていうオリジナルストーリーなんですよ。だから「ばくおん!!」もアニメオリジナルをやるなら舞台は海外、同じ聖地でもこっちはイギリスのTTレースで有名なマン島がおもしろいんじゃないか、みたいな。
──なるほど(笑)。
梅澤 それはその場限りのネタというか冗談だったらしいんですが、それでもずっと「ばくおん!!」で、海外のバイク事情を取り上げたいという考えは担当編集の頭の中にあったみたいで。
浅井 でも今回はイギリスではなく台湾なのは?
梅澤 台湾は元々ものすごいスクーター大国で、実はそのバイク事情は日本のバイク好きにとっても興味深い点が多いんですよ。製品のクオリティが低いって言われていた時代もありましたが、今や世界的なシェアも高く、海外の高級メーカーや日本のメーカーでも台湾のスクーター会社の製品をOEMに採用しているケースもあります。また台湾では2035年にはガソリンエンジンの新規製造販売を禁止する方針を打ち出していて、現在、台湾島の中でも電気バイクのための充電施設のインフラ整備が日本以上に進んでいる。そういった事情を「ばくおん!!」に取り入れていくというのは、テーマとしてはありなんじゃないかなって。
浅井 バイクネタが豊富なんですね。
梅澤 それに日本の運転免許証があれば、台湾でバイクを運転するハードルは意外に低いんですよ。ロードサービスのJAFの支部に行けば3000円~4000円ぐらいで台湾内での運転に必要な書類を用意してもらえるんです。現地ではレンタルバイクもたくさんあるし。そういった要素も作品で触れています。
──そう聞くと台湾に行ってみたくなる人はいそうですね。
梅澤 「ばくおん!! 台湾編」を読んだバイク乗りが「ちょっと台湾行ってみるか」と思ってくれたらいいよね、という話は編集部とおりもと先生との間でもさせていただいております。「『千と千尋の神隠し』のロケーションに似てる場所があるらしいじゃん」とか「食べ物も美味しいらしいじゃん」という感じの、気軽な好奇心をきっかけに台湾行ってみてもらえるとうれしいですよね。
浅井 「ばくおん!! 台湾編」のストーリーとしては、いつものメンバーが台湾に行くという感じですよね。
梅澤 はい。何も考えずに行ってみたら、いろんな台湾のことを知るみたいな。
浅井 みんなで美味しいものを食べたりしながら。
梅澤 そうですね。でもそこは「ばくおん!!」の子たちですから……普通のJKが喜ぶ食べ物とは違ったものを食べたりするのかもしれませんね(笑)。
見どころは「スピンオフで見えてくる作家さんと作品の新しい魅力」(梅澤)
──春輝さんの「初めてのセンセ。」はヤングチャンピオンで連載中の「センセ。」のスピンオフですね。
梅澤 名門女子高に勤めている唯一の新米男性教師、佐藤真先生が主人公。彼の周りには可愛い生徒たちに加えて教師も校長先生も美人ぞろい。おかげでエッチなハプニングが起きたり、妄想がはかどってしまうという作品です。本編で、その真先生を大胆に誘惑する長谷川史枝という女教師がいます。彼女がこのスピンオフの主人公です。
──「センセ。」の佐藤先生は妄想内でさまざまな女性とエッチなことになりますが、長谷川先生に関しては現実で色っぽい因縁がありそうですね。
梅澤 実は佐藤先生が高校時代、教育実習生だった長谷川先生と知り合っていた……というのは本編でも少し触れているんですけど、今回のスピンオフではこの2人の関係にまつわる“初めてづくし”の様々なエピソードが明らかになっていく予定です。「初めてのセンセ。」というタイトルはそういったところから名付けられています。
──もう1本、艶々さんの「黄昏のエトス」についても聞かせてください。
梅澤 こちらは別冊ヤングチャンピオンで連載中の「落日のパトス」のスピンオフですね。こちらも教師ものです(笑)。
──「パトス」のほうは主人公でマンガ家のアキくんの隣に、彼の高校時代の憧れの先生が引っ越してきたけど、現在は教師を辞めて人妻になっていて……というお話です。
梅澤 その日常的なエロスを描いているんですけど、スピンオフ「黄昏のエトス」はヒロインの仲井間真先生の教師時代の物語ですね。艶々先生は大人の女性を描くのを得意としていますけど、大人の女性ということはやっぱり、当然ですが過去がある。
浅井 気になる過去が。
梅澤 スピンオフだけでも1人の女性の物語としても楽しめますし、過去を知れば本編ももっと楽しめるのではないかと。
──教師時代ということは、彼女の生徒だった本編の主人公・アキくんの学生時代も出てくるんでしょうか。
梅澤 そこはお楽しみということで(笑)。
──艶々先生も春輝先生も、さまざまな雑誌で多くの作品を描いてます。そんな中での新たな連載はすごいなと。
梅澤 非常に人気の先生方なので、スケジュールをいただくのが難航してしまったりとかはあったんですけど、おふたりとも作品にかける情熱は本当にお強い方々です。もちろん「ばくおん!!」のおりもと先生も。先生方のご尽力あってこその企画実現ですね、本当に。
──ヤンチャンLive!が始まるにあたって、まずこのお三方が選ばれた理由というのはどこにあるんでしょうか。
梅澤 やはりまず、できるだけ実績のある方。それと本編の作品がありつつ、スピンオフを描ける力量がある先生ということですね。
──キャラクターを掘り下げられる力がある。
梅澤 やっぱりコンテンツってキャラクターだと思うんですけど、そのキャラクターの部分をどれだけ広げられるのかという。
──BookLive!側から見て、ヤンチャン的なコンテンツというのは魅力を感じますか。
浅井 そうですね。今回スピンオフが始まる先生方も、電子ですごく人気がある作家さんなので、今回こういった取り組みをさせていただくのはありがたいですね。すでにファンがついている方ですから。
最初は秋田書店内で反対意見もあったと聞いてます(浅井)
──これらのマンガが読める、ヤンチャンLive!についても聞かせてください。そもそもどういった経緯で始まった企画なんでしょう。
梅澤 そうですね、まずヤングチャンピオン編集部の中で「新しく電子書籍の市場を意識した新媒体をやりたい」という話が立ち上がりました。そこで「今から電子の市場に食い込むにはどういった形がいいんだろう?」とアプローチの仕方を模索した結果、電子で経験と実績を持ってるビジネスパートナーということで、BookLive!さんと組ませていただくことになりました。
浅井 その後、ヤンチャンLive!では人気作のスピンオフを紙より1話早く配信しようということになったんですが、この形式に関して、最初は秋田書店内で難色も示されたとは聞いています。
梅澤 やっぱり紙の雑誌って今非常に厳しい状況なので、電子書籍のほうにお客を取られてしまうんじゃないかっていう心配は当然としてあります。ただ、BookLive!さんと組むことで得られる効果のほうが大きいということは、みんな直感的にわかっているとは思うんですよ。
──それでもやはり「紙の雑誌の客が電子版に流れるかも」という心配は確かにありますよね。そこはどうやって説得したんでしょうか。
梅澤 雑誌の売り上げは確かに落ちるかもしれないですが、先ほど申し上げたように、「BookLive!さんとの協業で得られるもののほうがはるかに絶大ですよ」ということを改めて説明したら納得してもらえました。得られるものというのは、単純に「人気作のスピンオフだから売れますよ」という話ではなくて、BookLive!さんでスピンオフをやることで本編も盛り上がりますよと。単純に露出も増えれば、タイトルの知名度も上がりますから。
──雑誌以外でBookLive!でもタイトルを目にすることにもなるし、「スピンオフが始まる」ということ自体、ニュースにもなりますからね。それにスピンオフがあると、ストーリーにも深みが出ると思います。
梅澤 そうですね。そうやって作品自体が盛り上がることは売り上げにも繋がりますし、それは我々にとってもBookLive!さんにとってもプラスに繋がりますよ、というところが、最終的な決め手だったんじゃないかと思っています。
──「本編が売れてるんだからスピンオフも売れますよ」ではなくて「スピンオフが出ると話題性もあるし、作品自体が盛り上がりますよ」と。
梅澤 それが雑誌にも跳ね返ってくるはず、たぶんくるだろう、いや、きます!みたいな(笑)。そうやって一歩一歩進めていったという感じです。
──ヤンチャンとタッグを組むことが決まり、BookLive!さん側からは何か提案をされたんでしょうか。
浅井 紙との連携をするならどういう形にするのが面白いのかを考えて、「雑誌より1話先行で読めるようにしましょう」というのはこちらからですね。単純に電子化するよりは、何か新しいことをやったほうが両者にとって面白いだろうと。
──ヤンチャンLive!掲載作品についてリクエストはあったんでしょうか。
浅井 「この作家で」「この作品で」という伝え方はしてないですね。「こういったテイストのもので」というお話の仕方でした。
梅澤 リクエストではないですが、春輝先生の「初めてのセンセ。」というタイトルづけについてはBookLive!さんからアドバイスをいただきました。「センセ。」は以前、別冊ヤングチャンピオンでもスピンオフを連載していたんですよ。そのときのタイトルが「センセ。 SPECIAL EPISODE」というものなんですけど……。
浅井 そのタイトルの付け方だと、「センセ。」のスピンオフだということはわかるんですけど、本編を知らない人が手を出しづらいかなと。
──確かに「初めてのセンセ。」なら、本編を知らない人でも単純にこういうタイトルだと思うし、知っている人は「センセ。」関連作だということがわかりますね。
梅澤 やっぱりスピンオフをやるからには、普段本編の存在に気付いてらっしゃらない人たちにも訴求したいという狙いがあるわけですから。